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巨人と少年  作者: 暫定とは
五章『宿命』
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 三年後の春。

 クアセルス王国には二人目の王子が誕生した。自身の――クリーム色にも似た、淡い――金髪と碧眼(へきがん)を遺伝したもう一人の王子に、王は今度は、身体の丈夫な子に育つように、と願いを込め、バルドリリーシアという名前を付けた。これは古語に於いて、『大樹に咲く花』を意味する。

 三歳を迎えたジークフリードは、弟の誕生に大層喜んだ。よく可愛がり、面倒も見た。王の願いを受けてか、バルドリリーシアは実際、大きな病や怪我をすることはなく、すくすくと成長していった。

 華奢(きゃしゃ)な体型を持ち、控え目で人前に立つことが苦手だったジークフリードとは対照的に、バルドリリーシアは快活で体格も良く、やがて通うこととなる貴族学校でも、クラスの中心となってリーダーシップを発揮することが多くなっていった。然し――。

「リリーシア、試験の点数がまた落ちていると、母さんが嘆いていたぞ。あまり心配をかけるなよ」

 父である王の言葉に、バルドリリーシアは毎度、誤魔化(ごまか)すように唇を尖らせては、眉間を顰めた。

 バルドリリーシアは運動神経がよく、身体を動かすことに関しては得意であったが、勉強は大の苦手だった。一方のジークフリードは、学校に通うようになってからも頻繁に体調を崩しており、欠席が続くことも多かった。運動は勿論不得手(ふえて)だったが、学に於いては兄のジークフリードは、周囲の目を引く才能を光らせていた。父からの説教の最後に必ずつく「少しは兄さんを見習いなさい」という言葉が、バルドリリーシアは嫌いだった。然し、二人の仲は決して悪いというわけではなく、寧ろその逆であった。

「お前の兄ちゃん、引きこもりなんだろ? そんなんで次の王様になれるのかよ」

 口の悪いクラスメイトがそう悪態(あくたい)を吐くと、バルドリリーシアは本気になって怒りを露わにする。「兄さんを悪く言うなよ、何も知らない癖に」

「なんだと!」

「なんだよ、大臣の子息(しそく)(ごと)きが」

 学校で問題を起こして父に呼び出されることも、徐々にバルドリリーシアにとっては、日常(にちじょう)茶飯事(さはんじ)になっていった。

「また喧嘩をして、先生を困らせたようだな。少しは兄さんを見習いなさい」

 貴族学校の中等部に移る前、生死を彷徨(さまよ)うほどの大病を(わずら)ったジークフリードは、王と王妃の判断で学校に通うことは辞め、以降は王城に専属の教師を招いて、体調を見ながら授業を受ける形となった。バルドリリーシアは何か不満があると学校を抜け出しては、城に(こも)りきりのジークフリードの部屋を訪れ、学校でのことや父のことを愚痴ったりして、二人はお互いに、気を紛らわせた。

「父上がお怒りだったよ。リリーシアは元気なのはいいが、落ち着きがなさすぎるって」

「勘弁してくれよ。兄さんまでそんなこと言うのか?」

 バルドリリーシアは強い癖毛の持ち主で、この頃になると、それは特に顕著(けんちょ)(あらわ)れた。中でも後頭部の或る一房は、いつでもどうしても立ち上がったままだった。バルドリリーシアはこれを寝かせることだけは、常に諦めていた。

「僕は構わないさ。ただ父上と母上に、余り心配をかけすぎるなよ」

「へいへい、分かってるよ」

 銀と金の髪、赤と青の瞳、控え目なジークフリードと活発なバルドリリーシア、勉学と運動の得手(えて)不得手。全てが正反対の存在であった二人の不仲を、周りの大人たちは憂慮(ゆうりょ)していたが、それを尻目にジークフリードとバルドリリーシアは、唯一無二の兄弟としてお互いに信頼し合い、自分にないものを持つ相手に対し、羨望(せんぼう)と共に畏敬(いけい)の念を抱きながら成長していった。二人は共に、お互いの兄であり、弟であることを、誇りに思っていた。

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