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巨人と少年  作者: 暫定とは
六章『約束』
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 ローレルの実を手に入れたリリたちがヒマロス大陸を発ってから、二週間が経過しようとしていた。アシリア歴二〇四九年、三の月七の日。晴天の下を西に向かって走るドボロ号は、その船頭(せんとう)の遥か彼方に、一つの小さな島を見つけた。

 フォックシャル帝国でも随一のリゾート地として人気を博するこのデロス島は、大きく二つのブロックに分かれている。東西に長い、瓢箪(ひょうたん)のような形状をした島のうち、西のブロックは比較的平坦な地形を有しており、居住区の他、温泉街や繁華街などの観光地区や、景観の美しい砂浜を持つ海水浴場をも併せ持っている。年間を通して高い気温を保つこの島は、〝常夏の島〟として世界中に(あまね)く知られており、特にこの西側のブロックは、一年を通して多くの観光客で賑っているのだそうだ。そして東側のブロックには、殆ど人の手の入っていない、緑豊かな密林地帯を超えた先に、小さな活火山がある。『デロス火山』と呼ばれるこの山には、太陽を司る神が宿っているとの言い伝えが、この島には古くから残されていた。

「この話についてもっと詳しいことが聞きたいんなら、島長(とうちょう)様を当たったほうがいいかも知れないね。大通りをずっと行くと、大きなお屋敷があるんだ。それが島長様のお住まいだよ」

 昼前に島に上陸したリリたちにそう教えてくれたのは、デロス島の観光案内所に勤める、褐色(かっしょく)の肌を持つ陽気なガイドの青年であった。彼を始めとし、島の住人には明朗な者が多く、上陸の際にも、予告のない訪問だったのにも拘らず、リリたちはよく歓迎され、首から提げる真っ赤な花飾りまでプレゼントされた。シンとバーンズは恥ずかしそうに、リリとルチカは嬉しそうにそれを受け取った。ドボロの首には勿論通らなかったので、ドボロはこれを頭に乗せて、花冠(はなかんむり)のようにした。

「遊びに来てるわけじゃないんだがな」

 シンは文句ありげにそう言いつつも、微笑みを隠し切ることは出来ずに、満更(まんざら)でもないようだった。「いつも怖そうな顔してないで、ちょっとは肩の力抜いたら」と、ルチカが言うと、「言葉を返すようで悪いが、これが普通の顔なんだ」とシンは返した。

「ま、ここでの用が済めば、後はジークとの決戦だ。ここまで辿り着いた報いと思って、たまにはリゾート気分もいいだろう。何よりもシン、お前だってまだ十六歳の子供なんだ。少しくらいはしゃいだって、何もおかしいことはないんだぞ」

 言いながら、バーンズは両の手をそれぞれ、リリとシンの頭に乗せて微笑んだ。それを払い除けると、シンは「フン」と鼻で笑って、眼前に広がるデロス島の風景に目をやった。

「まあ、今日くらいは悪くない」

 シンの視線を追うようにして、リリもそちらに目を向ける。

 港からすぐの観光案内所の前には、デロス島で一番の大通りが広がっている。大通りには食べ物屋や服屋のほか、宿屋や土産物屋などが軒を連ねており、そのどれもがこのデロス島の特産品や、島の伝統文化に強く根付いたラインナップの商品を取り揃えているようだった。建物の後ろ側には南国らしく、ヤシ科と思しき背の高い樹木が、ズラリと立ち並んでいる。そしてリリたちが見つめる大通りの先には、ガイドの青年が言っていた通り、鬱葱(うっそう)と茂る密林と、更にその向こう側には、赤茶の肌を持つ火山が聳えて見えた。初めて目にする、異国情緒(いこくじょうちょ)溢れる熱帯の島の風景に、リリは巨大な遊戯施設の入り口に立たされているようかのような感覚と共に、心が湧き立つのを感じた。

