第百六十九話 「気を付けるっすよ。今日の1件でゴブリン達怒り狂ってるすから」
今月5話。
オズの森
闇夜の森、月光を頼りに歩んでいく。俺は目がいいからまだ何とかなるがジャックとドロシーは厳しそうだな。先頭で邪魔な草や枝を短剣で切り、歩きやすいように道を作っていく。幸いなことに敵意を持つ魔物にはほとんど出会わなかった。
「よし、ここらへんで一旦休息を取ろう」
俺達は少し開けたところで腰を下ろした。もちろん、焚火などの光で居場所がばれないようにしている。ジャックとドロシーもだいぶ闇夜に目が慣れてきたようだ。
「それで、なんで付いてきたドロシー。付いてくるならブリキあたりだと思っていたのだが」
「ブリキさんだったら門前で義勇団の皆に止められていたわ」
(その止められている姿を見ているのに付いてきたのか)
「それでも付いてきたんすか。それにその装備どこから持ってきたんすか」
ジャックはドロシーのホウキと150㎝くらいある大きな杖を指さした。
「ええ、下見で確認したけどゴブリンなんて私の魔法で1撃よ。私だって十分戦えるわ。装備は…お小遣いをためてコツコツと揃えてきたの」
俺達の索敵から逃れるためにホウキで高所に飛ぶところを見ると本気のようだ。
ホウキや杖を揃えている所を見ると真剣に冒険者になりたいのだろう。
「それは単体の話だろ。集団戦は違う」
「どうするっすかヒロシ?」
「…今から村に連れ帰すのはかなりのタイムロスだ」
(だからといって森で1人にさせるわけにもいかない。手は1つしかないな。これは森まで気が付かなかった俺のミスだ)
「はあ、こうなったら連れていくしかないだろう」
「やったー。ヒロシ話が分かるー」
(ったくピクニックに行くんじゃねぇんだぞ。わかっているのかコイツ)
「…ここからは1人の戦力として数えさせてもらう。後、ゴブリンを倒す覚悟をしとけよ」
「任せて!」
ドロシーは自分の顔の前に握りこぶしを作り何度も頷いている。やる気だけは十分だな。俺とジャックでフォローすることになるだろうが仕方がない。
「よし、じゃあ夜明けまで休むぞ。見張りはジャック先に頼めるか。ドロシーはテントで休んでくれ」
俺はエクストラポケットからテントを取り出した。さすがに暗闇の中厳重警戒の集落を襲うような自殺行為はしない。狙うのは夜明け、ゴブリン達が疲れて寝ているところを奇襲して落とす。
「…私だけおいて行ったらただじゃ置かないからね」
「分かっているよ」
「よく寝ているな。それじゃあジャック後は頼んだ」
テントの中で寝ているドロシーの寝顔を見ながら俺はジャックに声をかけた。
「うす、ヒロシこそ少し休まなくていいんすか」
「休みたいのはやまやまだが。やることが残っているからな」
出来ることは全部する。もしかしたらそれが自分か仲間の命を助ける事に繋がるかもしれない。
「気を付けるっすよ。今日の1件でゴブリン達怒り狂ってるすから」
俺は頷いて、森の中を進んでいく。
ピクニック気分のドロシー。