第百三十五話 「わかったわかった。分からない事があったら聞くよ」
今月7話。
勇者一行についての書物を探していると、1冊の本が見つかった。題名は“勇者一行の武勇伝”、勇者一行の旅路を描いた童話みたいな物語だ。童話と言っても一応実話をもとに書かれた物らしい。こういうものの方が手っ取り早く分かるかもしれないな。
昔でもそこまで昔ではない時代、東大陸に邪龍が現れた。邪龍は瞬く間に東大陸を破壊していき、ついに帝国のみとなった。
邪龍に一矢報いるために帝国の姫と宮廷魔導士は召喚魔法で異世界から勇者を召喚した。多大なる犠牲のもとに勇者は召喚され、勇者の剣を携えた勇者は邪龍討伐の旅に出る。旅は仲間探しから始まった。最初に研究好きな宮廷魔導士が仲間になった。次に剣術修行に出ていた剣士が、さらに滅亡した国の騎士王が仲間になった。
数年の後に勇者一行は見事邪龍討伐を成し遂げた。
それからは西大陸に渡り、吸血鬼とヒューマンの争いを止め、大魔王の封印などの偉業を積み重ねていく。
勇者一行の武勇伝を要約するとこんな感じだ。1冊では勇者召喚から邪龍との死闘までを描いており、その後の活躍は数冊に分けて描かれていた。やはり勇者は異世界から召喚された者だった。
(下手したら同じ世界から来たかもしれないな。しかし、知りたかった勇者の最後は描かれていなかった)
「何を読んでいるかと思えば勇者一行の武勇伝すか」
顔を上げるとジャックが目の前に立っていた。読書に集中しすぎて気が付かなかった。
「別にいいだろ」
図書館では私語禁止なので他の利用者に迷惑をかけないようにで小声で話す。
「懐かしいっすね」
「ジャックも読んだ事があるのか?」
「もちろんっす。子供の頃、男子は皆勇者に憧れたもんす」
キーンコーンカーンコーン
閉館のチャイムが鳴った。
「そろそろ帰るか」
俺とジャックは図書館を出た。
「なあ、ジャック勇者の最後はどんなのか知っているか」
宿までの帰り道に俺はジャックに聞いた。
「詳しくは知らないっすけど確か東大陸のどこかにお墓があったはずっす」
「へえー」
勇者は結果的にセロで生涯を終えたのか、それを望んでいたかは分からないが。
「なんすか。ヒロシ勇者に興味あるんすか」
「まあ…少しな」
「いいっすよ。知りたい事があったら俺に聞くっす。知っている事なら何でも教えるっす」
キラキラした目でジャックがぐいっと近づいてくる。よほど勇者について語りたいのだろう。
「わかったわかった。分からない事があったら聞くよ」
あまりの圧に少し引いた。何て言うかジャックにオタク特有の情熱を感じた。
1000年前の事は機会があれば書きたいです。