第八十四話 「ヒロシにだけは言われたくないっす。」
ホワイトバック戦終了。
ホワイトバックの攻撃を見切り、1本だけになったダガーで毛が薄くなっている横腹を斬る。反撃が来る前に大熊の巨体を蹴って、距離を取る。
(よし、毛が薄くなっている部分だったらちゃんと刃が通るようになってきた。)
「はあはあ。」
流石に疲れてきた。しかし、疲れているのは俺だけではないようだ。目前のホワイトバックもよだれを垂れ流し、息も荒い。
「グルワァー。」
吠えながら突進してくるホワイトバック。俺はギリギリで避け、がら空きの背中をダガーで削る。
パキン
「な!」
ついに2本目のダガーも折れてしまう。
(やばい。)
とりあえず距離を取ろうとする俺にこの戦いで初めて見せる大熊の後方タックルが迫る。
「グハ。」
初見の攻撃に戸惑う俺に大熊のヒップタックルが直撃した。衝撃で俺は数メートル吹っ飛ぶ。
(クソ。どうにか体勢を立て直さなければ。)
俺は痛みを我慢し即座に立ち上がるが、この戦い初めてのチャンスをホワイトバックは見逃してくれなかった。立ち上がった俺に大熊の突進が直撃する。
バキバキ
「ック。」
俺はさらに数十メートル飛び、木にぶつかった。
(やばい。今ので左腕と肋骨数本いったな。)
武器も失い、体もボロボロ。戦況は一変してホワイトバックに優勢となる。
(くそ、こんな所で…ここで終わりか。)
ボロボロの俺にホワイトバックが迫ってくる。
ザク
近くで何かが刺さる音がする。
「ヒロシ、立つっす!!!」
音がする方に目を向けると片手直剣が地面に刺さっていた。ジャックのバカでかい声も聞こえる。
「フ。」
俺は残った力を使い立ち上がり、最短距離で剣の方へ走る。
ガ
「ウオオオ。」
口の中は血だらけ、体もふらついている。だが俺は剣を抜いて叫ぶ。
「グルアア。」
突進してくるホワイトバックと右手で直剣を振る俺が交差する。
ガク
少し経ち、ホワイトバックの巨体がゆっくりと倒れる。
ザク
俺も剣を地面に突き立て、全体重を預ける様に倒れる。
「はあはあ。」
俺はゆっくりと息を整え、後で倒れている大熊の方を見る。警戒しながら近づき、解体できる事を確認し、安堵しながら地面に座り込む。
「痛たた。」
リュックからポーションを取り出し、3本とも使う。
「ヒロシやったすね。」
ジャックがゆっくりと近づいてくる。
「ああ、…それよりお前怪我は大丈夫か?」
俺はホワイトバックの1撃をまともに食らったジャックの怪我を心配した。
「ゆっくりなら動けるっす。先の遠投で傷が少し開いたすけど。」
「ったく、無茶するぜ。」
「ヒロシにだけは言われたくないっす。」
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。