第百十三話 「ああ、午後ベーテの森で軽く試し打ちするか。」
今月第一話目。
火矢には2種類ある。矢の先端付近に油紙などの燃えやすい物を付けて発火させてから射るものと油紙の代わりに矢先に火薬を巻きつけて矢が飛んでいる間に導火線を通じて発火する焙烙火矢がある。焙烙火矢の方は区別するために火箭と呼ばれる事もあるらしく、今回俺が用意したのは前者の火矢だ。
本当は火薬を用意して焙烙火矢を作りたかったが、火薬の量とかかる費用を考慮した所今回は油紙を先端に巻き付ける方にした。油紙程度なら自作でどうにかなる。
ちなみにセロにも火薬は存在する。元居た世界みたいに科学が発展していないので威力が高いものではないが、球体の物に火薬を詰めて導火線に火を付けて放つ火薬玉などは一般的に普及している。
(俺も懐に余裕があれば買っていたが、ないものは仕方がない。)
「これが火矢すか。これに火を付ければ燃えると。」
ジャックは俺が取り出した火矢を拾い上げまじまじと見つめている。
「ああ、炎に弱い蜘蛛や蟻には効果抜群だろうな。」
しかし、この火矢を使った作戦には1つだけ弱点がある。それは火矢を放つには近くに焚火のような火元が必要になる。
「俺が壁役でヒロシが火矢を射る…そして火矢には…。」
ジャックも問題点に気付いたようだ。
「そう、俺は火元から遠く離れられない。だから、今回お前には前衛でしっかりとジャイアントスパイダーを抑えていてもらいたい。」
火矢を使った戦闘、個体のジャイアントスパイダーに有効なら群れのアイアンアントにも使える。ただし、使えるかはジャックしだいだ。ジャックが単体のジャイアントスパイダーを抑えられないなら、アイアンアントは違う方法で攻略しなければならない。
「うす。任せるっす。」
ジャックは自分の胸を叩いてやる気を出している。
「ああ、頼んだ。」
ジャックと動きなどを再確認していく。
「とりあえず、本番前に火矢の威力くらいは確かめてみたいすね。」
「ああ、午後ベーテの森で軽く試し打ちするか。」
ファミリアの庭でやったらラウラさんあたりに怒られそうだ。
この回は少し短いです。