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巨人と少年  作者: 暫定とは
三章『覚醒』
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 アシリア歴二〇四八年、五の月二十八の日。

 帝都を発って六日が経った。この日、空はよく晴れ渡っていた。

 午前六時、目を覚ましてテントを這い出たルチカは、昨晩の焚き火跡の前で丸太に腰掛けるシンとドボロ、クーランの背中に、欠伸(あくび)交じりに声を掛けた。「おはよ~」

「おはようだ」

「おはよう」

「ああ」

 ぶっきらぼうなシンの返事にも、テントでの寝泊りにも、ルチカは徐々に慣れてきていた。

 リリとルチカはコントゥリを旅立った時から、二人で寝転んでも余裕のあるサイズの、緑のテントを使っていた。シンは一回り小さい黒いテントを、一人で使っている。

 シンと出会う前は、ルチカは必ずリリよりも先に起きて、身支度を整えていた。寝起きの姿を他人(ひと)に見られることを、ルチカは昔から嫌っていた。然し、シンと共に旅をするようになってからというものの、ルチカは彼の朝の早さに驚かされると共に、それよりも早く起きることを諦めていた。聞けば彼は、夜明け前には必ず目を覚まして、日の出を拝むのだという。

 バルド教の唯一神は太陽を司っている。その為、バルド教の信者にとって、太陽は特別な存在なのだ――無論、唯一絶対の存在という意味では、太陽というのはバルド教信者かどうかを問わず特別な存在ではある――。敬虔(けいけん)なバルド教の信者は、シンのように毎日欠かさず日の出を拝むのだと、ルチカはシンに聞いて知っていた。特にバルド教に入れ込んでいるわけではないが、修道院で暮らしている以上、昔からの習慣で、シンは夜明け前には身体(からだ)が起きてしまうのだという。

 ルチカは数日前に聞いたそんな話を何となく思い出しながら、まだ寝起きでおぼつかない足取りで、シンの斜め向かいに腰掛けると、紺瑠璃(こんるり)の髪をシニヨンに(まと)め始めた。両手の指を器用に使い分け、まるで編み物でもするように、ルチカは視界に映ってもいない自分の髪を、あっという間にいつも通りの形にした。シンはいつも、その光景に感心していた。

「器用なものだな」

「それ、一昨日(おととい)も言われた」

「そうか、一昨日も器用だったのだろう」

「それも言ってた。まったく同じイントネーションで」

 それからルチカは「そうか、一昨日も器用だったのだろう」とシンの声を真似た。それを聞いたクーランが少し笑ってくれたので、ルチカは自慢げになって笑った。

 シンは焚き火跡に小さく火を起こして、薪を()べていた。火には小振りの鍋がかけられており、その中には旨みのある出汁(だし)が取れる魔物(まもの)の骨と共に、付近で採れる野草が煮込まれていた。朝、シンはいつもこうしてスープを作ってくれた。スープだけのこともあれば、米を入れて雑炊のようにしたり、パンを浸して食べることもある。リリたちがコントゥリを旅立った時から総じて言えるのは、街を出て数日間は、街で購入してきた食材で多様な料理を作れるが、七日目ともなると、その場で調達出来る魔物の肉と野草が、どうしても多くなるということだった。保存食として、日持ちするものを買ってあるにはあるのだが、保存食は保存食として取っておかなければ意味がない、ということは言うまでもない。そして魔物の肉というのは、一部を除いて基本的に硬く、お世辞にも美味とは言えなかった。あと何日この食生活が続くのか、と思うと、ルチカの口からは無意識のうちに溜め息が漏れていた。それを察したかのように、シンは言った。

「ここまでの進捗(しんちょく)を考えると、今日の昼過ぎにもファンテーヌに到着する。もう少しの辛抱だ」

 ルチカはその言葉に、喜びを噛み締めながら頷き返すと、まだ白く濁ったままの空を見上げて、澄み切った朝の空気を肺一杯に吸い込むと、長く吐き出した。

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