第百七十六話 「!」2
今月第二話。
セロでの経験値の概念は何かしらの経験もしくは学びの中で得るものだ。よくある|ロールプレイングゲーム《RPG》とは違い完了後に得るものではない。書物を読む事や物づくりからでも経験値を得ることが出来る。しかし、この世界では戦闘が特に高い経験値を得ることが出来る。
激戦の最中にステータスを開くバカはいない。故にヒロシは気付くことが出来なかった、戦闘の途中で自身のレベルが相手と並んだことに。
煙が薄くなり、だんだん周囲の状況が千里眼なしでも見られるようになった。当然それは相手のゴブリンの方も同じでこちらに気付いた様子だ。
「ギ、ギ、お前は絶対ゴロス」
けむり玉で目くらましに合い、外から石を投げ続けられたコブは怒り心頭にこちらを睨みつけていた。
けむり玉のおかげでだいぶ時間が稼げた。相手のステータスの謎もほとんど分かった。自分と酷似し、素早さ以外はこちらが少し上のステータス。
(答えはだいぶ前から解ってはいた。ただし、詳細が分からなかった)
「お前スキル持ちだな」
「!」
俺の言葉にゴブリンのコブはギョッとした顔で驚く。
(図星か。おそらく対象者1人に対して発動するスキル。効果は自身のステータスを相手より少し高い状態に変化させるってところだろう)
ジャックのステータスも含まれているのだったら、もっと防御力があったてもいいはずだ。
分からなかったのはスキルの発動条件だった。コブは俺に武器以外でまだ触れてはいない。ただこれもレベルで解決できる。条件が自分よりレベルが低い相手にのみ発動するといったものだったら。
おそらく、発動条件は1つだけではない。だが、いつの間にかクリアされていた。
(新人殺しとはよく言ったものだ。条件もそこまで厳しくなくてこれほど強いスキル持ちだったとはな)
どうりで新米冒険者ばかりが被害に遭うわけだ。出会った冒険者は運も悪いがレベルも低かった。いや、わざと自分達より弱い相手を選んでいた可能性もある。このスキルなら自分より低いレベルの相手に対してはほとんど無敵だっただろう。
(Eランク冒険者達が何も出来ずに倒されたこともこのスキルなら納得できる。おそらく対象にされた冒険者はパーティーの中で1番高かったがコブに比べて1、2レベル足りなかった。そしてこいつは俺よりレベルが高いってことだ)
槍の乱れ突きを俺はギリギリで躱す。俺の方が素早かったのはアビリティ脚力のおかげか。
(このスキルはアビリティの効果までは範囲内ではない)
そのおかげで今も俺は生きている。
(それでも結構いかれたスキルだけどな。レベルがこのまま上がり続けていけばいずれ誰も追いつけなくなってしまう)
ここで出会えたのは俺達にとっては不幸中の幸いだったのかもしれない。
ガンキンカンキンキン
槍と短刀の幾度もかの衝突。互いにこの戦いがもうすぐ終わる事は理解している。
あと数度の先に勝敗は分かれるだろう。
バキン
隣で轟音が響き渡る。ちらりと目を向けると巨体ゴブリンの大剣の1撃がジャックの盾を粉々に壊すところだった。
次回はジャックVSホブです。