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シンの言葉通り、その日の十三時前には、一行は湖の上に佇む、無機質な建物の立ち並ぶ街に辿り着いた。湖上の研究都市・ファンテーヌだ。
総面積こそ知れないが、一見して、それが途方もなく広大な湖であることは、リリにも分かった。湖に掛けられた石造りの橋の向こう側には、街の入り口となっている門がある。橋を渡り切るなり、「着いたぞ。ファンテーヌだ」、と感慨深くなさそうに、シンはその門をくぐった。
「疲れた~、もうクタクタ」と、リリは干された布団のように、腰を曲げて腕を地に垂らしながら言った。
「そういえば七日間も歩いたのは、コントゥリを旅立った時以来ね」
そう言ったルチカも、その表情に疲弊を浮かべていた。一方のシンは、疲れの欠片も伺わせずに、いつもの調子で言ってのける。
「歩けないのなら置いていくぞ。俺たちは、時間に余裕があるわけではないんだ」
「シンって、見た目に反してパワフルだよね」とリリ。
「お前たちがへっぽこなだけだろう」
「そう言われちゃ、返す言葉もないよ」
ファンテーヌは、正円を模った形状と、中心から放射状に規則正しく並んだ街並みが特徴の都市であった。上空からの景観は、切り分けられたホールケーキやタルトのようにも見える為、『デザートシティ』などと呼ばれることもあるのだという。
街の中央には――リリたちがいる、この街の入り口からでも確認出来る――、高い時計塔を備えた巨大な研究施設があった。帝都最大の学校――『王立ファンテーヌ学院』である。
通りに沿うように、街中には様々な太さの水路が張り巡らされており、水路の縁には柵が設置されている。白く背の低いその柵には、花を模した可愛らしい模様が規則的にくり抜かれており、透き通った水の美しさや、端整な街並みも含めて、観光客が水の都と囃し立てるのも無理はない、とリリは思った。
総面積はアルバティクスの三分の二程度ではあるが、密度が高く、技術都市でもあるファンテーヌは、発展度で言えばアルバティクスに勝るとも劣らない。いずれにせよ、十三年をコントゥリで生きてきたリリとルチカにとっては、アルバティクスもファンテーヌも、凄まじく広く、また発展しているということに変わりはなかった。
立ち並ぶ建物の或る特徴を見つけると、リリは目を丸くして言った。「建物の屋根と壁が、みんな青と白なんだ」
「ホントね。綺麗」とルチカ。
ファンテーヌの建造物の全ては、白い壁と青い屋根に統一されていた。そして見れば見るほど、それは規則正しく、計算し尽くされた美しさを湛えていた。
「ファンテーヌが研究都市として発展し始めた頃、研究家気質の建築家がチームを立ち上げて、この統一された街並みを造り上げたそうだ。円は研究者にとって、完成された究極の美だからな」
やけに自慢げに、そして嬉しそうに解説するシンに、ルチカは苦い顔をして返した。「そう言われると、ちょっと気持ち悪いわね……」
「女には分からないさ」
澄まし顔でそう言うと、シンは例によって足早に、正面の大通りへと進んでいった。
言われてみれば、足元の石畳――歩きやすさを重視した為か、アルバティクスのものよりも更に平たく削られており、色は白に統一されている――や街を囲う塀にも、円の意匠がふんだんに施されていることに、リリは気が付いた。そしてそれは別の円を内包したり、されるようにして、フラクタルのような不思議な紋様を顕している。
「まずは役場へ向かう。陛下からの鳩が届いている筈だ」
大通りの真ん中には太い水路が通っており、リリたちはその左側を進んでいった。街の入り口付近には、住宅や商店、宿屋などが立ち並んでいたが、大通りを進んでいくと、次第に小規模な研究施設のようなものが見られるようになった。通りを進んでいくにつれ、徐々にその規模は大きくなっていき、活気付いてくるのが分かる。研究者らしき白衣の男たちが、昼時だというのに、それぞれの研究施設を忙しなく行き来している様子も見受けられた。風景の移り変わりに、リリの心は昂りを抑えきれずにいた。
