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巨人と少年  作者: 暫定とは
四章『解放』
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「……リ……、リリ……!」

 自分の名を呼ぶ声に、リリはゆっくりと、その意識を取り戻した。

「リリ!」

 ハッとして目を開くと、仰向けに倒れた自分の身体が、ドボロによって支えられていることに、リリは気が付いた。リリが目を覚ましたことに、ドボロは安心しきった表情を浮かべると、「良かっただ、リリ」と呟くように言った。

 徐々に身体の感覚を取り戻すうちに、リリは自分の身体に出来ていた無数の傷の、傷口だけは塞がっているものの、その内部には未だ、じんわりとした鈍痛(どんつう)が残っていることを理解した。痛みに顔を顰めると、何処からかルチカの声が聞こえてくる。

「ごめんね、リリ。ラメールもアタシも、まだフォルスを十分に練られる状態じゃなくって、完全な回復は、させてあげられてないの」

 その言葉に頷き返しながら、リリは自分たちの居所を探った。上空には星空が広がっていることから、トリュンマ大空洞の中でないことは明らかだった。痛みを(こら)えながら、リリはゆっくりと、その上体を起こした。少しずつはっきりとする視界の中で、今が晴れ渡った満月の夜であることと、そこが開けた草原の上であることを、リリは理解すると共に、草原の中にぽつりぽつりとバラけて立つ、バーンズ、ルチカ、シンの姿を見つけた。

「ここは……? 僕たち、どうしてこんなところに……」

 思い浮かぶままの疑問を、リリはそのまま口にした。周りを見回すうちに、リリの頭は徐々に落ち着きを取り戻していき、自分たちが何処で、何をしていたのかを、少しずつ思い出していった。

 再び訪れたトリュンマの地で、ジークフリードと対峙したこと。圧倒的且つ正体不明の力を前に、一度は倒れかけたこと。ドボロの言葉に奮い立たされ、最高威力の技を打ち込むも、やはり歯が立たなかったこと。そしてそこに突如として現れた、菜種油色の髪をした少年の姿。

「あいつが、俺たちを助けてくれたんだ」

 彼に借りを作ったことが(しゃく)に障るのか、シンは余り面白くなさそうに、顎でリリの後方を指し示した。ドボロの腕を除けて後方を振り返ると、そこにはダボついた服を纏った、シンと同年代ほどの少年が、草原の中にポツンと存在する岩場に立って、月明かりに照らされていた。ミドだ。

 リリが目を覚ましたことを悟ってか、ミドはこちらを振り返ると、岩場を跳び下りてリリたちのほうに向かってきた。彼のアーツであるバロンは、今はドルミールの姿となって、彼の腰のベルトのホルダーに収められている。

「全員、目が覚めたみたいだね。とりあえず、ここはトリュンマからの距離も離れてなくて危険だ。申し訳ないけど、アーツを含めて十人も移動させるなんて真似は初めてだったもんで、あまり遠くへは動けなかった。全員の身体が動くようになったら、帝都へ向かうよ」

 そう言いながらリリに歩み寄ると、ミドはその表情に微笑みを湛えながら、リリへと手を差し伸べた。

「立てるかい? お姫様」

 ミドの手を払い除けると、リリは溜め息を吹き出しながら、痛みにぐずる身体を、どうにか立ち上がらせた。ジークを倒せていない以上、こんなところで立ち止まっている暇はない。

「僕なら大丈夫。随分と寝過ごしたみたいでごめん」

 草を踏む音を立てて、リリのほうを向き直ると、バーンズは言った。「瀕死のダメージを受けた身体で、あれだけの大技を放ったんだ。無理はするな」

 一同の間には、夜の闇と共に、()()()さのような静寂が漂っていた。が、それも無理はない、とリリには思えた。ジークを倒す為に、自分たちはここまでやってきたのだ。それが失敗に終わったばかりか、自分たちの攻撃は、ジークの力を前に全て無力化させられた。胸の中で、不安や恐れが暗雲のように立ち込めていくのを、リリは感じていた。

「とりあえず、全員動けるってことでいいかな? 一刻も早く、ここを離れたいんだ。ジークに嗅ぎつけられたら、今のオレたちじゃ一溜まりもない。聞きたいことも色々あるだろうけど、それは道中、ゆっくりと解説させてもらうよ」

 「さっきもそんなことを言っていたが」と、シンは未だ、信用しきってはいないような目付きでミドを見つめると、怪しむように尋ねた。

「一体お前は俺たちに、何を教えてくれるって言うんだ?」

 リリたちに背を向けて草原の中を歩き出しながら、あっけらかんとしてミドは答える。

「まあまあそう慌てずに。焦ってばっかりいたら、好きな女の子はオトせないよ? ま、今は関係ないか。兎に角この昔話は、嫌になるほど長いんだから。なんてったって千年分だ。ああ、始まる前から嫌になってきた」

 何処か仕方のなさそうに、渋々、という様子で、ミドは続けた。

「さてと何処から語ろうか。やっぱり始まりは生誕かな? ああその前に、……このお話のお題目を、言っておかなくちゃね」

 一拍を置くと、ミドはこう言った。

「……――神様に魅入られた、兄弟の話だ」

 満月が見守る草原の上で、ミドの語りは始まった。リリたちは帝都に向けて北上しながら、結果的に三日間に渡って、その話を聞くこととなった。辺り一帯には夜虫の鳴く声と、風が吹き抜ける音が響いている。

 リリはミドの言葉の一つ一つに耳を澄ませて、出来るだけ鮮明に、当時の風景に思いを馳せた。自分たちなど影も形も存在しない、千年前のこの惑星アシリアに。太陽王の時代と呼ばれた、輝きに満ちた栄光の時世(じせい)に。稀代(きだい)の天才ジークフリードが、これまでに辿ってきた歓びと哀しみの、そのすべてに。

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