第八十七話 「彼が冒険者ギルド総括会ブィンド支部の支部長、シモン・ベール。シモン、君の命令通り2人を連れて来たよ。」
暫くは支部長との話になります。
12月11日 9:30
冒険者ギルド総括会 ブィンド支部2階 支部長室
「失礼する!おっと。」
ケビンさんがノックする前に扉が勢いよく開いた。部屋から青年が慌てて出てきた。
「し、失礼しました。」
茶色のベレー帽を着た青年は支部長室の方に振り向いて、深々と礼をして走り去る。俺達は突然の事で扉の前でポカーンと立ち尽くしていた。おかげで緊張もどっか行った。
「おう、これからは気をつけろよ。」
支部長室から渋い声が聞こえる。
「ふう、やれやれ、もう入って大丈夫かシモン。」
「うん?ケビンか、ああ入ってくれ。」
ケビンさんは一応返答を待ってから部屋に入った。俺達もケビンさんの後について部屋に入った。
部屋の中には1人の筋骨隆々の逞しい男性が立っていた。
(おそらく彼が支部長なのだろう。)
頭はスキンヘッドで所々傷跡も見える。身長は180㎝くらいで、年齢は40代くらいに見える。スキンヘッドと傷跡も相まって少し怖いというのが第一印象だ。
支部長室は簡素な部屋だった。仕事用の机が奥に置かれ、手前には来賓用の2つのソファ-とテーブルがあり、左側には整理された書類が棚に入れられていた。机の上に山積みにされている書類で冒険者ギルド総括会支部長がどれだけ忙しいかが伺える。
(それとも、たださぼっているだけか。)
「それでは失礼して、座らせてもらおうかな。」
ケビンさんは来賓用のソファーの真ん中に遠慮なく腰掛ける。
「いつもは俺が言う前に座っているだろが、何が失礼してだ。…ああ、君達も遠慮せずに座ってくれ。飲み物は紅茶とコフィどっちがいいかな?ケビンはコフィでいいよな?」
「ああ。」
ケビンさんは短く返答する。
「あ、はい。それじゃあ俺は紅茶をお願いします。」
俺はケビンさんの右横に座る。
「あ、俺も紅茶でお願いするっす。」
(うわ、何だこのソファー座り心地いいな。かなりいい物なんだろうな。)
「少し待ってな。」
部屋の隅のスペースにカップや茶菓子、砂糖などが置かれている。
少し経って、支部長が茶菓子と紅茶、コフィを盆に乗せて戻ってくる。
「すまねえな、今日は秘書が休みでな、こういう事も自分でやらなきゃならん。」
支部長はお盆からカップを1つずつテーブルに置く。
「ありがとうございます。」
俺はカップを受け取り、紅茶を1口飲む。
「そうか、通りでリザ君を見かけないわけだ。」
「ふう。よいしょっと、慣れねえ事をするとどっと疲れるな。菓子も遠慮せず食べてくれよ。」
支部長はソファーに勢いよく座り込み、自分のカップに手を伸ばし、コフィをがぶ飲みした。
「彼が冒険者ギルド総括会ブィンド支部の支部長、シモン・ベール。シモン、君の命令通り2人を連れて来たよ。」
今月1話目。