シンの話を聞く限り、このファンテーヌは世界一の研究都市だ。王立学院を中心に、アーツやフォルスについて、常に最新の研究が行われている。自分やルチカ、ドボロは勿論、シンやライラットの耳に入っていない情報さえ、ここでは知ることが出来るかも知れない。リリはそれが楽しみでならなかった。
王立学院はこのファンテーヌの心臓とも言われており、役場もそこに併設されている。そしてまさに心臓宛ら、学院はその地下に、巨大な浄水施設を備えており、このファンテーヌの血とも言えよう美しい水の循環を保っているのだとか。学院内外にも、景観への強い拘りが顕れており、建物の外は愚か、施設内にも水路が敷かれており、その澄んだ水と音色が織り成すハーモニーは、学生や研究者たちの心の潤いになっているのだという。
昨晩シンから聞いたその話を思い出しながら、リリは期待に輝く濃紺の瞳を、通りの先に見える王立学院へと向けた。
確かに、建物に沿うような形で水路が敷かれているのが、遠目にも確認出来る。
「すご――」
リリが漏らしかけた感嘆の声は、シンの声によって遮られるような形となった。
「すごい……!」
「え?」とルチカはシンを向いた。上ずったシンの声色を珍しく思ったリリも、振り返ってシンの表情を確認した。シンは黒の瞳をかつてないほど輝かせて、通りに沿った研究所の表札を、頻りに確認していた。
「すごすぎる……! 想像を絶する規模の研究施設だ! アーツに関する研究所だけでも数え切れない! おい見ろへっぽこ、フォルス研究の資料館だ。宿を取ったらあそこに缶詰めだぞ……!」
捲し立てるように言いながら歩を進めるシンは、或る建物の前で唐突に立ち止まると、愕然とした表情を浮かべた。
「エドワード博士の研究所だと……! ファンテーヌにあったとは見落としだった……」
「えっと」とリリ。「エドワード博士って?」
「十年前に例の発見をした有志団体の、まさにその研究者で、今やアーツ研究の第一人者だ」
普段の冷静さを失って、この研究都市に熱狂するシンに、ルチカは呆れたように両の手を広げて見せた。「大変ね~、都会者も」
「う、うるさい……! 真実の追究は男のロマンだ!」
然しその言葉には、リリも同意せざるを得なかった。
シンすらも高揚せずにいられないこのファンテーヌという街に、リリの期待はますます高まっていた。もしかすれば、自分とドボロの〝共鳴〟についてや、ドボロの過去についても、何かしらの情報が得られるかも知れない。
「ドボロはどう思う?」と、リリは左隣に立つ巨人に尋ねた。困ったように笑って、ドボロは答える。「オデは難しいことは分からないだ」
自分自身がこの街の研究対象のアーツであるにも拘らず、まるで実感のないドボロに、リリは言った。
「僕とドボロの〝共鳴〟のこととか、ドボロの過去についてだって、分かるかも知れないんだよ」
「ホントだか? それだったらオデも気になるだ!」
丸い目を更に丸くさせて、ドボロは嬉しそうに口角を上げた。
「男って分からないわ」とルチカは言った。
王立ファンテーヌ学院は、門と玄関との間に、長い上り階段と広い中庭を有していた。階段を上りながら、リリは周りの景色に目をやっていた。
中庭の芝生は手入れが行き届いているようで、浅く刈られている。また、丸く整えられた可愛らしい低木や、ベンチなども設置されており、この中庭は学生たちの憩いの場としての役割も担っているようだった。シンと同年代と思しき――青と白を基調とした王立学院の制服に身を包んだ――少年少女たちが、昼食を摂ったり、本を読んだりしている様子も見受けられた。勿論、ここでも美しく整備された水路が、心地好い音を立てて流れている。
階段の上には両開きのガラス扉があったが、案内表示によれば役場の入り口は左手に回り込んだ先らしい。リリたちは建物に沿って作られた散歩道のような通路を通って、役場に辿り着いた。
