第百九十話 「おい、お前たち何をしている!」
今月第二話。
「痛ツゥ」
唇が派手に切れ、タラリと血が流れ出てきた。
戦士風の男が着ている胸当ての右胸部分に黒色で双頭の狗の紋章が描かれていた。
それはこの町、ブィンドを本拠地にしているギルド、オルトロスの紋章。
(相手はオルトロスか。厄介だな。相手は三人、周りの人だかりが邪魔で逃げられない)
「てめ…」
「ジャック!」
殴られたことで剣に手をかけようとするジャックを俺は制止した。ここで剣を抜いてしまったら、先に手を出したこちらがさらに悪く映る。
冒険者同士の争いはタブーだ、こんな人前で争ってしまったらギルドからどんな処罰を言われるかわからない。出来るだけ穏便に収めたいところだが。
「うちの魔導士が手を出してすまなかった」
ポタポタ
頭を下げた勢いで血が数滴地面に垂れた。
(これで気が済めばいいが)
「プアハハハ、だっせぇ。殴られてさらに頭下げるとかプライドがねぇっしょ!」
大男の隣にいる頭に緑のバンダナ、茶髪の盗賊風の青年があざ笑った。
「新人殺しを倒したルーキーって聞いたからどんな豪傑だと思えば、蓋を開けたらビビりのひな鳥だったな。ガハハハ」
立ち位置的にパーティーリーダーの戦士風の大男も一緒に笑った。唯一背に弓と矢筒を背負っている狩人風の男だけが少し申し訳そうにこちらを見ていた。だからと言って何かしてくれるわけではなさそうだ。
「おい女、今でも遅くねえこんな腰抜け野郎どもの仲間になるより俺達に付いてきた方がいいぜ。俺達はギルドオルトロスのメンバーだ。そっちの弱小ファミリアとは違っておいしい思いが出来るぜ」
「…ヒロシ」
ドロシーのビンタ分の拳も受けた。頭を下げ、嘲りも我慢した。もういいだろう。
ケビンさんのファミリア、自分達の家族を笑われて黙っていられるほど俺は大人じゃない。
「すまないがこれ以上うちの魔導士を困らせないでくれ」
俺は血を手の甲でぬぐい、頭を上げた。
「なんだと。てめえ!」
礼は尽くした、これで引き下がらないなら仕方がない。ケビンさん達も分かってくれるだろう。
「たかが一ファミリアがギルドオルトロスに喧嘩売るってのか!」
大男は背の斧に手をかけた。後はタイミングの問題だな。頼むからジャック堪えてくれよ。今にも剣を抜こうとするジャックが横目に見える。
「いちいち主語がでかいな。これは俺達とお前達の問題だろ」
タイミングを見計らってとどめの挑発をした。
「上等だ。覚悟しろよ!」
予想通り大男とバンダナ青年はそれぞれ斧と短刀を抜いてくれた。場が一気に緊迫する。
「おい、お前たち何をしている」
人だかりからベールさんと秘書のパークさんが出てきた。
今年もあとひと月。