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現実逃避からの異世界冒険物語  作者: Piro
下級冒険者編
112/387

第九十一話 『はい!』

今月2話目。

12月11日 11:00

装備屋 アナグラ

カランカラン

「おやっさん、数日ぶり。」

 おやっさんは棚を雑巾で磨いていた。 

「お!ヒロシのあんちゃんにジャック。」

 俺達に気付いたおやっさんは手を止める。

「新聞読んだぞ。まさか冬越し熊(フローズンベア)に出会うとはな、災難だったな。でも、よく生きて戻ってきた、大したもんだ。注目もあびてるんじゃあねえか。」

 おやっさんはカウンターに置いてある新聞の1面を広げながら話す。

「いや、ハハハ。朝から気持ち悪い視線を浴びて参ってるところですよ。」

 俺は苦笑いする。

「まあ、ある程度は仕方ねえ。あれは下級冒険者がどうにかできる代物じゃあねえ。それが、下級冒険者それもたった2人で倒したんだ、注目もされるわな。まあそのうちなくなるだろう。今は我慢しとけ。」

「倒したのは良かったんだけど、装備が…。」

 俺とジャックは仕舞っていた装備を取り出し、おやっさんに見せる。ちなみに今俺とジャックは外着のチュニックとズボンを着ている。

「これは…また…派手にやったな。軽く損壊部分を見るぞ。」

 おやっさんは装備の破損具合を細かに見ている。俺のライトアーマーは胸が少し凹んでいた。さらにひどいのは左部分であり、大熊の突進を直撃したせいで左腕部分が折れていた。そして、ジャックの革鎧は背中部分がほとんど削れていた。改めて自分たちの装備の損壊具合を見るとどれだけあの戦いが激しかったが分かる。

 

 おやっさんが装備を見ている間、俺達はアナグラに置いてある武器や防具を見る事にした。

「直るっすかね。」

 俺が短剣コーナーを見ているとジャックが近づいて囁いた。

(俺は防具もそうだが、武器も2本とも折ってる。新しく買わねえと。次はもう少しリーチの長いのにするか。)

「さあな。損壊具合によっちゃあ、新しく買った方がいいと言われるかもな。」

「まったく、事故にあったようなもんすよね。」

 ジャックが軽い気持ちで呟く。

「事故だぁ!バッキャ野郎!外に出たら事故かどうかなんて関係ねえ!事故ってあの世で言い訳できるか?あの世で後悔しても意味なんかなんもねえ。冒険者ならどんな場面でも活路開いて見せろ。」

 突然おやっさんの怒声が店中に響く。

(俺達の装備を見終えて、呼びに来た時に聞こえたんだろうな。)

「!おやっさん…すみません。」

 おやっさんのあまりの勢いにジャックが謝る。俺もおやっさんの怒声に驚く。

(おやっさんの言っている事は間違っていない。語気が少し荒くなったのも俺達を本当に気遣ったからだ。)

「すまん、わしも叫んですまなかった。だが、軽い気持ちのまま冒険者を続けてほしくなかった。注目を浴びているお前達には尚更気を引き締めてほしくてな。」

 おやっさんは1流の鍛冶師だ。1流の鍛冶師だからこそ、これまでいろんな冒険者の装備を見てきたのだろう。軽い気持ちでクエストを受け、戻ってこなかった冒険者もいたのかもしれない。

『はい!』

(生きて戻ってくる。言うのは簡単だが、続けるのは難しい。今回の件で冒険者という仕事は命と隣り合わせだという事を再認識できた。) 

大人になってから気付く。叱ってくれることの大切さを。

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