第百九十六話 「あ、はい。またいつでもお越しください」
今月第三話。
「えっと、確かリサさんでしたよね。お久しぶりです」
「はい、覚えていてくれたのですね」
「あ、こちら教会のシスターのリサさん、そしてこっちは冒険者仲間のドロシーです」
俺は二人を紹介した。なぜか知らないが少し気まずい。
「ドロシーさん、シスターのリサ・ロストシープです。よろしくお願いいたします」
「ドロシーです」
二人は軽く自己紹介をした後に手を交わした。ドロシーが少しむすっとしているがよくある事なのでスルーした。
「それで今日は教会に何か?」
「いえ、仲間の騎士がここで騎士昇格の儀式を行っていまして、その間俺達は教会内を散歩していたところです」
「今日の儀式…もしかしてビーン様ですか?」
ジャックの事はもうすでに職員に知れ渡っているようだ。
「ええ」
(それにしても、あいつが様呼びされるとはな)
騎士になると教会内の位も少し変わるらしく、特に騎士団団長になるとかなり上の立場になるらしい。
「よろしければ私が教会のご案内いたしましょうか」
「いいんですか」
「もちろんです」
それからは三人で教会内を散策した。教会のシスターが案内してくれているおかげで結構詳しく教会内の事が知れた。
「タナカさん、あの後お悩みは解決されましたか?」
図書館に案内している所で誰にも聞かれないようにリサさんは小声で話しかけてきた。
「いいえ、残念ながら。でも、少しですけど近づけました」
「そう…ですか」
リサさんは申し訳なさそうに落ち込む。
「でも、大丈夫です。きっと解決します」
俺は一人じゃない。仲間もいるし、頼りになる先輩達もいる。
「お、こんなところにいたっす」
「ジャック、儀式は無事終わったのか」
「うす、ばっちりっす」
これで正式にジャックは教会所属の騎士になった。後は教官から声がかかるまで待つだけだ。
「それにしても、騎士になったからと言ってあんまり変わらないのな」
「変わっているっすよ。ステータス上の職業欄が騎士に変化したっす」
まさかそれだけってことはないと思うが変化するのはこれからなのだろう。
「あらジャック儀式終わったの?」
本に集中していたドロシーは今になってジャックの存在に気付いた。
「終わったすよ。騎士の儀式これがすごいんす。まず…」
「終わったのなら帰りましょう」
ジャックの話を一切無視してドロシーはすたすたと正門の方へ歩いていった。
「っちょ、ヒロシ~」
「分かった俺が聞いてやるから。リサさん案内ありがとうございました。今日は俺達これで帰ります」
ジャックを慰めつつリサさんに礼を言ってその場を後にした。
「あ、はい。またいつでもお越しください」
いつの間にか騎士になるジャック。