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巨人と少年  作者: 暫定とは
エピローグ『再生』
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 君へ。

 アシリア歴二〇五二年、四の月某日。

 旅の終わりから三年が経ったよ。昨年の秋で、僕は十七歳になった。声変わりもしたし、身長も随分伸びたんだよ。君にはまだまだ、届きやしないけど。

 旅が終わってからの数ヶ月間、随分と落ち込んでいて、食事もまともに食べられなかった僕だったけど、半年とかからずに前向きに考えられるようになって、今ではすっかり元気になった。薄情だって、君は怒るだろうか。だとしたら申し訳ないと、僕は思う。


 旅の終わりに、僕たちは四つの大陸をもう一度回って、四大精霊(しだいせいれい)たちをそれぞれの祭壇(さいだん)へと還した。彼らとの契約を破棄して、彼らに本来の――フォルスの流れの監視者としての――役割に徹してもらう為にね。

 『申し訳ないことをした』って、ノームは最後まで謝ってたよ。自分がジークと契約を結んだのが全ての発端だ、戦いに巻き込んでしまって本当に済まなかった、ってね。旅が出来たことも、ノームと出会えたことも、結果的には良かったって、僕は思ってるんだけどね。


 一年間の旅を終えて、コントゥリに戻った僕たちを、村の皆は明るく迎えてくれた。ダグザさんは奥さんと一緒に、ルチカを抱きしめてわんわん泣いてたよ。僕の話を聞いて、『つらかったな』って慰めてもくれた。ジンは落ち込む僕を見て、『調子が狂う』みたいなこと言ってたけど、ニックと二人で、よく励ましてくれた。


 去年の春、村の学校を卒業した僕は、今は父さんの仕事を手伝いながら、加工業の勉強をしてる。父さんってば、最後の戦いでの無理が祟って、右腕に痺れが残っちゃったんだ。でも落ち込むことはなく、『腕が完全に動かなくなる前に、持てる技術の全てをお前に伝える』って張り切ってる。これがスパルタで大変なんだけど、結構楽しいんだ。最近になって漸く、『四分の一人前だな』って言ってもらえるようになったよ。褒めてるのかどうかは、よく分からないけどね。

 ルチカは学校を卒業してから、服飾についての勉強をしてる。将来はデザイナーになりたいんだって。村を出て勉強することも考えてるんだってさ。寂しくなるけど仕方ないよね。ルチカも随分背が伸びたし、最近では化粧もするようになって、すごく綺麗になったんだよ。好きな人でも出来たのかも知れない。ルチカはそういう話を僕にはしてくれないから、僕は分からないけどね。

 ヘルズもラメールも、元気でやってる。アーツ使いになって村に帰ったルチカは、ラメール共々、一時期すごい人気者になってたよ。


 数日前、シンから一通の手紙が届いた。王立学院に編入したシンも、もうすぐ卒業だそうだよ。あれ以来、陛下とフランクさん共々、僕のことを随分と心配してくれていたみたいだ。すぐに返事を書いたよ。来月の初旬に、帝都(ていと)で会おうってね。シンはもう二十歳になるのかな。シンも手紙で言ってたけど、時間の過ぎるのは早いよね。あれからの三年間、本当にあっという間だった。


 前向きに考えられるようにはなったし、基本的には元気だけど、僕は時折、心に空いた穴を思い出して寂しくなる。涙を流すほどではないけどね。この穴はいつ埋まるんだろう、もしかしたらずっと空いたままなのかも知れない。そんな風に考えてしまって、一人で落ち込んだりもしている。

 大きな変化のない、平穏な日常を謳歌(おうか)していると、僕は不意に、あの旅はもしかしたら、僕の夢の中で起こったことなのかも知れない、と考えることがある。何がそうさせるのかは分からない。そう思いたい自分が、何処かにいるのかも知れない。あの別れが夢だったのなら、幾らか心が救われるんじゃないか、って。

 でもルチカの隣には、旅の中で出会ったラメールがいる。決して夢なんかではないんだと、分かってはいるんだ。それでもやっぱり不安になる。真実が何処にあるのか、分からなくなる。

 君が一体どこにいたのか、僕にとっての何だったのか、時間が過ぎれば過ぎるほど、僕の中で曖昧になっていく。傷が埋まっていく。不思議なことに、この傷が綺麗さっぱりに埋まるのを、僕の心は一番に恐れている。


 確かめるように、僕はこうして、宛名のない手紙を今も書き続けている。コントゥリは今日も快晴に恵まれたよ。午後からはジンと一緒に、巨大遺跡に土を取りに行く予定だ。あそこの土は質が良くて、父さんも一押しなんだってさ。


 そんな具合で、時折不安に駆られつつも、僕は(おおむ)ね、元気にやれてしまっている。君を失ったあの日、『もう二度と笑えないかも知れない』と思った僕は、今となっては何処にもいない。

 デロス(とう)で君が言った通り、僕のことをからかったり笑ったりする奴は、今はもう一人もいないし、僕の周りには信頼の置ける、沢山の仲間たちがいるよ。でもここには、『君だけ』がいない。君だけがいないことを悲しんでいながらも、僕が抱いているその悲しみは、あの日、僕の心を深く(えぐ)ったものとはかけ離れた、酷く易しい悲しみだ。

 ねえ、ドボロ――。

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