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駆け付けた帝都警察によって、リリとドボロはアーツ泥棒と間違われ、現行犯逮捕された。ミドに受けた攻撃のダメージが後から響き、リリは取調べの最中に倒れた。
ルチカはリリの無罪を証言してもらう為、シンか、アーツを盗まれかけた男を探して街を走り回った。シンは見つからなかったが、何とか見つけた男の証言により、リリとドボロは警察から解放された。リリはそのまま帝都病院へ搬送され、手当てを受けていた。
「アハハ、ごめんごめん。大変だったねルチカ」
夕刻になって漸く目を覚ましたリリは、病院のベッドで、ルチカから一通りの話を聞き終えると、そう言って笑った。その腕と腹には、ギプスと包帯が幾重にも巻かれている。
ベッドの脇の椅子に腰を掛けて、ルチカはリンゴの皮を剥きながら言った。「もう……、ホントに悪いと思ってるの?」
「思ってるって」
ドボロはルチカの隣に座って、リリの顔をまだ心配そうに眺めている。
幸い、リリの怪我は打撲と裂傷程度で済んでいた。まだ全身が痛むが、リリは普段通りに喋ったり、ものを食べることは叶った。医師によれば、今日いっぱいは安静にしているように、とのことだった。冤罪による逮捕のお詫びに、リリの治療費は帝都から下りることになった。また、今晩は入院となるリリは勿論、ルチカとドボロも病院内にベッドを用意してもらえることになっていた。
溜め息を吹き出すと共に、ルチカは言った。
「そのことじゃなくて。リリは無茶し過ぎって言ってるのよ。あんな化け物みたいなの相手にしてたら、身体が幾つあってももたないよ」
「オデも心配しただ。リリが目を覚ましてホントに良かっただ」
ルチカとドボロの言葉に、リリは先の戦闘について、もう一度思い出してみることにした。
「うん……」
戦闘が始まる前、ミドは『〝共鳴〟』と言いながら、――この時ミドの右手中指には、金色の細い指輪が嵌められている――右の拳を左の掌に打ち付けていた。するとミドとバロンの身体は、リリとドボロが能力を発動させた時と同じ、山吹色の光に包まれた。恐らく、あれは自分とドボロが使っているのと同じ能力で間違いないと、リリはほぼ確信していた。その状態のミドとバロンに対し、生身の状態のリリとドボロは圧倒されたが、二人が同様に能力を発動させると、リリとミド、ドボロとバロンの力の拮抗は、ほぼ五分五分になった。
そして戦闘の中盤、大振りの銀の指輪を嵌めたミドは、同じように右の拳と左の掌を打ち付けて、今度は『〝第二共鳴〟』と口にした。すると、ミドとバロンを覆っていたその光は、それまでのものよりも遥かに大きくなり、強く輝いた。これは単純に、力が強くなっていることを示している筈である。ミドとバロンの力と素早さは、それまでとは打って変わって飛躍的に上昇し、リリとドボロのそれを凌駕した。
リリにとっての大きな謎は、二段階目の『〝第二共鳴〟』だった。リリはそのことについて、更に考察しようとしたが、それはルチカの言葉によって、遮られることとなった。
「……ごめんね」
剥き終わったリンゴを八等分にして皿に乗せると、ルチカはベッドのサイドテーブルにそれを置きながら、目を伏せてそう言った。ルチカからの唐突な謝罪に、リリは驚いた。
「どうしたの? やけにしおらしいじゃない」
「……しおらしくもなるわよ、アタシだって」と、ルチカは立ち上がる。
無茶をするリリを責めることも、ルチカには出来た。が、リリが無茶をするのは自分を守る為だ。リリに好意を寄せるルチカは、始めはそれが嬉しかった。然し、バウムの森での死闘や、今回のミドとの戦闘は、村を発つ前のルチカの想像を、遥かに絶していた。ルチカから見て、今もリリとドボロが生きているのは、奇跡といってもいいほどだった。ルチカはそのことについて、少なからず責任を感じていたのだ。
「ルチカ、何処へ行くだ?」
背を向けて病室を出て行くルチカを、ドボロは振り返って尋ねた。
「ちょっと買い物。……帝都巡り、まだ出来ていなかったしね」
背中を向けたまま、ルチカはそう言って病室の扉を閉めた。その声は明らかに、楽しみにしていた帝都巡りに漸く行ける、という風ではなかった。
ルチカを追うべきか、リリは迷ったがやめておいた。彼女を疑うような真似はしたくなかったし、そもそもリリの身体は、気配を殺した上で、頗る健康なルチカを追えるほどには、まだ回復していなかったのだ。窓の外からは、煌々(こうこう)と西日が差し込んでいた。




