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巨人と少年  作者: 暫定とは
七章『決戦』
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 アシリア歴二〇四九年、四の月三の日。時刻は十五時を少し回ったところで、陽は微かに傾きかけている。

 惑星アシリア、アンモス大陸の西端、広大な平野の真っただ中に現れた、蘇りし往昔(おうせき)城郭(じょうかく)都市の、その城門前。厳格な雰囲気を(かも)()す、――三メートル以上はあるように見える、格子状で黒い鉄製の――両開きの門の前に、四人の人間と、一体のアーツは立っていた。辺りには風が吹き抜ける音が響くのみで、粛然(しゅくぜん)としている。

 門の正面に立ち、真っ直ぐな眼差しで門を見上げるのは、強い癖のある、ミディアムロングでクリーム色の髪と、濃紺の瞳を持つ十四歳の少年だ。全体的にふんわりとした頭髪のうち、後頭部の一房は特に癖が強く、それは常に立ち上がっており、風が吹くと(なび)いた。上下共に七分袖、七分丈の、黒い肌着の上から彼は、――太陽を模した金の刺繍(ししゅう)の施された――葡萄色(えびいろ)のケープと、駱駝色(らくだいろ)のガウチョパンツを重ねている。ガウチョパンツのベルトには小さな(さや)が携えられており、そこには彼の短剣が収められていた。旅立つ前、(ほとん)ど使っていなかった焦げ茶の革靴は、間もなく一年を迎えるこの旅の中で、随分と草臥(くたび)れてしまっていたが、その道中で履き慣れたこの靴が、彼は気に入っていた。彼の名前はリリだ。

 リリの左隣は、彼のアーツの定位置だった。旅立ちの少し前にリリによって目覚めさせられてから、何となく居付いた彼の左隣は、いつしかそのアーツにとって、特別でお気に入りの場所となっていた。二メートル少しある、土で出来た彼の体躯(たいく)は、肥満体型のようにふっくらとしている。黒の瞳に、芥子色(からしいろ)の鼻。やたらと横に長い口と、細長く尖った耳。両の側頭部からは斜め上に向かって突き出た角が、中程から折れ曲がって天を向いているが、左側の一本は先端が欠けてしまっている。下半身には、肥満体型にはち切れそうな浅縹色(あさはなだいろ)のズボンを、そして上半身には――リリと同じく太陽を模した金の刺繍の施された――緋色(ひいろ)のマントを、彼は(まと)っていた。身体(からだ)のところどころからは苔や植物が芽を出しており、頭頂部に生えた小さな双子葉(そうしよう)は、リリのお気に入りでもあった。彼の名前はドボロだ。

 ドボロの更に左側には、リリの幼馴染である少女が立っている。リリと同じ年に生まれ、いつしか彼に恋心を抱いていた彼女もまた、巻き込まれる形ではありながらもこの場所に立ち、強い意志を持って決戦に臨もうとしていた。紺瑠璃(こんるり)の髪は後頭部でシニヨンにして(まと)められ、その瞳は萌黄色(もえぎいろ)に輝いている。両の耳にはリングと板状に連なった、金のピアスが付けられており、父からのプレゼントでもあるそのピアスの、右耳のそれは特に、旅の中で起こった特別な出会いと共に、彼女にとって特別なものとなっていた。金色の装飾と袖のフリルが特徴の、ゆったりとした濃紺のワンピースを、彼女はその身に纏っており、茶色のベルトにはコバルトブルーの楕円体(だえんたい)が提げられている。その背に背負われた弓矢と矢筒には、彼女の決意が込められていた。彼女の名前はルチカだ。

 ルチカからドボロを挟んで、リリの右隣では、リリやルチカよりも幾らか背の高い、十六歳の少年が、睨み付けるような鋭い目つきで、同じ門を見つめている。ミディアムショートで深緑の頭髪のうち、前髪だけが僅かに長く、黒い瞳を持つ目に掛かりかけている。両親に捨てられた境遇を呪いながら生きてきた彼は、リリたちと出会った頃には酷く尖っており、態度や物言いも横暴だった。が、旅の中での仲間たちとのやり取りや、自分自身との自問自答、そして掛け替えのない相棒の言葉に心を動かされるうちに、友情や絆の意味を知り、かつては『へっぽこ』と罵ったリリのことをも、友として、好敵手(こうてきしゅ)として、彼は心から尊敬出来るようになっていった。松葉色(まつばいろ)の地に白い雲の紋様の入った、カンフーを思わせる武道着を、彼は纏っている。ベルトには白と緑を基調(きちょう)とした楕円体と、刃先に向かって末広がりに湾曲(わんきょく)した、柳葉刀(りゅうようとう)と呼ばれる不思議な形状の刀を、彼は携えていた。彼の名前は、シンだ。

