第百五十一話「だろ」
今月第三話。
「それでは少し昔話に付き合ってもらえますか」
マリナスさんは話し始める前に紅茶を1口飲んだ。
「これはまだ私が商人になって間もない時のお話なのです。皆さんはサイキョウ組合連邦という国をご存知でしょうか?」
「確かズーク王国の南にある国で商業が盛んな所ですよね」
西大陸の国々と地理も図書館に通ったおかげで少し詳しくなれた。
サイキョウ組合連邦、ズーク王国南に位置する国で商人が集まって出来た国。芸術や商業が盛んで10人の商人が国の代表をしている珍しい国だ。
(確かルイスさんの出身地もサイキョウだったはずだ)
「はい、その通りです。サイキョウ組合連邦は商人の国ですからね。私はそこの出身なのです。サイキョウで商いのいろはを叩き込まれた私は自分の店を開くべく、シャルル王国に向かった」
「しかし、まだまだ未熟な私が率いる隊商にとって国を超える旅は辛くそして厳しいものだった。ある日隊商は魔物の群れに囲まれてしまったのです。絶体絶命な状況の中で私達を救ってくれたのがケビン様率いるライオンハートの皆様だった」
「ケビンさん達が」
「はい。あの時の彼らの雄姿は今でも鮮明に覚えております」
マリナスさんは少し懐かしそうに顔をほころばせる。
「助けてもらった私はお礼を差し上げようとしたのですが、ケビン様達は断りました。そのかわりにいずれ自分達に後輩が出来た時にもし出会うことがあればその時に冒険の手助けをしてくれと言われたのです」
なるほど、その約束を守っているからマリナスさんは俺達にこんなに良くしてくれたのか。マリナスさんのほかにもケビンさん達が助けた人達は大勢いるはずだ。もしかしたら、これまでにマリナスさんみたいに陰ながら俺達の事を後押ししてくれている人達がいたのかもしれないな。
(ケビンさん達の話が聞けて良かった)
4月10日 14:00
マリナスさんと少し談笑した後、俺達はマリナス商店を出た。店を出る前に魔物図鑑Ⅱとシャルティア周辺の地図も買った。
「ありがとうございました」
「いえいえ、私も久々にお茶会が出来て楽しかったです」
マリナスさんと別れ、俺達はシャルティアの正門に向かった。
「今日から野宿っすね」
「そうだな」
クエストは明日から始めるとして、今日はまず野宿できる場所を探さないとな。2人での野宿はまだやった事がないからな、準備に時間がかかるかもしれない。
「ふう、テントはこんなもんすか」
「こっちももうすぐ出来るぞ」
シャルティアから南に徒歩で1時間ほどの場所に小さな森を見つけた俺達はそこに野宿する事に決めた。夜の見張りは交互に行い、ジャックはテントを張る係、俺は料理を担当する。
「おー、いいにおいすね」
「だろ」
野宿初日のメニューは以前マザーステイストで食べたカレーに似た料理カリーだ。
騎士試験編終了。