第九十四話 「ははは、ありがとう。でも、ここで調合しているのはほんの1部で、もっと手間がかかるものは他の場所で作っているよ。」
今月第1話です。
装備屋アナグラの買い物を終えた俺は昼時もあって、近くの屋台で買った肉まんを手に広場のベンチに座った。
(さて、今日はこれからどうしようかな。)
俺は肉まんを食べながら午後の予定を考える。
(ジャックとも別れたし、装備の修復は3日かかる。流石に装備なしで外に出る気はない。…そうだ、折角だし薬屋に行って使ったポーションの補充しとこ。)
俺は肉まんを食べ終え、薬屋ボン・サンスに向かった。
12月11日 12:30
薬屋ボン・サンス
カランカラン
「いらっしゃいませ。あら、ヒロシ君こんにちは。」
普段通り店に入るとアリエットさんが迎えてくれた。
「こんにちは、アリエットさん。」
「ヒロシ君見たわよこれ。」
アリエットさんは俺とジャックの事が書かれている新聞の1面記事を取り出る。
(またか。)
「すごいわね、たった2人で冬越し熊を倒すなんて。」
「いえいえ、運が良かっただけですよ。」
アリエットさんは純粋に俺達の事を褒めてくれるが、俺は苦笑いしてしまう。
(この事件俺達にとってはいい事だけではないんだけどな。ただ、褒めてくれる皆に悪気はない。こういう時返事に困る。)
「お!ヒロシ君来ていたのか。」
奥からジルさんが出てきた。
「はい。こんにちは、ジルさん。」
「こんにちは、そういえばヒロシ君今日はこれから時間あるかい?」
「あ、はい。」
「だったら、この前約束していたアレ今日でもいいかい?」
(ジルさんと約束していたアレというのは薬の生成を教えてくれる事だろう。)
「ええ!是非お願いします。」
「そうか、だったら今から奥の調合室でしようか。」
「はい!」
俺はジルさんについて行き奥の調合室に入る。
薬屋ボン・サンスの調合室はまるで学校の実験室みたいだった。両側には調合や実験で使うであろう様々な器具が並べられている。ビーカーや試験管、乳鉢などが見える。そして、机の上に厳重に設置されているのは濾過装置だ。ガラスで出来た濾過装置の中身は様々な薬の素材だろう。濾過装置の下部分には蛇口みたいな部品がついてある。多分、蛇口をひねれば薬が流れる仕組みだろう。濾過装置は大きさは大中小で分かれていた。数は合計で9個あり、濾過装置の大きさで薬の質を分けているのだろう。
「はい、ヒロシ君中に入る前にマスクと手袋をしてもらうよ。」
ジルさんを見るとすでにマスクと手袋を装着していた。俺は貰った透明な実験用手袋と白のマスクをつける。
(懐かしいな、まるで元の世界にいた実験室みたいだ。)
手袋とマスクを装着した俺はジルさんの後に続き調合室に入る。
「すごいですね。」
「ははは、ありがとう。でも、ここで調合しているのはほんの1部で、もっと手間がかかるものは他の場所で作っているよ。」
今月は薬作りの話です。