 リリとドボロの後方には、リリの父である一人の男が立っている。騒動に巻き込まれ、旅を続行するという息子――リリからの手紙を受け取った彼は、リリたちの下に駆け付けて、見事そのピンチを救った。リリを連れ戻すつもりでの旅立ちだったものの、まだまだ子供だと思っていたリリの言い分に心を揺さぶられ、彼もまた、決心と共に息子の旅に同行し、この地に(おもむ)いていた。一八〇センチを超える長身に、荒ぶる漆黒(しっこく)の髪と、同じく黒の瞳。上半身には背中の火傷痕(やけどこん)を隠す、白い包帯を巻き付けており、その上からは学生ランダを思わせる、白く裾の長い詰襟(つめえり)の衣服を、彼は前を開いて着用していた。下半身にはタイトな黒いパンツを履いているほか、その両手にはリリと同じく、革製の黒い指無しグローブが嵌められている。背中の鞘には大剣(たいけん)が背負われており、ベルトには岩塊(がんかい)のような質感を持つ、赤黒い楕円体が提げられていた。彼の名前はバーンズだ。

 リリたちをその中へと(いざな)うように、門は開け放たれていた。街の中には真っ白な石畳が、規則正しく敷き詰められており、美しくも異様なその光景は、外の世界との隔たりを、リリには感じさせた。

(足を踏み入れれば、全てを終わらせるまで後戻りは出来ない)

 リリの脳裏には昨晩の、バウムの森の前のキャンプでの、シンの言葉が思い出されていた。

「ミドを除いて、これまでに俺たちの前に現れたジークの部下は二人。ハウルとリザだ。そしてミドの話に登場した、ジークの親友だったというヴェイグなる男も、生き残っているとすればこの計画にも絡んでいる可能性が高い。詰まりジークの下には現在、三人の部下が残っていることが考えられる。そして、奴らも決戦に備えているとするならば、恐らく、ジークに辿り着くまでに待ち受けているであろうこの三人を、俺たちはまず、倒さなければならない。――以上のことから、今回の突入作戦で、俺たちが成し遂げるべき目標は大きく二つ。二つ目は分かっているとは思うが、ジークを倒して、奴の野望を阻止することだ。そして一つ目は、その為にリリとドボロを、ジークの元まで可能な限り軽傷で連れていくこと。これだ」

 焚き火に横顔を赤く照らされながら、シンはそう語った。

「ジークと奴のアーツ・リュンヌを含め、先方は四組。そしてリリとドボロを含め、こちらも四組だ。あまり望ましい手段ではないが、俺たちには時間がない。目標をより確実に達成する為に、一人一殺ではないが、一組につき一組を相手にしてもらわなければならない状況も出てくるだろう。それだけは、覚悟しておいてくれ」

 そして、現在。いよいよ差し迫った決戦の舞台へと、リリたちは足を踏み入れようとしていた。

(……全てを終わらせることが出来たとしても、ここを後にする時には、ドボロは、もう――)

 目を伏せて唾を飲み込み、深呼吸で息を整えると、リリは今一度顔を上げ、視界の奥に(そび)える城を見つめた。数秒の沈黙を挟むと、リリは後ろを振り返ることはなく、一同に呼びかけた。

「みんな」

 一同は、リリの背中へと視線を向けた。クリーム色の癖毛と葡萄色のケープが、双子葉と緋色のマントが、金色のピアスと濃紺のワンピースが、松葉色の武道着が、白い詰襟の長裾が、吹き抜ける風に、一つ大きく、(ひるがえ)った。

「――いこう」

 そして、リリは城門をくぐった。きっと、出ることはあっても、二度と入ることのない、この門を。最後の戦いのその火蓋が、今この刹那(せつな)、切られようとしていた。

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