第百七十五話 「ギ、ギ、ギ」
今月1話目。
カンキンカン
槍と短刀がぶつかり、小さな火花が飛び散る。数度のやり合いでお互いの手の内が段々と分かってきた。だが、せめぎ合いが続くほど1つの謎が俺の中で残留する。
(くそ、なんだこの自分より少し格上の相手をしている感じ。まるで、少し未来の自分と戦っている)
圧倒的に凌駕されるよりも少し格上の方が違和感を覚える。
相手であるコブの攻撃力、体力、スタミナ、防御力等々基本ステータスのほとんどが自分より少し上だった。
レベルが大きく離れ、全ステータスが上で圧倒されるのならまだ理解が追いつく。だが、ゴブリンのコブとレベル差がそこまであるとは思えない。
ほとんどのステータスがほんの少し、それこそレベル1個分ほど上のような感覚。あと少しで手が届きそうなのに空を切る。ただし、素早さだけが自分の方が少しだけ速い。
(そのおかげで今まで槍に当たらずに済んでいるわけだが)
レベルマックスになっている視力に最近やっと体が追いついてきた。目がよくても体が反応できなければ攻撃は当たる。敵のゴブリンの槍捌きは中々のものだ。それを俺は紙一重で躱し、時には短刀で弾きなんとか凌いでいた。
サク
十字槍の穂側面に付いている鎌にが左ほほを掠める。
「ッチ」
(考え過ぎたな。だが、この謎を解き明かさない限りこいつは倒せそうにないな)
後ろに飛びのいて、5歩ほどの距離を開けた。
当然、コブは距離を詰め寄ってくる。自分の間合いに常に敵を入れて戦う。基本的な戦い方だが大切なことだ。特に中距離や遠距離攻撃を持つ敵に対しては有効的な対処方法だ。
考えを止めるな、体を動かし続けろ。
(考えながら、戦う。これまでもやってきた事だが、当然敵が強ければ強いほど難しくなる)
少しの痛みで集中は散るし、動けば動くほど疲れも溜まる。
(これまでの使用アビリティから新人殺しの職業は十中八九槍使いだ。しかし、他のステータスが俺より上なのに素早さだけが劣っている。槍使いならスピードは大切なはずなのに)
相手の三連突きを俺は双剣で弾いていく。最後の1突きを捌き切れず俺の左肩部分を軽く抉った。
「ッツ」
致命傷は避けているがこのまま削られ続ければ、いずれ相手の槍は俺の急所に届くだろう。それまでにどうにかしなければな。
(電光石火は刺さりそうだが安易に使えない。使い時は大胆かつ冷静に。一気に決める時に手札は出来るだけ温存しとく)
「ギ、ギ、ギ」
コブも攻撃を躱し続けられてストレスが溜まっているようだ。ピースはもう揃っている後は少しだけ時間が欲しいな。
短刀を腰に仕舞い、瞬時にエクストラポケットからけむり玉を取り出し、コブに投げつけた。同時に後ろに数歩下がり、煙の範囲から離れた。
(千里眼発動!)
相手の位置を確認し、近くに転がっている石を拾いコブめがけて投げ込んだ。突然の目くらましから石での遠距離攻撃に合いコブはパニック状態になっている。
(これで少しは時間が稼げる)
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4章も後もう少しで終わりになります。