「ライラット王の遣いで、研究の視察に来た。王からの手紙が届いている筈だ」と、シンは受付の男に向かってぶっきらぼうに言った。
「お伺いしております。館内をお歩きになる際にはこちらの入館証をお提げください。ただいま案内の者を呼びますので、しばしお待ちを」
受付の男はそう言って、首から提げる紐のついたプレートを四枚、シンに渡すと、受付の裏手へと消えていった。リリたちはプレートに首を通したが、ドボロの頭には当然通らなかったので、ドボロはそれを人差し指に嵌めて指輪のようにした。五分と待たないうちに、受付の男は『フランク准教授』なる人物を引き連れて、再び受付に現れた。
「お待たせしました。王立学院で准教授として勤めています、フランクです」
フランクは二十代後半か、三十ほどの男で、金の短髪と緑の瞳を有していた。細身で背が高く爽やかだが、喋り方が何処かぎこちなく、初心で口下手な雰囲気を感じさせた。細い銀の縁の眼鏡を掛けている。
「ご足労頂いて済まない。王の遣いのシンだ。よろしく頼む」
「リリです。こっちはルチカに、僕のアーツのドボロ」
「よろしくお願いします」とルチカはフランクに頭を下げた。ドボロも「よろしくだ」と続く。
フランクは四人の顔を頭に刻み込むようにして見比べると、「よろしくお願いします。では早速」と言って、リリたちを学院のほうへと案内した。学院と役場は建物の中で繋がっており、ガラス扉で仕切られてはいたが、それは基本的に開け放たれているようであった。
学院は二つの建物で構成されており、フランクはそれを、時計塔のある『宿舎棟』と、リリたちのいる『学院棟』だと解説した。
宿舎棟には時計塔と、それを制御する装置のほか、職員や警備員の宿舎が併設されており、学院棟とは渡り廊下で隔たれている。そちらでは授業や研究は基本的に行われていないので、案内は割愛された。何よりも、学院棟だけでも途方もない広さと階層があるので、それぞれの解説に掛ける時間は、あまりないのだという。
学院棟は『学生科』と『研究科』の二科に、階数で概ね分けられており、――地上七階、地下三階建ての学院棟の――二階から下が研究科、三階から上が学生科となっている。学生科では、主に教授による学生への講義が行われており、学生は卒業後、更に細かい分野の研究を続けたい場合、そのまま研究科へと移籍することが出来る。研究科には外部の研究機関の者も出入りしており、幅広い分野の研究や実験が、日々行われている。
学院棟の中心には、大きな天窓と、地上一階までの吹き抜けがあり、外からの光が差し込んでいた。それをなしにしても、建物は太陽光を上手く取り込める造りになっており、内部は凡そどこにいても、外のように明るい。そしてどうしても暗がりになってしまうような場所には、灯りが設置されていた。丸く精製されたガラスの中で、ぼんやりと光を放つその灯りを、リリは不思議に思って尋ねた。
「あのガラスの中、火が付いてるわけじゃないですよね。どうなってるんですか?」
「よくぞ聞いてくださいました」とフランクは嬉しそうに言った。「今ファンテーヌで最も熱いと言われている研究――『元素機構』と呼ばれるものの一種です。分かり易く言えば、フォルスを操るアーツのメカニズムを分解して、部分的に利用している、〝自我を持たないアーツ〟のようなものです」
俄然興味が湧いたリリは、その話に聞き入った。シンは既にその知識は有していたようで、フランクの話は片耳に聞き流しながら、目を細くしてその灯りを見つめていた。
「アーツのメカニズムは未だ謎に包まれたままですが、研究は徐々に進められています。そしてその第一歩となるのが、『自然に存在するフォルスを顕現すること』、でした。この灯りは『フォルス灯』と呼ばれているのですが――、このフォルス灯の場合、自然に存在する火のフォルスを、ガラス球の中に構築された元素機構が顕現することにより、このように光を放つという仕組みになっています。本当はもっと複雑なプロセスを踏んでいるのですが、分かり易く言うとそんなところです。興味があれば、明日にでもダリア教授の講義を聞いてみてください」
