第百七十四話 「俺はコブ。お前ナカナカ面白いヒューマンダナ」
7月最終話。
奴らはゴブリンの生き残りを討伐した頃に来た。集落を燃やされ、同胞を皆殺しにされた怒りからくる殺意。姿が見えずとも肌を刺すような殺気。
「ヒロシ、ジャック何か来る!」
最初に声を出したのはドロシーだった。自分で出した炎の壁を越えてくる者を感じ取ったのだろう。
「ああ」
俺とジャックはアイコンタクトで頷きあい、前方に集中する。
「ウォオオオオー!」
怒声と共に彼らは現れた。2mを軽く超す巨体のゴブリンとその肩にもう1人小柄なゴブリンが乗っている。
巨体のゴブリンは炎の壁などお構いなしにそのまま進んできた。
(おいおい、やけどや痛みはお構いなしか)
炎の壁を越えた所で肩に乗っていたゴブリンは飛び降りた。隣に巨体のゴブリンがいるせいで一際小さく見えるがおそらく普通のゴブリンと同じくらいの大きさだろう。それなのに小柄のゴブリンから巨体ゴブリンよりプレッシャーを感じる。
巨体の方は火傷だけではなく無数の傷が全身にあった。おそらく俺の罠も炎の壁と同様力業で押し切ったのだろう。
(間違いない、こいつらが新人殺しだ)
「ゴレお前たちがヤッタノカ」
青のライトアーマーに槍を携えた小柄なゴブリンが話しかけてきた。
(西大陸語が話せるのか。意思疎通ができるほど知能が高いゴブリンがこんな集落にいたとはな)
どちらもゴブリンとしては異端、2人の登場で一気に場が異様な雰囲気を醸し始めた。
「だったらどうする?」
俺は挑発を込めて、返答した。
「キャキャキャ、ソウガソウガ。手間が省けダ。礼を言う」
仲間を殺されたはずの小柄なゴブリンは手を叩いて喜んでいる。巨体の方もつられて笑い始めた。
(さっきの殺気は仲間を殺されたからじゃないのか)
「どういう意味だ?」
「タダシ、このままお前たちを帰らせるのもダメダ」
質問には答えずゴブリンはにやりと笑い、槍の穂先を俺に向けた。
(そうなるよな。逆に殺気を放ちながら見逃すって言われても信じられないけど)
「ジャック、でけぇ方はお前に任せた。ちっこい方は俺がやる。ドロシーはそのまま炎の壁を維持してくれ」
「了解っす」
「分かったわ。2人で大丈夫?」
ドロシーも2人の異色さは感じ取れたようだ。
「ああ、2人でどうにかするから。ドロシーは少し離れていてくれ」
ダン
ゴブリンは十文字槍を構え、俺の方へ進んできた。俺の武器が短刀だと知り、リーチの長い槍の方が有利だと考え得意な間合いに持ち込む気だ。
カンカン
俺はエクストラポケットから取り出した投げナイフをゴブリンに向けて投げた。
ゴブリンは動きを止め、冷静に槍で投げナイフを弾いた。
(そう簡単には近づかせねぇよ)
「元気だね。そんな焦らず、自己紹介くらいしようや。俺はヒロシ、君は?」
「俺はコブ。お前ナカナカ面白いヒューマンダナ」
(さて、このリーチ差どう対処したものか)
時間が空いてしまい申し訳ございません。夏風邪にかかってしまいました。