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巨人と少年  作者: 暫定とは
五章『宿命』
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 十五年の歳月が流れた。

 リリーシアとアポロンの契約が結ばれた後、王都へと戻ったジークは、或る〝特別なアーツ〟の開発に取り掛かった。通常のアーツとは勝手が違った為、一筋縄ではいかなかったものの、一ヶ月ほどの研究期間を経て、それは完成した。アポロンの持つ(そら)のフォルスをその身に宿した、(そら)のアーツ・ソレイユだ。ジークはこれをリリーシアへと贈り、リリーシアには、ソレイユと彼自身の二人を教祖とした教団、『バルド教』を開かせた。

 バルド教は、唯一神として太陽神アポロンを信仰し、アポロンと同じ力を持つソレイユと、ソレイユを使役することの出来るバルドリリーシアを教祖として崇拝(すうはい)する教団である。『あらゆる繁栄の根源はフォルスの力であり、フォルスを操ることの出来るアーツを使役することによって、人々は栄光へと導かれる』というのが、バルド教の基本理念だ。アポロンの契約者でもあるリリーシアは、アポロンの声を聞くことの出来る唯一の存在――太陽王として君臨し、人々に教えを説いた。絶対的な君主であった先代国王を失くし、道標(どうひょう)を見失って路頭に迷っていた民衆は、新たな力を以て自分たちを導かんとするリリーシアに(なび)き、バルド教はアーツの普及と共に、瞬く間に世界中に広まった。同時に、リリーシアは父をも遥かに凌駕(りょうが)する威光を、その手中に収めることとなった。

 それからの十五年間、アーツの普及によって、クアセルスを始めとする世界各国は目覚ましい発展を遂げてきた。土や火の力による、建築業や加工業での活躍を主として、アーツは様々な仕事の現場に於いて、多くの功績を収めた。風のアーツは航海技術や、風車を利用した製粉業などに、水のアーツは水産業などに大きな影響を与え、十五年の間に、あらゆる業種で技術革新が起こった。世界的に好景気が続き、彼の王の死後とは打って変わって、世界は喜びで溢れ返った。安寧(あんねい)を手にした人々は、それを(もたら)したリリーシアを、太陽王として一層強く崇拝した。

 ジーク率いるアーツの開発研究所は、アーツの普及に伴って拡大し、十五年を経て、百人以上の研究員が出入りする大規模な研究施設となっていた。技術の進歩によって、アーツの生成や、それに伴うあらゆる数式に効率化や簡略化が為され、ジークは日に三体までなら、安定してアーツを生成することが出来るようになっていた。勿論、セレーネの協力なくしては、ジークの身体は今頃ボロボロになっていただろうが。

 研究施設に掛かる負担を軽減する為、ジークは十年ほど前から、フォルスチェインの製造を各加工業者に委託するようになっていた。技術の革新に伴って、素材や形状を殆ど選ばずにフォルスチェインを機能させることが出来るようになっていたことも、その取り決めには重要なポイントとなった。その代わりに、本来であればフォルスを殆ど通さない無生物である装飾品を、フォルスチェインとして完成させる仕上げの作業だけは、アーツの購入者各人に行ってもらうことが必要になった。これには精霊の力が必須だったので、ジークはこれを『精霊のまじない』と名付け、――この頃には世界各地に存在していた――バルド教の教会や修道院などで無料で受けることが出来るように手回しをした。とはいえ、絶対数の少ない精霊術士を、世界中の教団施設に配置することは困難を極めたので、ジークはノームら四大精霊に呼びかけ、彼らから、現地の中・小精霊に対して協力を要請してもらうように取り計らった。結果的に、精霊たちはこれを受け入れた。教会や修道院に常駐する司祭などの教団員が――それが精霊術士でなかったとしても――、全施設共通の鐘の音を鳴らすことによって、近場の精霊がそこに赴き、フォルスチェインにまじないを施してくれる、という内容で、ジークと精霊たちは合意した。