フランクの解説を聞き終えると、「へぇ~」と感銘に声を漏らし、リリは再びその灯りに――フォルス灯に目をやった。確かに、ガラス球の中の光は、僅かではあるが炎のように揺らめいているのが分かった。
「元素機構の技術が開発されてからもう一年になるか。そろそろ帝都にも輸出してほしいところだが」とシン。
「研究者一同、そうしたいのは山々なのですが、研究はまだ不完全で、大量生産や商品化には、暫く時間が掛かりそうです。少しでも早く世界中にお届けする為に、こうして実験も兼ねて、学校内や近隣施設で試用してみている、というところです。ですが、研究は日々進歩しています。遠くない未来、人を乗せて走る車や、近付くだけで開く扉が、日の目を見るようになる筈ですよ」
その話に、リリは更に期待を膨らませた。そしてそれは、シンも同じだった。
元素機構の研究が発表された時から、シンはそれに強い関心を抱き、その動向を逐一探っていた。そして一年前には机上論でしかなかったフォルス灯を、こうして自分自身の目で見ることが出来たことを、内心とても喜ばしく思っていた。勿論、リリとは違ってその喜びを、シンは素直に表現したりはしなかったが。
リリたちはまず、三階よりも上の学生科を、一時間ほどで手早く回り、その後二階から下の研究科を見て回っていた。
様々な分野の研究室が並ぶ地上一階の廊下を歩いている最中、ふと思い立ったルチカは、「フランクさんは、ここで何を研究しているんですか?」と尋ねた。
フランクは、ナイスタイミング、とでも言いたげにニッコリと微笑むと共に、或る研究室の前で足を止め、左手でその室内を示した。研究者たちの声で溢れ返る他の研究室とは違い、その研究室には白衣の男が一人いるだけで、ガラリとしていた。
「ここが、私が今身を置いている、精霊学の研究室です」
その言葉に、シンは耳を疑うように顔を顰めると、嘲笑気味に鼻を鳴らして言った。「精霊学? おいおい冗談だろ。あんなオカルトじみた研究が、未だに続けられているのか」
リリとルチカは――勿論ドボロも――、精霊学という言葉を耳にしたことがなかった為に反応のしようがなかったが、フランクはシンの言葉に、眉間に皺を寄せて答えた。
「確かに研究は下火ですが、事実、小精霊や中精霊の使役は、既に現実のものとなっている。大精霊は実在します」
信用ならないような表情を浮かべたままではあったが、シンはそれ以上を言うことはやめておいた。それが何であれ、自分の研究をオカルトだと言われて腹が立つことくらいは、シンにも理解出来たからだ。
「あの、精霊学って?」
リリの問いには、顰め面のままのシンが答えた。
「人類が生まれるよりも遥か昔からこのアシリア上に存在した、超原始的な生命体――精霊に関する学問だ。普段は人の目には映らないが、精霊はアシリア全域に無数に生息している。太陽王の時代以前には、精霊術という技術で、人は精霊と契約を結び、使役することが出来た、……ということになっている」
シンの言い方に引っ掛かりを感じたルチカも、その話に興味を持ったらしく、尋ね返した。「どういうこと?」
自分が喋ることはもうない、とでも言いたげに、シンはフランクに目をやった。フランクは仕方なさげに、その続きを引き継いだ。
「精霊はアーツと同じく、身体のほぼ全てがフォルスのみで構成されている『フォルス体』で、アシリアに宿るフォルスに干渉し、それを操ることが出来ます。そしてその存在の痕跡は、太陽王の時代よりも更に古代の壁画や資料などにも残されています。『精霊術』を扱う者を『精霊術士』と呼び、精霊術士は精霊術により、精霊と契約を結び使役し、丁度現代の、人とアーツのように、フォルスによって人々の生活を豊かなものにしてきた、と言われています。事実、アーツの生態系やメカニズムには、精霊のそれと酷似している点が非常に多いのです。一時期、アーツは精霊を基に造られたのではないか、とまで言われていました。私は未だにこの説を支持しているのですが……」
