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『親愛なるリリへ。
突然の手紙で驚かせただろうか。不躾な便りを許してくれ。
旅の終わりからもう三年が経ったかと思うと、時の過ぎるのは早いものだな。そっちの事情を考慮していなくて申し訳ないが、とりあえず、こちらの動きが一段落ついたので筆を執らせてもらっている。
フランク教授の推薦で、三年前、旅の終わった春から、王立ファンテーヌ学院の学生科に編入した俺も、この春で間もなく卒業だ。卒業後は研究科に移籍して、既に顔を出させてもらっている、元素機構の研究室に所属するつもりでいる。
三年が経った今でも、元素機構を世に送り出すことが出来ていないことを、この場を借りて謝りたい。研究と開発は進められているんだが、これが偉く難航している。理由は後述する。
三年前の冬、フォルスの流れの存在が学術的に証明されたことは耳に入っているだろうか? ニルバニアの方とも情報を共有しつつ、フランク教授が中心となって、存在の証明に向けて各方面へ働きかけてくれたんだ。俺も勿論協力した。教授の努力が功を為して、フォルスの流れは証明され、この証明は精霊学を始めとして、あらゆる関連学問に躍進を齎した。が、同時にこれは、元素機構の開発難航の理由にもなっているんだ。
フォルスの流れの証明は、フォルスの有限性の証明でもあった。――結果的に、これが証明されなければ元素機構は、千年前のアーツと同じ道を辿ったことになるわけだが――これを受けて元素機構は、むやみやたらに利便性を追求すればいい、というだけのものではなくなった。
そこで生まれたのが『エコロジー』、通称エコと呼ばれる考え方で、簡潔に言えばこれは、元素機構の運用に当たり、限りあるフォルスを如何に効率よく燃焼させられるか、という元素機構の開発方針のようなものだ。
つまり、元素機構の開発が難航している要因――元素機構が解決しなければならない大きな問題は、『世界的な普及を最終目標としている以上、世界中で使われてもフォルスの枯渇が発生しないような、超高効率の製品を開発しなければならない』ということだ。
前置きが長くなったが、今までは勉学の片手間でしか参加出来ていなかったこの研究に、春からは俺も本格的に取り組むことが出来る、ということを伝えたかった。難しい研究ではあるけど、実現される日を夢に見て、今から遣り甲斐を感じているよ。
さて、他にも併せて報告しておきたいことが三つほどある。
一つ目に、旅の後にネーデルラント――今では再び巨大遺跡か――から回収した、ジークたちが盗み出していた二百弱のドルミールだが、騎士団の部隊によってアルバティクスに持ち帰られた後、世界的にその情報が公開され、国内外から本来の使役者が、続々と受け取りに来られたということだ。半年ほど前、陛下からすべてのドルミールが使役者の手に渡った、という通達があった。嬉しかったよ。苦労して、最後まで戦った甲斐があったというものだよな。
二つ目に、旅の最中には閉鎖されていた、王立ファンテーヌ学院地下のドルミール安置室だが、ジークたちの動きが停止したことを受けて、一般にも公開された。あれからまた、観光客や旅人の手によって、十数体のアーツが目覚めたと聞いている。
三つ目に、その後のフォルスの流れについてだ。二年ほど前、フランク教授と俺の共同で開発を進めていた、フォルスの流れの密度を計測する元素機構が完成した。以来、ドルミールの回収にフォルススポットへ定期派遣される部隊にこれを持たせて、計測を頼んでいる。今のところ、フォルスの流れは安定しているし、密度も極めて良好だよ。
こちらからの報告はそんなところだ。そっちの様子はどうだろう? バーンズやルチカたちは、元気にしているだろうか。
ジークたちを倒したお礼とお祝いに、アルバティクスで陛下が開いてくれた凱旋パレードを覚えているか? あの時お前に元気がなかったことを、『パレードなど余計なお世話だったろうか』と、陛下が未だに案じていらっしゃるよ。
もしも気が向いたらで構わない。バーンズやルチカたちと一緒に、陛下に顔を見せてやってくれ。前もって知らせてくれれば、俺も予定を合わせてアルバティクスに戻るよ。
本当は、手紙を書こうと思った理由はこれなんだ。陛下もフランク教授も、ずっとお前のことを気にしている。勿論俺もだ。
何かを言える義理ではないが、少しでもお前の為に出来ることがあるのなら、何でも言って欲しい。返事を待っている。
シン』




