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巨人と少年  作者: 暫定とは
五章『宿命』
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 それから更に一年が経過した。幾度もの試作の末、ついにアーツの基礎となる部分を完成させたジークたちは、一つの大きな壁に行き着いた。

 現状、ノームとしか契約を結んでいないジークには、土のアーツ以外を生成することは出来ない。ジークの次なる課題は、残る三体の大精霊と契約を結び、火、水、風の属性のアーツをも造り出せるよう、準備を整えることだった。

「それじゃあ、行ってくる」

 ジークの見送りに、国王は来なかった。リリーシアは学校の授業がある為に付いていくわけにはいかず、旅にはリザとドボロが同行することとなった。国王は一応、今度は旅立ちの許可を出した。「父上だって、兄さんの研究の必要性は分かってる筈だよ」、とリリーシアは言った。王妃とリリーシアに見送られ、ジークたちは王都ネーデルラントを出発した。

 ネーデルラントから凡そ半日、アンモス大陸の西海岸に形成された港町から、ジークたちはこの大陸を旅立った。決して簡単な旅路ではなかったし、ジークたちには死線(しせん)(きわ)を歩かざるを得ないことも度々あった。リザは杖術(じょうじゅつ)(たしな)んでおり、医学にも長けていた為、足手纏いにはならなかった。パラム大陸のシルフ、クラスィア大陸のサラマンダー、ヒマロス大陸のウンディーネの順にジークたちは巡り、契約を交わしていった。四体もの大精霊と(ちぎ)りを結んだジークは、徐々に身体に募っていく、倦怠感(けんたいかん)のようなものを感じていた。が、喚くほどの痛みや苦しみは伴わなかったので、ジークは特に弱音を吐くことはしなかった。

 凡そ半年間に渡る旅路から、無事に王都へと帰ったジークたちを迎えたのは、リリーシアによる悪い(しら)せであった。

「兄さん、リザ……。父上が、病に倒れた」

 ジークたちは慌てて、ネーデルラント城の国王の私室へと向かった。ベッドに仰向けに倒れた父の容体(ようだい)は、ジークが予想していた状態よりはまだマシではあったが、以前と比較すると酷く痩せ細っており、衰弱しているのが見て取れた。

「ジークか……、親不孝者め。父の醜態(しゅうたい)を笑いに来たか」

 弱々しく擦れた声で、父はそう言った。ジークはそれには答えなかった。答えられなかった。変わってしまった父の姿と声を、ジークには父のものと認識することが出来なかった。したくなかったからかも知れない。この人は一体、自分にとっての何だったのだろう、とジークは考えた。然し答えは出なかった。それから父は「無事に戻ったのなら、それで良い」と言った。「はい」とだけ返して、ジークは部屋を後にした。

 ジークたちの旅立ちの直後に、その病はネーデルラントの人々の間に流行り出したという。激しい頭痛や腹痛に始まり、徐々に内臓の機能が低下していく。既に死者も数名出ており、原因菌が分からない為に対策のしようがなく、薬も未だ開発されていない。唯一の救いは、その感染力がそれほど高くはない、ということであった。四千人ほどが暮らす大都市であるネーデルラントでも、この半年間で感染者数は、未だ百人にも届いていない。とはいえ薬が存在しない以上、国王の命はそう長くはない。何かに駆り立てられるように、ジークは旅から帰ったその日から、アーツ量産に向けての準備に取り掛かった。父が生きているうちにアーツ開発に於ける成果を上げ、自分のしてきたことは無駄ではなかったと、ジークは父に認めさせたかったのだ。

 それから暫くの間、王室内は騒がしかった。国王が倒れたのだからそれも当然ではあるが、騒ぎの中心となっているのは、彼の王の死後、玉座に誰を座らせるのか、ということであった。本命だったリリーシアはまだ若すぎるし、国王はジークを任命はしないだろう。そこで目を光らせたのは、がめつい側近や大臣らだ。彼らは国王の見舞いに足繁(あししげ)く通い、その機嫌を取ったが、国王は断固として、椅子を譲る気配を見せなかった。

 「私はまだ死なないし、これを息子以外に明け渡すつもりはない。王座を目当てに私に近付こうとしているのならば、それは諦めろ」と、王はよく口にした。が、リリーシアがまだ十代であることが、国王にとってもやはりネックだった。リリーシアが成人するのが先か、それとも王が死ぬのが先か、親族は固唾(かたず)を飲んで見守っていた。

「どいつもこいつも、勝手なことばっかり言ってる。父上も連中も俺の話は聞きやしない」

 当の本人であるリリーシアには、王座を継ぐつもりは殆どなかった。そこには長者である兄が座るべきだと、リリーシアは考えていたからだ。然し、ジークの考えは違った。或る日、ジークの研究施設でのことだ。

「お前の言い分は、分からないでもない。然しお前には、その為の十分な才がある。そしてそれは、僕にはないものだ。父上は僕を任命しないだろうし、もし任命されたとしても、僕は辞退する。最良の選択肢が、目の前にある以上はな」

「勘弁してくれよ。兄さんまでそんなこと言うのか?」

 まるで自覚のなさそうに、そう言って唇を尖らせるリリーシアに、ジークは今一度、彼のほうを向き直り、真剣な眼差しを向けて言った。

「リリーシア。仮にも一国の主に、誰がなるべきかという話をしているんだ。僕は詰まらない冗談を吐くつもりはない。父上が倒れた今、このクアセルス王国に必要なのは、父上以上の統率力を持った、絶対的な王の存在だ。それにこれは、僕の願いでもある」

 ジークの意味ありげな物言いに、流石のリリーシアも聞く耳を見せた。幼い日、この城の中庭で、『精霊術に代わる何かを造りたい』と兄に打ち明けられた時のことを、リリーシアは思い出していた。

 一拍を置いて、ジークは続けた。「王にはお前がなれ、リリーシア。父上も、それを望んでおられる」

 それは紛れもない、ジークの本心でもあったが、ジークには弟に隠していることが、一つだけあった。大精霊四体との契約を結んで以来、やはり無理が祟っているのか、徐々にかつてのような、身体の脆弱(ぜいじゃく)さを感じるようになった、ということである。自分が王座に就いたとしても、それがどれだけ長続きするのか、ジークには分からなかった。突発的にその終わりが訪れ、再び民の不安を煽るような事態になることだけは、ジークはどうあっても避けたかったのだ。

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