「みんな、行ってみようよ!」

 リリたちは見物や買い物を楽しみながら、いつになく気ままな足取りで、然し(せわ)しなく、大通りを渡り歩いた。それぞれの店は異なる特徴を持っており、そのどれもが一貫して魅力的ではあったが、リリは途中の屋台で購入した、甘い蜜のかかったドーナツが一番気に入った。「すっごい甘くて美味しい!」とルチカも大層喜んでいたが、シンは「ちょっと甘すぎるな」と顔を顰めていた。が、文句を言いつつもシンはそれを完食していたので、リリは「結局食べてるじゃん」と彼をからかった。

「不味いとは言ってない。甘すぎるだけだ」

 頬にドーナツを詰めたまま、シンは答えた。その言葉が果たして、そのドーナツを褒めているのか(けな)しているのかはよく分からなかったが、リリは特には気にしなかった。

 冷たいパスタが評判の店で昼食を摂った一行は、日の傾きかけた午後三時頃、大通りの突き当りに存在する、デロス島の歴史文化会館を訪れていた。この会館には島長と呼ばれる、島を仕切る人物の自宅も併設されているそうで、受付で呼び出したところ、彼はものの数分で、リリたちの前へと姿を現した。リリたちは島長――アーノルドに、ここまでの経緯(いきさつ)を掻い摘んで話した。

「成程、火の鳥伝説の聖地巡礼(せいちじゅんれい)ですとな。お若いのに熱心な方もいらっしゃるものだ」

 六十代半ばほどに見えるアーノルドは、褐色の肌に黒の瞳、そして前頭部が禿げかけた白の短髪を持っていた。その身体はかなりの大柄で、彼が連れている二メートルほどの土のアーツ・ハオと並ぶと、二人は兄弟か何かのようにも見えた。間違っても親子にすら見えない自分とドボロとは大違いであると、リリは思った。リリには決して、それが羨ましいというわけではなかったが。

「遥か昔の話です。太陽王の時代よりも更に昔。このデロスに初めて我らの祖先が足を踏み入れた時、()の神は一度だけ姿を見せたそうな。もしやこの場所を、棲み処にでもなさっていたのかも知れませんな。記録、と呼べるほどのものではありませぬが、言い伝えとして残っているのはその一回のみ。然し我らが祖先は、その神々(こうごう)しい姿に一目で魅入られて祀り上げ、再来を願って祭壇まで作り、日々彼の者に祈ったと言います。……火の鳥、ガルーダ、飛鳥(あすか)。様々な呼び名での言い伝えが残されていますが、彼の者の特徴については、そのどれもが共通して、信じられないほどに巨大で、金と赤に輝く炎の身体を持っていた、といいます」

 アーノルドが語ったその情報に、リリは確信を持った。確かに、アポロンはこの地に姿を現したことがあるのだ、と。

「以前にここを訪れた考古学の方によれば、バルド教が崇める唯一神である、太陽神アポロンを、これと同一視する考え方もあるそうですな。参考になればよろしいのですが」

 アーノルドの案内に従って、一行はデロス島東側のブロックへと足を踏み入れた。川の流れる深い谷に架けられた吊り橋を渡ると、そこには多様な植物が所狭しと生い茂る、密林地帯が広がっていた。密林自体には人の手が入っていないとはいえ、代々島長を務めるアーノルドの一族が、今でもアポロンの祭壇へは、週に一度の参拝を行っているらしく、火山へと続く進路だけは、獣道のように()(なら)されていた。これを目印にして密林を抜けたリリたちは、一転して視界の開けた、赤土の地面を持つ火山道(かざんどう)へと辿り着いた。火山活動の影響か、密林の中と比べて、辺りはじんわりと暑い。が、やはり神前(しんぜん)ということもあってか、山道は古の人々によって整備されており、密林と比較して幾らか歩きやすかった。いずれにしても、つい先日世界最高峰を登頂したリリたちにとっては、小さな火山の一つや二つは、丁度いい散歩コースくらいにしかならないということには違いなかった。夕闇(ゆうやみ)の迫る午後六時頃、リリたちはデロス火山の中腹に形成された、アポロンの祭壇へと辿り着いた。

