第百四十三話 「それじゃあな。エリウッド、イリス」
メリークリスマス。
「ねえ、ねえ!これは何かしら?」
テンションバリ高美少女イリスちゃんは露店で売られていた売り物を指さしこちらを見る。
「うーん、それは髭剃りだ」
喫茶店でコーヒーを奢ってもらい、少し話をした俺は喫茶店で別れるつもりだった。
ところがイリスちゃんがどうしても3人で買い物がしたいと言い始め、仕方なく、ついていくことになって今に至る。
(涙目はずるいよな)
こうして、お嬢様と従者と冒険者の奇妙な3人組は王都の大通りの露店を見ながら、散策していた。
買い物って言うからてっきり高級店でもはしごするのかと思ったのだが、イリスちゃんは高級店なの見向きもせず、今もテンション高めに露天商のおっちゃんと話している。
(貴族のお嬢様には高級店で見られている物はもう見飽きているのかもしれない。それにしても世間知らずな所がブィンドで出会ったおっさんを思い出すな)
「すみませんヒロシ君。お嬢様の買い物にお付き合いさせてしまって」
「別にいいよ。エリウッドは何か買いたい物とかないのか?」
「僕ですか?ないですね」
(やっぱりイケメンだな。男の俺から見てもかっこいいと思うもんな。元居た世界だったらイケメン俳優とかしてそう)
フードから見える整った横顔を見て思った。オレンジ色に近い赤髪も相まって、貴族の間ではイケメン従者とかで話題になってそうだな。
それから俺達は屋台で食べ歩きをしたり、公園でちょっと運動したりなど買い物はどこにやらと王都散策を満喫した。
そろそろ空が赤みかかった頃、俺達はシャルル城の近くで別れる事にした。
「ヒロシ今日は1日ありがとう。とても楽しかったわ」
「それは何よりでお嬢様。ハハハ」
俺は冗談交じりにお辞儀をする。
「もう、ヒロシったら!それじゃあ、またねヒロシ」
寂しそうに別れを告げるイリス。
「ったくなんて顔してんだ。ほらよ」
俺は小さなリボンでかわいく梱包された小さな箱を手渡す。
「これは?」
「プレゼントだ。まあなんだ、今日1日の思い出として受け取ってくれ。大したものじゃないからあまり期待するなよ」
中身はイリスが露店で買うか迷っていたアクセサリー、青い花をあしらったイヤーカフだ。
「それじゃあな。エリウッド、イリス」
貴族令嬢のイリスにその従者エリウッドの2人と俺は別れた。
ただの冒険者の俺と貴族社会の住人である彼らとでは住む世界が違う。もしかしたらもう出会う事はないかもしれないな。
イリスとエリウッドは今後も出てきます、その時をお楽しみに。