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巨人と少年  作者: 暫定とは
三章『覚醒』
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 王立学院の一階を回り切った時点で十七時を回ってしまっていた為、地下の視察は翌日、ということになった。

 学院傍の小奇麗な宿を取ると、リリとシンは街に入ってきた時に見つけたフォルス研究の資料館に、ルチカはドボロと共に、観光がてら食料などの買い出しに、それぞれ向かった。

 フランクは別れ際、「陛下からのお手紙にあった、〝第二共鳴(セカンドチェイン)〟と、フォルスの波長をズラす技術ですが、王立学院並びに関連施設では、今のところそのような研究は行われていません。何かヒントになるようなことはあるかも知れないので、是非明日もお越しください」と言っていた。ファンテーヌの研究が敵陣に漏れているのでは、という不安は取り除かれたが、ミドやハウルらの技術力の謎についての答えが得られていないという点で、こちら側には依然(いぜん)、進展といえるようなものはない。取り急ぎ、リリたちは〝第二共鳴(セカンドチェイン)〟への対抗策だけでも手に入れなければならなかった。

 「フォルスの流れの存在が証明されれば、それを効率的に利用する方法が生まれ、元素機構の開発は躍進する筈です。精霊学の発展は、他の分野にも必ず大きな影響を与えます」とも、フランクは言っていた。

 精霊学に興味を持ったリリは、資料館の中でも、特に精霊に関する文献を読み漁った。然し、シンの言うように、大精霊は古代人による想像の産物、との記述が多く、フォルスの流れの存在にすら否定的な意見が多かった。古い資料なら、研究が盛んに行われていた頃の肯定的な意見も読めるかも知れない、と思い、リリは精霊学の歴史を(さかのぼ)って調べた。

 大精霊の眠りや力の弱まりにより、フォルスの流れが乱れること。フォルスの流れが乱れると自然災害が頻発すること。目覚めたアーツの記憶が曖昧なのは、流れの乱れ、ひいては大精霊の眠り――封印との記述もあった――の影響を受けている可能性が高いということなど、分かったことは幾つかあったが、やはりその(ほとん)どが、後世の研究により否定されていた。

 然し、実際に太陽王の時代以降、特に太陽王の時代には、地震や津波、ハリケーン、火山の噴火などの自然災害が頻発しているという調査結果が、地盤や地層、火山活動などの観察調査から出ているらしく、リリの頭にはどうしても、これが引っ掛かった。

(どうして千年前のこの時期にだけ、これほど顕著(けんちょ)にそれが顕れているんだろう? 太陽王の時代終幕の背景に、一体何があったっていうんだ……)

 資料の閲読(えつどく)に没頭していたリリは、シンの声掛けにより、既に資料館閉館の二十時が近いことに気が付いた。

「へっぽこ、そろそろ時間だ。宿に戻るぞ」

 大きな本棚の影から、シンは現れた。どうやら彼のほうも成果はなかったらしく、それを分かり易く顔に浮かべていた。ふと、リリの積み上げた資料の題目に目をやると、シンは呆れるような表情になって言った。

「お前まで精霊学か。大精霊は存在するってか? 勘弁してくれよ」

 「でも」とリリ。「この時期にだけ自然災害が集中してるって調査結果だって出てるんだ。看過(かんか)は出来ないよ」

 シンは勿論、そんなことは知っていた。リリの言葉で、今一度それについて考えてみようとはしたが、三年前に自分が言われた無慈悲(むじひ)な言葉の数々を思い出すと、やはりどうにも馬鹿らしくなった。当時、自分だって今のリリのように、その調査結果に基づく大精霊の存在を、本当に信じ込んでいた。無邪気だったから信じられたのかも知れない。然し、信じるだけでは研究は成り立たないのだと、あの時に嫌というほど、シンは思い知らされていた。今となってはシンは、精霊学者を見ているのも愚かしいし、同じ(てつ)他人(ひと)に踏ませたくない、という気持ちが強かった。そして当時、自分が言われたその心無い言葉を、シンはそのままリリにぶつけた。

「自然災害は連鎖的に発生するものだ。地震が起これば津波が起こる。火山活動だって活発化する。偶然そこにハリケーンがかち合ったって、何もおかしいことはない。アシリアの歴史を長い目で見れば、ごくごく、自然的なことだ」

 シンの声は徐々に震え出し、その表情は怒りに燃えていた。

「お前たちのしていることは、研究なんかじゃない……! 単なる妄想だよ、この――」

 ハッと我に返ったシンは、そこで言葉を止めた。リリはシンの言葉に、動揺と疑念(ぎねん)、恐怖すら抱いていた。普段からシンの言葉遣いは乱暴だったが、それは彼の粗雑(そざつ)な性格を顕すのみで、表情には欠片も出ることはなかった。然し、今度の言葉は違った。まるで何者かが、シンの身体に乗り移ってしまったかのように、リリには見えた。

 「すまない」と言いながら、シンは資料館の出入り口を振り返った。

「昔のことを思い出しただけだ。忘れてくれ」

 そう言って、シンは資料館を出て行った。程なくしてリリは、資料を元の棚に戻してシンを追ったが、当然、激昂(げきこう)したシンの顔と声を忘れられるわけもなく、翌朝目を覚ますまで、リリはシンと、一言も言葉を交わすことが出来なかった。

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