「ここ、みたいだな」

 後方からそう言ったシンを振り返って、リリは彼に頷き返すと、眼前に佇む石の舞台に、今一度目をやった。

 ノームやシルフの祭壇と同じく、四本の石柱に囲まれた四角い舞台は、表面の美しく削られた、特別白い石材で造られている。が、大きさはノームらのそれとは一線を画しており、その二、三倍――十メートル四方以上はあるように、リリには感じられた。

 十段ほどの段差を上り、リリは舞台の凡そ中央まで歩くと、懐から取り出したローレルの実を、そこに置いた。くるり、と身体を(ひるがえ)したリリは、その地点から、ルチカ、シン、バーンズの三人に頷きかけた。それを合図にするようにして、リリ含め四人は、それぞれの属性の大精霊を、そこに招来(しょうらい)した。

地神(ちしん)」「水神(すいじん)」「風神(ふうじん)」「火神(かしん)――招来」

 予めリリたちからこの日のことを聞いていた四大精霊たちは、リリたちの身体に宿ることはなく、四本の石柱の上空にそれぞれ留まり、そこで本来の――鹿、鯨、(とび)山椒魚(さんしょううお)の形へと姿を変えた。舞台の中央に身体を向けると、彼らはそこに(こうべ)を垂れて、彼の太陽神――アポロンへと祈りを捧げ始める。四頭が位置に付いたことを確認すると、今度はリリはルチカへと視線を向けて、「それじゃ、ルチカ」と静かに声を掛けた。

 リリの言葉に頷き返すと、ルチカは小さな咳払いと、一度の深呼吸を挟んでから、スゥッと息を吸い込んだ。

(――時が止まる)

 ルチカがこの歌を紡ぎ始める寸前、リリはどうしてか、いつもこの感覚に襲われた。が、きっとその理由は、幾ら探しても見つからないのだろうと、リリは思っていた。勿論、実際に時が止まった試しというのはないのだし、時が止まる道理も、そこには存在しないのだから。

 ルチカの美しい歌声を聞きながら、リリの脳裏にはふと、納物祭の風景が思い起こされた。よくよく考えてみれば、あの日、ミドと一戦を交えたのが、全ての始まりだったのかも知れない。そして自分を取り巻く環境は、あの日から随分と変わり果ててしまった、と。然し、リリはそこに後悔の念を感じることはなかった。寧ろその逆で、リリは今、あの日の戦いを切っ掛けに、こうしてこの場に立てていることを、嬉しくすら思っていた。もしもあの日の戦いがなければ、自分たちは何も知らずにコントゥリに帰っていただろうし、ともすれば、この世界は今頃、あっけなくジークの手に落ちていたのだから。

 ルチカの歌と、四大精霊の祈りに応えるように、舞台からはユラユラと、金色(こんじき)の光が湧き起こり始めていた。再び舞台の向こうに向き直ったリリは、ベルトの(さや)から抜き取った短剣を以て、自身の左手親指の先に、小さく切り傷を入れた。か細くも鋭い痛みが、そこには生じた。リリは左手を前に差し出して、傷口からじんわりと滲む赤い血を、舞台の凡そ中央、ローレルの実の脇へと、数滴落とした。刹那、舞台から湧き起こる金色の光は、勢いを増してドッと溢れ出し、ルチカの歌が終わりに近付くにつれて、それらはゆっくりと、舞台の中央上空へと収束していった。

