第百六十三話 「はーい」
今月第5話。
4月12日 17:00
マンチキン村 村長宅
村長の家に招かれた俺とジャックは客間に通された。村長宅はこの世界では珍しい和風テイストだった。
(セロに来て初めて畳を見た)
「わしはこの村の村長をしとるカカシ・ブランじゃ」
「冒険者のヒロシ・タナカです。こちらは仲間のジャック・ビーンです」
俺とジャックは用意された座布団に座った。
「先ほどはうちの若い衆が失礼をした。彼奴らも悪気があったわけではないことを分かってほしい。」
「分かっています。下級冒険者じゃあ力不足だと思われても仕方がないこと。現に中級冒険者パーティーが倒されている」
「…ゴブリンは狡猾にて残酷な魔物じゃ。わしらのような村人が束になったところで止められりゃせん。しかし、血気盛んな者どもはわしの言うことなど聞かんからのう」
お茶を1口飲んでから村長は話した。
「なんで村を離れて避難しないんすか。ゴブリンが討伐されるまで村を…」
「ジャック!」
ジャックの無神経な言葉を止める。
「すみません、失礼をしました」
「いや、いいよ。金髪の君、確かジャック君じゃったか、君の言う通りじゃ。危険な魔物が近くにいるのになぜ避難しないのか」
「避難できる者や去れる者はもうすでに去った後ではないですか」
村長が答える前に俺が口をはさんだ。俺も用意されたお茶を飲んだ。
(お、緑茶だ)
「その通り、今この村に残っている者は村に思い入れがある者か避難が出来ない者達がほとんどじゃ」
「ブリキ達は本気で自分達でゴブリンを倒せると思っておる」
村長は俺の目をまっすぐに見た。俺達がどれだけ本気なのかを見極めようとしているのだろう。
「俺達はゴブリンを討伐しに来ました。力不足だと思われるかもしれないが、出来ることさせていただきたい。お願いします」
嘘偽りなく話し、誠意を示した。
「…こちらこそどうぞこの村を救っていただきたい」
そこには村の一長が村のために頭を下げる姿があった。
ああ、もう失敗は許されない。全力で脅威を倒すしかない。
「もう少しここで待ってもらいたい。今村にある唯一の宿に準備させておる所じゃ」
「ありがとうございます」
少し待っていると村長の娘さんらしき女性が現れて、村長に耳打ちした。
「うむ、どうやら宿の準備ができたそうじゃ。娘のホウキに案内させるのでついて行ってくだされ」
ホウキさんは50代くらいのおしとやかな女性だ。
「わかりました」
「タナカ殿ゴブリンの事お願いしますぞ」
去り際、村長にもう1度お願いされた。
「はい!」
宿屋は村の大通りにあった。はた目から見ると宿屋ではなく花屋に見える。かろうじて宿の看板が出ていて宿屋だということがわかる。
(1階が花屋で2階が宿なのかな)
宿はウィンドミルという名らしい。
「ここです。それでは私は」
ホウキさんは案内した後村長の家に戻っていった。
「すみません」
俺達は花のいい香りがする宿屋の中に入っていった。
「はーい」
出てきたのは2つの三つ編みにそばかす、村娘風の服装をまとった女の子だった。
今日で現実逃避からの異世界冒険物語を投稿してから4年になりました。