第八十八話 「少しばかり多めに入れた。それは俺の誠意分って所だ。そして、この件に関してもう1つ話したい事がある。」
今日2話目です。
「命令って、人聞きが悪い。俺はただ2人に会って話がしたいと言っただけだろう、まったく。…どうも紹介されたこの支部の支部長をやっているシモン・ベールだ、よろしくな。」
ベールさんはケビンさんに向かって文句を言い終わってから、俺とジャックを交互に見て俺に手を差し出す。
(一応こういう時の自己紹介ってどこ所属とかも言った方がいいんだよな。)
「あ、初めまして俺はファミリアサンダーバード所属のGランク冒険者ヒロシ・タナカです。よろしくお願いします。」
俺も手を差し出し、ベールさんと握手する。
「初めまして、同じくGランク冒険者のジャック・ビーンです。よろしくお願いします。」
続いてジャックが自己紹介する。
「2人共あんまり緊張しなくていいから。さっきも言ったが俺はただ君達と話してみたかっただけだ。まず、冬越し熊を討伐してくれてありがとう、そしてすまなかった。」
ベールさんは頭を下げる。そして、さらに話を続けた。
「もうすでに知っているだろうがフローズンベアは本来今の時期冬眠しているはずのホワイトバックが冬眠せずにそのまま活動している特殊個体の事だ。戦った君達が1番分かっていると思うがフローズンベアは通常のホワイトバックより大きく、そして戦闘面でも数倍強い。本来、目撃情報が出れば中級や上級冒険者で構成された数パーティーで調査及び討伐をするのだが、今回の場合目撃情報が出たのが数日前で。君達がフローズンベアに遭遇した時は調査パーティーの構成中だった。こちらの対処が遅れて…すまなかった。」
ベールさんは説明を終えてからもう1度頭を下げた。
「いえいえ、支部長のせいでは。俺達は…。」
ここで俺は言葉が詰まる。
(俺は何と言ったら良いのだろうか。話を聞く限り支部長そしてギルドの職員にミスはない。これはただの事故みたいなものだ。だが、俺とジャックが死にかけたのも事実。)
「ヒロシ君、もっと責めてやれ。」
ケビンさんは意地悪そうな顔をして、顎でベールさんを指す。
「え!いやいや。」
「…こういう時は本音を言い合うものだ。その方がお互い後腐れがないだろう。」
ケビンさんが耳元で優しくアドバイスをくれた。
「…そう…ですか。」
俺はジャックの方を見る。ジャックも何を話していいかを迷っているようだ。俺は少し考えてから口を開いた。
「…ベールさん、俺達も冒険者の端くれ。外に出れば自分の命は自分で守る事くらい分かっています。これはただの不慮の事故。でも、俺達が死にかけたのも事実。だったら冒険者としてこの件に望むものは1つだけです。…相応の報酬を。」
「…ガハハハ…相応の報酬ときたか。いやあケビン、面白い後輩を見つけたな。」
「ジャック、お前は?」
ベールさんはジャックの方を向いて話す。
「そうっ…すね。俺も十分な報酬貰えればいいっす。正直あの大熊の1撃のせいで装備がボロボロになったんで買い換えたいんすよね。」
ジャックは何故か笑いを堪えながら、返答した。
(ジャックも支部長もケビンさんですら笑っている。俺の返答がそんなに面白かったか。)
「そうか。…安心しろ報酬はしっかりと準備してあるよ。」
ベールさんは大笑いした後、懐から巾着袋を取り出し、テーブルに置く。巾着袋を覗くと金貨が入っていた。
「これがフローズンベア討伐の報酬だ。金貨20枚入っている。まあ、仲良く分けてくれや。」
『20枚!!!』
俺とジャックは巾着袋の中身に驚く。
「少しばかり多めに入れた。それは俺の誠意分って所だ。そして、この件に関してもう1つ話したい事がある。」
初対面の人を呼ぶときは苗字からですよね。ジャックの時が少し変だったのに今気づきました。