外伝21 熱血馬鹿は死んでも治らない
今月6話目。
冬のある日
ベーテの森
バスバスパス
3本のナイフが自作の的に連続で刺さっていく。
(よし、大分感覚を掴めてきた。)
積もりに積もった雪を踏みしめ俺はナイフを的から抜いていく。本格的に寒くなった冬のある日、俺はベーテの森に個人練習をしに来ていた。自分の戦闘スタイルを再度見直し、練度を高めていく。特に俺みたいな多種類の戦闘スタイルを持っている者にとっては欠かせない練習だ。
近接では短剣二刀流+足技、中遠距離では投擲や弓術を主に使って戦う。視力を生かして偵察も大切な役割だ。
(本来忍者って索敵や情報収集を得意とする職業だしな。)
「フウ、寒!今日はここまでにしとくか。」
俺は帰り支度をして、ベーテの森の入り口付近に向かった。
「おら、かかってこいっす!」
近くで聞き覚えがある声が森に響く。
俺は声のする方へ歩を進めていく。そこには、レッドボア単体を真正面から対峙しているジャックの姿があった。
「な!」
開いた口が塞がらない。なぜならジャックは盾も剣も持たずに挑んでいるからだ。流石にスパイダーアーマーは装備しているが、それでも危険すぎる。
(あいつ何やってんだ。素手でレッドボアに挑むって。)
こうしている間もレッドボアは鼻息荒く、前足で地面をかいている。前方にいるジャックをつき飛ばす気満々だ。対するジャックは両手を広げなぜか受け止めようとしている。
(ばかだ。)
そう思っている俺も止める気はゼロである。ここで割って入るよりもつき飛ばされた後助けたほうが無難だ。流石にあの装備では1撃では死ぬ事はないだろう。ジャックには少し痛い目を見てもらおう。
「ブフォ!」
積もった雪など関係なく勢いよくレッドボアがジャックに突っ込んでいく。
ガシ
「ウオオオオオオオオオオオ!!!」
ジャックは片方の牙を受け止め、わきに挟む。
ズザザザザザザザザザザザザ
レッドボアも負けじとジャックを押していくが勢いがドンドン衰えていく。
(まじか!)
勢いが完全に止まった所でジャックは空いている左手で思いっきりレッドボアの鼻柱を殴った。
あまりの痛さにレッドボアは後ずさるがジャックは腰から片手直剣を抜き追い打ちをかける。そのままレッドボアを倒してしまった。
「よっしゃー!!!」
(うそだろ、1人で倒し切りやがった。…これは負けてられねえな。)
俺は踵を返し練習していた場所に戻り、練習を再開した。
その日俺の帰りがブィンドの閉門ギリギリになったのは言うまでもない。
ちょっとした修行風景を書いてみました。