 それが――黄金(おうごん)に輝く身体に、対を為す四枚の翼と、流れるような長い尾、そして赤く燃え盛る炎のようなトサカを持つ――巨大な鳥の姿に変わるまで、リリはひと時も目を離さずに、それを見つめ続けた。ミドの話を聞いた段階ではピンと来ていなかったが、リリはその姿に、コントゥリを旅立った日の夜に、バルド教の修道院で、この光り輝く鳥が描かれた壁画を見ていたことを思い出した。ルチカが完全に歌を歌い終えると、四大精霊たちは祈りをやめ、今度はリリたちの身体へと宿った。精霊をその身に招来した状態であれば、精霊言語(せいれいげんご)を理解しておらずとも、リリたちは精霊と言葉を交わすことが出来る為だ。

 歌が終わってから数秒の沈黙の後で、目を丸くしたまま、半開きになって塞がらない口で、リリは尋ねた。

「あなたが……、(そら)の極精霊・アポロン……」

 刺さるような視線をリリに向けると、黄金の光を放つその生命体――アポロンは、ゆっくりと静かに言った。

(リリーシア、……ではないか。彼奴は死んだのだったな)

 その声は、リリが想像していたよりも遥かに低く、威厳に満ちていた。彼が言葉を放つだけで、一帯の空気がピリピリと張り詰めるような感覚を、リリは覚えた。唾を飲み込んでから、リリは答える。

「僕はリリ。リリーシアの血族の者です。今日は、或る目的の為にあなたのお力をお借りしたく、ここまで参りました」

(ほう、リリーシアの子孫というわけか……。して、あれからどれだけ経った)

 「千年です」とリリは答える。アポロンはふと、何処ともない虚空を見つめて、懐かしむようにその目を細めた。

(……千年か。この星には、いずれ再び訪れることになるような気はしていたが、長いようで短かったな)

 それからアポロンは、再びリリに視線を落として、(セレーネは、まだここにいるのか)と尋ねた。

「そのことも含めて、これから僕たちの目的……、僕たちが成し遂げなければならないことをお話します。その上で、お力を貸していただけるか、判断して欲しいのです」

 (ふん)と鼻で笑ってから、(よかろう。話せ)とアポロンは言った。シンにも話を振りながら、リリは千年の間に、このアシリアで起こったことを、アポロンへと伝え話した。

 千年前、ジークとリリーシアの対決の後、狂気に囚われたジークが、一度は世界を滅ぼしたこと。それからの千年間、(とき)のフォルスを以て四人の仲間と共に、『世界の玉座に坐す君主』として、ジークが生き長らえてきたこと。鈍足ながらも復興を遂げてきた人類によって、現在、フォルスや精霊、アーツの研究が少しずつ進められつつあるということ。アーツや人類を忌むべき存在と認識しているジークが、再び世界を崩壊させようと企てていること。ジークの仲間だった或る人物の口から、自分たちは千年前の出来事を聞くことが叶ったこと。そしてジークを止める為に、自分たちには(とき)のフォルスに対抗し()る、(そら)のフォルスの力が必要だということ。

 アポロンは終始、やはり何処ともない虚空を見つめながら、その話を聞いていた。話が終わると、アポロンは数秒の黙考(もっこう)の後で口を開いた。

(ジークフリードか……。懐かしい名だ。然しまさか、あの小僧が生き延びていようとはな)

 リリたち一行へと視線を向けると、アポロンは続けた。(セレーネが奴に縛られ続けているのは、精霊側から見ても問題でもあるし、――これはみすみす小僧に封印された四大(しだい)の失態も大きな要因だが――四種のフォルスによって保たれる筈のこの星の秩序が、本来であればここには存在しない、(とき)のフォルスによって乱されるというのは、極精霊としては見過ごし難い。それに加えて、小僧め偶々(たまたま)身に余る力を宿して生まれただけだというのに、世界の王などと(のたま)っているのは、個人的にも気に入らん)

「では……、お力をお貸しいただけるということですか?」

 期待の眼差しを向けるリリに対しアポロンは、(あの時、二度と人間に力は貸さぬと誓ったのだがな)と、ぼやくように呟いた。リリに睨みを向けながら、(勘違いをするなよ)とアポロンは続ける。

