第十六話 「いや。別ーに。」
遅れてすみません。
「はい。これ裕君の分ね。」
エイラさんから朝ごはんが乗っているトレーを受け取る。今日の朝食は白米、焼き魚にコーンスープだ。シャルル王国の食文化は和と洋の両方だった。米に似ている穀物が異世界でもあってとても助かった。食文化も元居た世界と似ていたのは幸運だと思う。箸やフォーク、ナイフなどの食器もあった。
「いただきます。」
「裕君。それは宗教的な作法なのか。」
隣に座っていたケビンさんが俺の食前の挨拶について聞いた。
「いえ。これはただの挨拶です。命を頂く事に感謝の意を込めての。」
「なるほど。自分の糧にする命に感謝しているという事か。いい習慣だな。これからは私も使わせていただくよ。」
「はい。是非。」
「それで、職業はもう決めたのかな。」
「はい。忍者にしました。余っていたレベルポイントも使いました。習得したアビリティは…」
そこで、ケビンさんが手で話を遮った。
「待った、裕君アビリティの事は気安く他人に伝えるものではない。」
「え!でも、これから同じファミリアに所属する仲間じゃないですか。アビリティやスキルを教えてもいいと思ったんですけど。」
俺は正直に思った事を言った。
「冒険者にとってステータスは生命線ともいえる大切な物だ。特にアビリティやスキルはステータスの中でも特に重要だ。たとえ、同じギルドやファミリアに所属していても気安く言わないほうがいい。アビリティやスキルなどは一緒に何回も冒険する中で知るものだ。」
「そうなんですね。」
「ああ。冒険者にとってステータス関連の情報は時に金貨数十枚の価値になる事もあるからな。それでも冒険者初心者の裕君はスキルやアビリティについて分からない事が多いと思う。質問があったら尋ねてくれればいい。ただ、用心は忘れずにな。」
自身の身は自分で守る事が常識なセロでは情報はかなり高価になるものらしい。情報管理も自衛の1つなのだろう。
(これからはむやみにアビリティやスキルの事は言わないほうがいいな。)
ちなみに、セロの通貨事情は紙幣ではなく貨幣になっている。上から金貨、銀貨、銅貨、鉄貨、石貨になっている。金貨が1万円相当で、それから千、百、十、一と下がっていく。石貨なんてそこらの石と同じじゃないかと思ってるかもしれないが、この石貨ただの石ではなく。魔石のかけらで出来ている物らしい。魔石はセロでは日常的に目にする物だ。いや、厳密にいえば魔石ではなく魔石に魔法を刻み付けた魔法石なのだが。魔法石と魔石の事の説明は長くなるのでまた今度にしようと思う。
「あ。じゃあ、アビリティに木刀術レベル0があったんですけど。取ってないアビリティなんですけど。これはどういう事ですか?」
カラン
俺が質問すると目の前に座っているエースさんがスプーンを落とした。なぜか、少し動揺しているように見える。
「なろほど。裕君は木刀術を習得したか。レベル0って事は裕君毎日木刀を振ってるな。」
「ええ。木刀は毎日空いた時間に振っています。たまにエースさんに教わってりもしてます。」
「エース君からか。アビリティ習得する方法は2つある。1つはレベルポイントを消費して習得する方法。もう1つは他人から教わる方法だ。ただし、レベルポイントを消費して習得した場合はレベル1から、そして、他人から教わった場合はレベル0からになる。」
「へー。そうなんですか。エースさんとたまに木刀振ってただけで習得したんですね。エースさんありがとうございます。」
俺は目の前で朝食をとっているエースさんに礼を言った。
「い、いや。いいって事ーよ。」
なぜか、歯切れが悪い返事が返ってきた。
「どうかしましたか?」
気になったから聞いてみた。
「いや。別ーに。」
これまた、中途半端な返事だ。気になったが、ここはスルーする事にした。
(まあ。何かあればエースさんから言うだろう。)
その後、俺とケビンさんは朝食を食べ終え、ギルドに出かける準備をした。
魔石と魔法石の説明は少し長くなりそうなのでまた今度にします。