第百七十九話 「うす」4
今月第二話。
4月15日 7:00
ズキ
「痛ツウー」
宴会の次の日、予想通り俺は二日酔いになっていた。起きると頭痛と気怠さ、吐き気に襲われた。
(くそ、気を付けようとは思っていたがあの場じゃあ断れないしな。何か代わりの飲み物を探さないとな)
「よいしょっと。忘れ物はないな」
たった数日だがなんかすごく長い時間居たような感覚がする。宿屋の1室を見渡し、下に降りた。
「おはようございます」
下のリビングではヘンリーさんとジャックが談笑していた。
「おはようございますタナカさん。よろしければ朝ごはん食べて行かれますか」
ヘンリーさんは立ち上がり、台所から卵焼きと焼き魚の定番朝ごはん
を盆に乗せて持ってきてくれた。
「すみません、ではお言葉に甘えさせていただきます」
ドロシーはまだ寝ているのかな。昨日かなり騒いでいたからな。
「それで、ドロシーは役に立っていましたかな」
「はい。正直あそこまで魔法が使えるとは思っていませんでした」
俺は正直に思ったことを話した。おそらくヘンリーさんはお世辞とかではなく本音が聞きたいだろう。
「そうですか。あの子が…」
「…実はわしとあの子は本当の親子じゃないんです」
ヘンリーさんは話を続けた。
「私が冒険者をしていた頃この村で拾った。捨て子じゃった。それからわしは冒険者をやめ妻とその子を育てることを決心した。血の繋がりがなくとも本当の娘と思い育ててきました。妻にも先立たれわしにはあの子が全てじゃ」
「親ばかに思われるかもしれませんがあの子は本当に良い子に育ってくれました。あなた方になら安心して任せられる。…お願いしますあの子を共に連れて行ってはくれませぬか」
深々とヘンリーさんは頭を下げた。きっと悩みに悩んだ末に決めた事なのだろう。頭を下げたヘンリーさんの体は少し震えていた。
「ちょ、よしてください。頭上げてください」
「そうっす」
「それに冒険者になるかはドロシーが決める事です。昨日、ドロシーは冒険者の現実が垣間見えたと思います。それでも冒険者になりたいならブィンドにあるファミリアサンダーバードに訪れるよう伝えてください」
冒険者になるのも俺達のパーティーに入るのも決断するのはドロシー本人だ。
「…ごちそうさまでした。行くぞジャック」
「うす」
俺とジャックは宿屋ウィンドミルを後にした。
後はドロシーの選択のみ。