第百七十三話 「ヒロシ、ジャック何か来る!」
今月第四話。
「ハア、ハア」
「これで終わり…すか」
「一旦な、後は…」
俺は少し離れたところで炎の壁を維持し続けているドロシーに近づいた。
「大丈夫か?」
「ええ、まだまだ大丈夫よ」
魔法を維持するのにかなりの神経を削っているため疲れが見え始めているがまだ大丈夫そうだ。
(本当にとんでもない魔素量だな)
「そうか、じゃあもう少し維持していてくれるか」
「それは構わないけど戦闘は終わったんじゃないの」
「戦闘はな、だがここからが…大変なところだ」
俺は家屋のドアを強引に引きはがした。中にはゴブリンの女子供、老人など戦えない者達が物音を出さないように家の隅で肩身を寄せていた。
「ヒロシ!」
ジャックも他の家で生き残った者達を見つけたらしい。
「ちょ、ちょっと待って。子供まで殺すの?」
「ああ、俺達が受けたクエストはゴブリン集落の討伐だ。この集落に住んでいる以上子供でも討伐対象になる」
「でも、子供には罪は無いじゃない!」
ドロシーは魔法を維持しながら俺を睨む。当然と言えば当然の反応だ。無垢な子供まで手にかける必要が本当にあるのか。
「言ったはずだ覚悟しとけと」
「…」
「いいか、ゴブリンは短命の種族だ。子供の頃の記憶が曖昧なヒューマンと違って、ゴブリンは覚えている。自分達の集落を襲った俺達の事を決して忘れないだろう。今、俺達が見逃せば必ずどこかで集落を作りまたヒューマンを襲う」
ゴブリンの一生は短い。確か長寿でも10代後半だったはずだ。短命ゆえに成長速度は速く、数日で成人になる。ただし、ホブゴブリンに進化すると寿命が20~30年くらいに伸びる。
俺は冷静にドロシーに説明した。簡単には納得できないだろう。俺だってまだ悩んでいる。
「でも、それでも無抵抗の子供達を…殺すことなんて」
「冒険者に憧れていると言ったな。絵本で描かれているキラキラした冒険だけじゃなく…」
エクストラポケットから投げナイフを素早く取り出し、ドロシーの方へ投げた。
ザシュ
「!」
ナイフはドロシーの顔の横を通り過ぎ、後ろで襲おうとしていたゴブリンの額に刺さった。
「…こういうクエストもある」
「今すぐ納得しろとは言わない。悩んで、考えて自分なりの答えを見つけろ」
コクリとドロシーは頷いた。
「ジャック、死んだマネをしている奴がいるかもしれない。後でそっちも確認するぞ」
「了解っす」
これ以上この集落のゴブリンに近くの村は襲わせない、ここで終わらせる。
それから俺とジャックは手分けしながら生き残ったゴブリンを殺した。その間ドロシーは炎の壁を維持しながら、静かに俺とジャックの様子を見ていた。
(ドロシーにはきつい経験だろうな。ただ、冒険者になりたいのなら知っておくべき事だ)
「ヒロシ、ジャック何か来る!」
当然そんなにすんなり終わることはない。