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こうして、太陽王の時代は終わった。アーツにより栄えた文明は、皮肉にもアーツによって、その幕を閉じることになったのだ。
ジークはネーデルラント城の地下深くに根城を築き、城の謁見室に置かれたままだった玉座を、そちらに移した。かつては父である彼の王が、そして一年前までは、リリーシアが座っていたその椅子を。
「これより先、私がこの世界を治める。二度と人類が愚かな過ちを犯さぬよう、我らで見守っていこう。我が名は、ジークフリード。世界の玉座に坐す、君主たる者」
玉座に着いたジークは、ミドら四人に向かって、そう宣言した。
以来、ジークは刻のフォルスを以て、自身含め五人の肉体を、若いままに保ち続けた。幾度となく季節は巡り、時は流れ、やがて千年の月日が、彼らの前を過ぎ去った。
ジークの魔手から逃れた人々は、この千年という長い時間の中で、一歩ずつではあるが着実に、復興を遂げていった。ネーデルラント廃墟跡の南には、土器と金属加工を名産とする、小さな村が栄えていた。
『誇り高きクアセルス王家の血が、この村には流れている』――或る年代まではそんな噂が、村の中では実しやかに囁かれていた。終天の年月の中で、噂はいつしか風の中に消え、その国の名前すらも、人々の記憶からは忘れ去られていった。
噂の真偽は神のみぞ知る、といったところだが、この村の或る家では今日まで、代々クアセルス国王にのみ着用を許された、とある衣服の意匠が伝えられ続けているのだとか。その紋様が、かつては王家の紋章であったことを、今となっては村の住人は愚か、その家の人間すら知ることはない。紋様の意味こそ薄れようとも、その〝太陽を模した金の刺繍の施された葡萄色のケープ〟は、今もこの世界の何処かで、王の再来を待つ柔らかな風に、はためいているのかも知れない。




