第百八十六話 「あ、それよりこれっす。これがヒロシの冒険者カードっす」
今月第三話。
「それじゃあ、俺とドロシーは一階で待ってるっす」
「ああ、ドロシーにギルドを案内してあげてくれ」
ベール支部長が俺にまだ話があるというので部屋に残った。
「すまないね」
「いえ、それで話とは何でしょう?」
「ああ、何大したことではないただ一つ忠告をだな。それにしても冬越え熊に続いて新人殺しか。冒険者としては順調だな」
ベールさんは懐かしむように話し始めた。
「ありがとうございます」
「新しい仲間…か。ヒロシは魔導士についてどれくらい知っている」
「あまり詳しくはないですね。魔法が使えて主に後方支援を得意とする職業くらいの認識しかありません」
これまでも何人か魔導士には会ったことがある。ファミリア内だとラウラさんやミャオさんが魔導士だ。
「そうだな。ほとんどの魔導士のパーティー内の役割はそうなる。魔導士はそこまで珍しい職業ではない。ただし戦士や剣士など誰にでもなれる職業でもない。特に魔力の高い魔導士は注意する必要がある」
なるほど、支部長は魔導士として高い評価を得たドロシーの事を気にかけてくれているのだろう。
「特にあの子は洋紅族だからな」
「洋紅族?」
初めて聞いた種族の名前だ。てっきりドロシーはヒューマンだと思っていた。
「なんだ知らなかったのか。洋紅族は少数種族で赤い髪に赤い瞳が特徴の種族だ。そして魔力が異様に高い」
ドロシーが魔法で姿を変えていた理由は種族特有の外見を隠すためだったのか。
(なるほど、あのとんでもない魔素量と魔法の威力は種族特有だったってわけだ)
「有名な魔導士の何人かは洋紅族だ」
ベールさんはさらに話を続けた。
「これは魔導士だけの話ではないが優秀な者は狙われやすい。この町でケビンのファミリアに喧嘩を売るような奴はあまりいないと思うが念のため気を付けとけ。そして、自分の仲間の事くらい少しは知っておけ。俺の話はこれだけだ」
「はい。ありがとうございます」
冒険者ギルド総括会 ブィンド支部 一階
「お、来たっす」
一階でジャックとドロシーが待っていた。
「何の話だったの?」
「うん、大したことじゃないよ。ただ、ちょっと注意されただけだ」
詳しい話は後で話そう。
「?」
「あ、それよりこれっす。これがヒロシの冒険者カードっす」
ジャックから新しい冒険者カードを受け取った。中級に上がったことで冒険者カードの色が茶色から銀色に変わっていた。
優秀な人材はどこの業界でも貴重。