第百八十三話 「すまないな。場所を何度も変えて」
今月4話目。
「冒険者のお二方お連れしました」
扉が開き上半身裸の獅子男が入ってきた。その後ろにジャックとドロシーの姿が少し見えた。
「うむ。ありがとう、ヴァロー」
「ライオネルさん何度も言わせないでください。ギルド内では服を着てください」
パークさんが大剣を背中に担いでいる獅子の獣人を注意した。鞘なしの大剣はベルトで固定されており、簡単に抜けるように出来ていた。
「すまん、すまん。久しぶりに熱くなる試験だったからな」
よくわからない言い訳を言ってあまり悪びれるつもりのない隻腕の獣人は残った右手で頭を掻いた。
獅子男の身長は2m前後ありそうだ。話を聞いた限りギルドの試験官だろう。裸の上半身と顔にも数か所古傷が見える。おそらく怪我のせいで一線を退いた元冒険者だろう。
「それでは俺はここで。ドロシー、ランクの件は支部長に言ってくれ」
試験官、ヴァロー・ライオネルはジャックとドロシーを残し部屋を出た。
「二人とも来て早々申し訳ないが場所を移させてもらえるか」
支部長室に行く間ドロシーに試験の事を聞いた。
「それで、試験はどうだった?」
「もちろん合格したわよ。でも、あの試験官変なこと言いだすんだもん」
「変なこと?」
ドロシーは少し不機嫌に話を続ける。
「ええ、あたしの魔力が通常の魔導士より高いからEランクじゃなくてDランクに上げようって」
「ああ、なるほど」
ドロシーが騒いでいた理由がようやく分かった。ドロシーは冒険者登録後、俺達とパーティーを組む予定だった。ただ、パーティーを組める冒険者ランクは一ランク差まで。つまり、DランクだとFランクの俺達とはパーティーを組めなくなる。Dランクになってしまうとドロシーはソロか新たに誰かと組むしかない。
(最悪俺達がEランクに上がるまでソロで活動してもらうかラウラさん達に頼んで一時的にブレーメンバンドに入れてもらうか。しかし、魔力がDランク相当とはな。…高いとは思っていたが)
ベール支部長に頼めばEランクに留めてくれるだろう。ドロシーは冒険者になり立てだし。
ガチャ
冒険者ギルド総括会 ブィンド支部 支部長室
「さあ、好きな所に掛けてくれ」
「飲み物は紅茶とコフィどちらがよろしいでしょうか」
ソファーに腰掛ける前に秘書のパークさんが飲み物を尋ねてきた。
「コフィで」
「あたしも」
「俺も」
三人そろってコフィを要望した。
「かしこまりました」
パークさんは部屋の隅のある飲み物スペースに向かった。
「すまないな。場所を何度も変えて」
新キャラクター、ヴァロー・ライオネル登場。獅子の獣人です。