 様々な分野での活躍を見せる一方で、ジークにとっては不本意な方面でも、アーツは利用された。強盗や殺人などの事件に使われることは度々あったが、ジークはこれらに関しては、勿論許されないことだとは思いつつも、利便性が併せ持つ危険性なのだ、と割り切ることが出来た。ジークが最も嫌悪し、軽蔑していたのは、アーツの軍事転用である。当時の世界情勢は、クアセルス王国の一強だったこともあり、クアセルスを含めた各国は互いに高め合い、協力し合う流れが作られてはいた。とはいえフォルスを自在に操るアーツの存在は、兵器としても十分すぎるほどに魅力的だということは、ジークにも否定出来ない事実だった。どの国からともなくそれは始まり、歯止めを利かせる隙もなく、各国が兵器としてのアーツを保有するようになった。これまでの兵器とは比較にならないほどの力を持つアーツは、戦争の抑止力にもなるだろうと思い、ジークはこれを禁止はしなかった。禁止をしたところで、明るみにあるものが影に隠れるだけだということが、目に見えてもいたからだ。どうせ消すことが出来ないのなら、明るみに出しておいたほうがまだマシだと、ジークは思っていた。リリーシアも不本意ながら、有事の際の防衛を目的として、騎士団内にアーツ使いの部隊を編成し、これの育成に努めた。

 ジークの知らないところでは、街の外に巣食う魔物や、性質(たち)の悪い盗賊などとの戦闘を主な目的として、〝共鳴(チェイン)〟を前提とした『共鳴術(きょうめいじゅつ)』なる武術が開発されてもいた。緻密(ちみつ)なフォルスコントロールによって、フォルスを効率よく燃焼させ、より効果的なダメージを与える、というのが、その基本的な考え方であるらしく、それを応用し、剣術や杖術、弓術(きゅうじゅつ)などの技と組み合わせた『共鳴術技(きょうめいじゅつぎ)』などというものも、同時に開発されていた。八年前にハウルにその存在を知らされてから、ジークは開発者でありながら、開発者だからこそ気付けなかった、〝共鳴(チェイン)〟の真髄にも迫り得る共鳴術に強く興味を持ち、そちらの研究にも身を乗り出した。

 ジークは四十歳に、リザは三十九歳に、リリーシアは三十七歳に、ハウルは三十五歳になっていた。

 王としての激務に追われるようになった上、バルド教の教祖として、ソレイユを傍に置くべき場面が増えたリリーシアには、ドボロと共に過ごす時間を取ることは難しくなっていた。昔と変わらずにリリーシアを溺愛(できあい)していたドボロは、勿論寂しさを感じないではなかったが、ドボロはドボロで彼なりに、リリーシアの忙しさを理解してもいた。文句の一つを言うこともなく、リリーシアが時折、自分と共に過ごす時間を作ってくれるのを、ドボロは健気(けなげ)に待ち続けた。どうしても暇を持て余すと、ドボロはジークの研究所に赴いて、所内の片付けや、研究員らへのお茶出しなどを進んでやった。尊敬するジークが初めて造ったアーツということもあり、研究員たちはドボロのことを珍しがり、よく可愛がった。

 そしてドボロだけではなく、ジークとリリーシアの二人も、互いに多忙を極める生活の中で、唯一無二の兄弟でありながらも、ゆっくりと話をしたりする時間は取れなくなっていった。時折交わされる会話は、殆どが兄弟としてではなく、国王とアーツ開発者としての、事務的なものになっていた。それでもジークは、特に寂しさや不安を感じることはなかった。忙しいのはお互い様だし、王や教祖としての威厳を身に纏っていても、リリーシアの本質は変わらないと、ジークは信じることが出来ていたからである。例え言葉にすることはなくとも、自分とリリーシアは、クアセルス王国とこの世界の繁栄という、共通の目標に向かって進み続けているのだ、と。

 リリーシアと王妃の間には、間もなく一歳になる王子も生まれていた。王子の誕生に際して、国内は一時、お祭りのようなムードに包まれた。アーツによる世界的な繁栄も手伝って、人々の幸福感は絶頂を迎えていた。この幸せが、いつまでも続けばいい――多くの人はそう願っていたし、それが実現することを、当然のように信じていた。いつまでも続くと信じさせるほどの力を、リリーシアとバルド教は持っていたのだ。そしてそれは、ジークにもリリーシアにも言えることだった。栄光が半永久的に続くことを、二人は疑いすらしなかった。二人だけではない。リザも、ハウルも、ドボロも、そしてヴェイグとミドも。

 暗雲が、彼らには近付いていた。諸行無常(しょぎょうむじょう)と、盛者必衰(じょうしゃひっすい)が、彼らの夢と未来に、鉄槌(てっつい)を振り翳していた。

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