第百六十二話 「…長旅の疲れもあるでしょう、今夜はこの村に泊まっていってください」
今月第三話。
武装した若者達の人を値踏みするような視線を感じながら俺とジャックは村に入った。マンチキン村はのどかな村だった。立ち並ぶ民家の数を見るとポテサラ村と同じくらいの広さと人口がいると推測できる。
(近くの村々がゴブリンに襲われているにしては平穏な雰囲気だ)
「冒険者の方、ようこそマンチキン村へ」
村の様子を見ていると大男が近くに来た。
「俺はブリキと申します。この村の義勇団のリーダーをしている者です」
義勇団リーダーのブリキさんは背中に斧を背負い、革鎧に身を包んでいる。年齢は30代中盤といったところ、堀の深い顔に太い眉と切れ長の眼の男性だ。
「どうも、俺はヒロシ、でこっちが仲間のジャックです」
ブリキさんの握手の申し出に答え、簡単に自己紹介を済ませた。
「失礼だが、君達はゴブリン討伐のクエストを受けた冒険者かな」
「あ、はい。そうです」
「たった2人か…」
手で口を隠し、小声で呟いた言葉を俺は聞き漏らさなかった。
「失礼だが冒険者ランクを聞いてもよろしいかな」
「2人ともFランクです」
「はあ~」
誰かは分からないが近くにいた若者からため息が聞こえた。
「正直に言おう。君達ではゴブリン討伐は無理だ」
ブリキさんはまっすぐ俺の目を見て言った。
「気を悪くしないでくれ、俺はこれ以上被害を出さないために言っている」
「1週間前、Eランク冒険者パーティーが君達と同じクエストのためにこの村に立ち寄った。そしてつい数日前に森の中で遺体として見つかった」
(Eランク冒険者でも歯が立たなかったのか)
「Fランクの君達では犬死にするだけだ」
ブリキさんは遠慮なく言い放った。
「なんすかさっきから。ランクだけで人を判断して失礼じゃないすか!俺達はここに来る道筋でゴブリンの1団と戦ってそれを倒しているんす」
我慢できずジャックが前に出る。
「ジャック!」
俺は左腕でジャックを制止した。
(気持ちはわからなくはないがここは我慢してほしかったな)
「すみません、うちの者が失礼を」
俺は頭を下げた。ここで村人たちと対立するのはまずい。最悪村から追い出されかねない。
「ただし俺達も1度受けたクエストなので何もせずに引き下がれません。森の調査だけでもさせていただけませんか」
「何を騒いでおる」
「村長!」
大男の後ろに杖をついた老人が立っていた。
「冒険者の方、村の者が失礼をした」
長髭を生やした猫背の老人は俺達に頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそ礼を欠いてしまい申し訳ございません」
「…長旅の疲れもあるでしょう、今夜はこの村に泊まっていってください」
マンチキン村到着、義勇団リーダーブリキ登場。