外伝26 英雄と王女に説法
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
シャルル城門前でシャルル王国第2王女イリス・シャルルと別れ、英雄エリウッドはそのまま城門に歩を進めた。
「すみませんがここから先は関係者以外立ち入り禁止でして」
近づいてきた門番にローブを取って素顔を見せる。
「すまない。怪しい者ではない」
「あ!申し訳ございません!直ちに門を開けます」
(やっぱりこっちが普通の反応だよな)
自分の顔を見た門番はその場で敬礼した後、直ぐに門へ引き返していった。
門がゆっくりと開いていく。その先に見えたのは仲間達の姿だった。
(あちゃー、やばいな)
気付いた時にはすでに遅く、仲間達はこちらを向いた後だった。
「あー!居たー」
1番最初に声を発したのはパーティーの中で最も元気な三つ編み少女レベッカ・ハンター。
ばれてしまっては仕方がない、そのまま仲間達の方へ向かっていく。
「エリウッド様!良かったご無事で。私ルセア心から心配しておりました」
パーティーの修道女ルセア・ホーリースプリングの放つ1言で罪悪感が芽生える。
「ウ。そ、そうか。心配をかけてすまないルセア。僕はこの通り無事だ」
「大将、どうせ城下町を散策してたんでしょ」
赤いローブを身に着ける盗賊のマシュー・シーフは両手を後頭部につけ、軽い感じで真実を見抜く。
「ウ。うん、まあ少しね」
それから暫くは仲間達にグチグチと怒られる時間が流れる。
(当分、1人で出掛ける事は出来なさそうだな)
一方そのころ、王族しか知らない隠れ通路を通って城内に戻った第2王女イリスは鼻歌交じりにヒロシから貰ったイヤーカフを見つめながら、自室に戻ろうとしていた。城内に戻ったのでローブは脱いで、青い花柄のワンピース姿だ。
「あら、随分機嫌が良いのねイ・リ・ス」
イリスは背後からの声にビクリと背筋を伸ばし、さっとイヤーカフをワンピースのポケットに隠す。
「あれー、これはお姉さま。お姉さまにおきましては今日もお変わりなくお美しいですわね。それではわたくしは用事がありますので失礼します」
声をかけたのは白いドレスに身を包んだ、シャルル王国第1王女アン・シャルル。実の姉で仲もいいのだが今1番会いたくない相手でもあった。数歩下がった所で2人の侍女と2人の近衛が跪いている。
「歴史の勉強を放っておいてどこに行っていたのですか!」
ぐっと顔を近づける姉の圧にイリスはタジタジになる。シャルル王国の白薔薇と呼ばれている美貌も妹の自分からしたら般若に映った。
「え…っと、えっと」
「それにこれは何ですか?」
お姉さまは隠したイヤーカフが入った箱を取り上げる。
「あっ!」
「…あなたって子はいつもいつも。また城下町に出かけていたのでしょう。自分の立場を考えなさい!罰としてこれは没収します」
そして姉のアンはほっぺたをつねり、説教を始めた。
「そんな。それだけは…お許しください。もう無断で外出しませんから」
頬の痛みより、イヤーカフを取り上げられる方が苦しかった。必死に取り返そうとするが身長が高いお姉さまの手に届かない。
「こんな露天商に売ってある耳飾りの何処が良いのです」
「お願いします。返してください!それはとても大切な物なのです!」
そのイヤーカフは初めての友人からの贈り物。
「イリス、あなたは1国の王女なのです。身に着けるものも選ばなければいけません」
(そんな事はわかっている。でも、それでも私にとってそれはダイヤの耳飾りなんかよりよほど輝いて見える。かけがえのない友人からの心のこもった贈り物なのだ)
「アン、その辺にしなさい」
現れたのはシャルル王国国王オボルネ・シャルル、私達の実の父親だ。後に執事のヨウも見える。
「お父様はイリスを甘やかしすぎです」
お父様の言う通りに手を離すお姉さま。ついでにイヤーカフも取り返せた。
「しかし、わしは姉妹喧嘩など見たくないのじゃ」
(喧嘩?今のは一方的な暴力よ。でも良かったお父様のおかげでこれが取り返せて)
結局身内から叱られる英雄と王女であった。
外伝にしては少し長いかもしれませんが、新しいキャラクターもでているので許してください。