一呼吸を置いて、フランクは続けた。
「アシリアに宿る莫大な量のフォルスは、その場に留まっているわけではありません。フォルスは常に循環し、その流れを持っています。流れが満たされている時、溢れ出たフォルスが吹き出るポイントが、アシリアには百箇所以上確認されていて、これは『フォルススポット』と呼ばれています。精霊は基本的に不老不死で、好んで争いをすることもないのですが、仮に戦闘や自然現象などで、その生命を維持出来ないほどに傷付いた場合、このフォルスの流れに一度還ります。その後長い年月を掛けて、精霊はフォルススポットから再生するのですが、実はアーツにも、これと同じ特徴が挙げられるのです。戦闘でアーツが著しく損傷した場合、アーツはフォルスの流れに還元され、年月を掛けてフォルススポットからドルミールの状態で再生します。そして波長の合う人間に触れられることによって、再び活動体のアーツとして目覚める」
話を聞きながら、リリはドボロとの出会いを思い出していた。何故、ドボロがあそこで眠っていたのかを考えたこともなかったが、この話を聞いた上で考えると、ドボロは戦闘か、なんらかの原因で一度はフォルスの流れに入り、その後巨大遺跡の中にあったフォルススポットから、ドルミールとして再生した、ということであろう。
「精霊の話に戻ります」と、フランクは話を一区切りさせた。「精霊には力の強さによる大中小の階級が存在し、中精霊、小精霊に関しては、現代でも我々はその存在を認知することが出来ます。この学校でも精霊術の講義が行われていますし、大変緻密で難しい技術なので僅かではありますが、扱える者もいます。……然し、壁画や資料の中で、常に重要な位置付けで語られる大精霊の存在を、精霊学はなかなか立証することが出来なかった」
フランクは寂しそうな顔でそう言った。背中を向けて話を聞いていたシンが、続きを引き取った。
「古人によれば、大量に存在する中・小精霊とは違って、大精霊はそれぞれの属性のフォルスに対して一体ずつしか存在しない。火のサラマンダー、水のウンディーネ、土のノーム、風のシルフ、……これら四体で四大精霊と呼ばれる。壁画に語られる彼らは、各属性のフォルスと一対の存在であり、それぞれのフォルスの流れの秩序を守るという、重要な役割を担っていた。精霊学は長らく彼らの存在を訴え、『何らかの原因で眠りに就いている』としてきた。が、果たしてその存在を証明することが出来なかった精霊学は、三年前、国の取り決めで予算を大幅に削減され、研究機関は事実上解体された。そして精霊学者たちは、あらゆる関連分野からの非難を受けることとなった。大精霊という偶像に縋り続けた愚かな学問、オカルトだと。ほぼ常識となりかけていたフォルスの流れや、中・小精霊の存在すら否定され、研究は振り出しに戻った」
フランクの話に心を躍らせていたリリは、シンの言葉に、魂が抜けるような気持ちになった。ドボロも、全てを理解出来たわけではなさそうだったが、その概ねの惨酷さは分かったらしく、半開きになった横長の口から、「ひどいだ……」と漏らした。
初めは精霊学を『オカルトじみた学問』と罵ったシンが、意外にも精霊学への造詣が深いことに、フランクは驚いて言った。
「お詳しいのですね。否定派の多く――特に若い方は、意味も分かっていないままに否定してくる人ばかりなので、驚きました」
リリたちに背を向けたまま、シンは腕を組み直しながら答えた。「当時、俺も精霊学を齧っていた。件のことがあってからは、嘘吐き呼ばわりされるのが馬鹿馬鹿しくなってやめてしまった。研究者の風上にも置けない負け犬さ。胸を張って自分の研究を誇れる、アンタが羨ましいよ」




