第九十六話 「ありがとうございました。」
薬生成話終了です。
「10分くらいで出来るかな。」
「なるほど。」
「濾過装置が精密であればあるほど、薬の品質が高くなる。薬の品質を決めるのは濾過過程と素材だ。簡単に言えば手間暇かけるほど良質な薬が作れる。」
ジルさんは眼鏡を指で押し上げながら言った。
「やっぱり、手間暇は必要ですよね。」
(手間暇かけた物はいい物は何処の世界でも同じか。)
「うん、ヒロシ君の場合外で作る事も多いだろう。外にいる時は良質な素材と生産系のアビリティに頼るしかないな。」
俺はジルさんのアドバイスを頷きながら聞く。
(やっぱり、そうなるよな。ただ、今日薬の生産過程が分かった事は大きい。これからは素材さえ揃える事が出来れば品質は高くなくても薬を生産できる。)
「あと、…アリエットがすまなかったね。」
「はい?」
「アリエットが冬越し熊の件を褒めていた時、ヒロシ君はあまり喜んでいる様に見えなかったから。」
(あの時ジルさん見てたのか。)
「いえいえ、そんな事は。ただ、素直に喜べなかっただけです。」
「冬越し熊討伐の話は僕の耳にも入っている。ただ、冬越し熊は下級冒険者にとって強力な魔物だ。君達もただではすまなかったのだろう?」
ジルさんの眼鏡の奥が光った気がした。
(さすが、元冒険者の薬剤師だな。)
「ええ、ギリギリの戦いでしたよ。」
俺は正直に何があったかを話した。
「…そうか、そんな事が。アリエットは君達の怪我の事は知らないからな。少し無責任な事を口にしてしまうかもしれない。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。」
(何か気を使わせてしまったな。)
それから、ポーションが出来るまで俺はジルさんから薬生成のコツなどを聞いた。
「そろそろかな。」
ジルさんは濾過装置の蛇口を捻り、中にある緑色の液体を試験管に入れていく。
「どうですか?」
「はい、自分で鑑定してみてごらん。」
ジルさんから試験管を受け取り、鑑定する。
ポーション(普通)
成分:チナエ草、ゲンキダケ、聖水、はちみつ。
(おお!今度は成分が出てきた。やっぱり、素材を知っていれば出て来るって事か。)
「ポーションの品質って普通が1番低いんですか?」
(低質や悪質があってもよさそうだが。)
「いや、低質もあるにはあるが、それは不純物が混じっていたり、素材を間違えている場合が多いかな。」
(しっかりと作れば普通クラスは作れるって事か。今は普通ランクで十分役に立つな。)
「そのポーションはプレゼントするよ。」
「え!いいんですか。」
「ああ、最後に1つだけ覚えといてほしい。薬はアイテムの1つであり、人々の生活の負担を少しでも和らげるものだ。だから、決して薬に頼りすぎてはいけないよ。」
そう言ったジルさんの顔はすごくまじめだった。
「はい。」
「よし、じゃあ今日はこの辺にしようか。」
「ありがとうございました。」
俺はポーションをもう2つ買って薬屋ボン・サンスを出た。
(薬に頼りすぎてはいけないか。これはメモにではなく、しっかりと頭の中に覚えとかないとな。)
事情知っている者と知らない人の言葉は変わってきますよね。