(お前たちの世界がどうなろうと、(わし)にとってはどうでもいいことだ。儂は目的はこの星の秩序と、同胞であるセレーネを在るべき状態に戻すこと。そしていけ好かない小僧への復讐だ。……それでもいいなら力を貸そう。世界の玉座が誰のものなのか、小僧に思い知らせてやろうではないか)

 アポロンはそう言うと、ニヤリ、と笑みを浮かべて見せた。

「本当に!?」

 リリは思わず敬語を忘れて、喜びを露わにした。アポロンの目的が邪心(じゃしん)によるものであろうと、それは道理として間違っているわけではなかったし、リリにとって重要なのは、彼が力を貸してくれるのかどうか、ということであったからだ。が、リリの喜びも(つか)()、続くアポロンの言葉に、それは打ち砕かれることとなった。

 (但し、条件が二つある)と、アポロンは言った。(まず、目的が達成され次第、儂との契約を破棄し、儂を解放することだ。セレーネを解放したとて、儂がお前に縛られたままでは何の意味もない)

「うん……!」

 その条件には当然、リリは頷くことが出来た。それはアポロンに言われる前から、自分で提案しようと考えていたことでもあったからだ。

(そしてもう一つ)

 一呼吸を挟んでから、アポロンは続ける。(リリーシアが(そら)のフォルスを使いこなすことが出来たのは、生まれ持った天性の才能と、大きく丈夫な身体を持っていたからだ。確かに、お前の身体からは微量ではあるが、(そら)のフォルスを感じ取ることは出来る。才能についても、皆無というわけではないようだが、然し儂の力を操るには、お前の身体は余りに華奢(きゃしゃ)だ。残念ながらお前一人の力だけでは、(そら)のフォルスを扱い切ることは出来ん。……が、それを打開する方法は、ないわけではない)

 (はや)る気持ちを抑え切れずに、リリは焦りを露わにして尋ねた。

「じ、じゃあ、どうすれば……?」

 ふ、とアポロンは、リリの後方、舞台を降りたところにいたドボロに視線をやった。キョトン、とした表情になって、ドボロはそれを見つめ返した。

(アーツ、と言ったか。使役者とフォルスで繋がることの出来る、あの者を(いしずえ)として儂と契約を結べば、お前にも(そら)のフォルスを操ることは出来よう。道理は分からぬが、あの者は他のアーツと比較しても、フォルスへの融和性が幾分高いようだ。あの者自身の身体には(そら)のフォルスが宿っていなくとも、その融和性の高さと、お前とのフォルスの繋がりを活かせば、あの者にも(そら)のフォルスを一時的に受け入れ、使役することくらいなら出来る筈だ)

 アポロンの言葉に、リリは安心した。ドボロと共に戦えるということについて、歓喜すらした。然し――。

(但しだ)

 続いてアポロンから告げられたもう一つの条件を、リリには到底、受け入れることが出来なかった。突き付けられた現実はあまりにも残酷であり、それは鋭利な刃物となって、確かにリリの心に牙を剥いた。それぞれが別々の深淵(しんえん)へと続く大きな岐路に、リリは立たされることとなった。

(本来ならば如何(いか)なる生命も、その身に宿す属性以外のフォルスとは、互いに弾かれ合う。言ってしまえばこの方法は、自然の摂理にも逆らう禁忌(きんき)の手立てというわけだ。勿論、それを行使する者の身には、甚大な負荷がかかる。この力を使うことで、お前に降りかかる代償……、もう一つの条件は――)

 アポロンの言葉を聞きながら、それが一体何を意味するのかを、リリには理解せざるを得なくなった。リリの顔に浮かべられた笑みは少しずつ曇りを見せ、最後には欠片(かけら)も残さずに、そこから消え去っていった。残されたのはただ、全ての希望と共に、ここまでを歩んできた意味をも見失ったかのような、悲哀(ひあい)に満ちた表情だった。

(――そのアーツとの別れだ)

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