第百七十二話 「ならドロシーは維持することにだけ集中してくれ、残りは俺とジャックでやる」
今月第三話。
ガン
ホブゴブリンのこん棒をジャックは盾で防御し、片手直剣でホブゴブリンの足に反撃した。
「うおりゃー!」
足を斬られ倒れたホブゴブリンの頭をジャックは勢いよく斬り飛ばした。
(あっちは大丈夫そうだな)
『グルルル!』
俺は目の前のゴブリンライダーに集中する。3組のゴブリンライダーが隙を伺いながら俺の周りをグルグル囲んでいる。
「エレメントボール!」
周囲にカラフルな10個の魔法の玉が現れた。それを3組のゴブリンライダーに向けて一斉に放っていく。
「今の何?ヒロシも魔法使えたの!」
ゴブリンライダー達の悲鳴と共に色鮮やかな閃光が飛び交った。
「少しだけな、ドロシーほどの威力はねぇよ」
俺は魔法で吹き飛んだゴブリンライダーの行方を確かめながら答えた。
「ドロシー、あそこ」
俺は家の影で様子を窺っていたシャーマンを見つけドロシーに教えた。
「任せて!」
ドロシーはシャーマンの方へ真直ぐ向かっていく。
(ったく、隙を見せすぎだ。ここは戦闘経験の差だな)
弓矢で近くのゴブリンを牽制しドロシーを援護した。
「風中級魔法ウィンドカッター」
ドロシーは風の刃でシャーマンを腰から上下真っ二つにしてみせた。
(反撃の隙すら与えないか。炎の次は風、ドロシーはどの属性に適性を持っているんだろう)
俺達3人はフォローしながらゴブリンの集団と戦い続けた。苦戦するほどのこともなく、確実に目の前の敵を倒していった。戦闘中気付いたが自ずとフォーメーションが出来ていた。ジャックが前線を支え、ドロシーが後衛でフォローする。俺は中間で2人に指示しながら足りない部分を補う。事前に決めていた事ではないが自然と自分の立ち位置が分かった感じだ。
(やはり1人加わると全然戦い方が変わるな)
劣勢を感じ始めたゴブリン達は各々撤退を始めた。
(逃げたところで俺が仕掛けた罠で時間稼ぎができるだろう)
「逃がさないわよ。炎中級魔法ファイヤーウォール」
集落の周りを囲むように炎の壁が円になってゴブリン達の行く手を阻んだ。壁の高さは約2m、背の低いゴブリン達では超えることが出来ない。
「な!」
(この広さを囲むほどの炎を出せるってのか。こいつとんでもない魔力してやがる。ってかこれじゃあ俺の罠必要なかったじゃねぇか)
「ガッググッゴ、ゴゴゲ」
逃げられない事を知り、ゴブリン達はこちらを睨む。その眼は殺意と怒りに飲まれ、俺達を殺し必ず生き残ってみせると訴えていた。
(それはそうだよな、生きるためには俺達を殺すしかない)
「ドロシー、炎の壁は維持できそうか?」
ゴブリンの集落もマンチキン村ほどではないにしろなかなかの広さがある。それを囲むほどの魔法の維持に必要な魔素量もかなりのものになるはずだ。
「ええ、大丈夫」
俺の質問にドロシーは自信満々に即答する。
「ならドロシーは維持することにだけ集中してくれ、残りは俺とジャックでやる」
ゴブリンの集団戦終了。