混ぜすぎにご注意。
ーあなたの好きな色は?
人の第一印象を決めるにあたってよく使われるこの質問。馬鹿らしくも感じるけれど、結構重要な事柄だったりする。まあただ会話を繋げるためとかそんな理由もある。それでも皆無意識にその人の性格と繋ぎ合わせようとするから恐ろしいもんだね。
さて、前座はここまでとして、僕が何故こんな戯れ言を言っているのか、その理由をお伝えしよう。
僕には好き、と明確に言える色がない。まあその程度なら別に自分もそうだ、とか言う人も多いだろう。でもそんな人でも、適当に色を答えるくらいならできる。ようは思いついた色とかその瞬間見た色とか、とりあえず無難な色を答えておけばいいんだから。僕には、それができない。正確に言えば、何の色も思いつかないんだ。
勿論、そもそも色が分からない、なんてことはないよ。林檎は赤、海は青……。僕は芸術家じゃないから赤の中でも色々ある種類を答えるとなると難しいけれど、皆と見ているものは同じだよ。でも「好きな色」となると話は別。頭の中が真っ白…これだと白だな。なんというか、どう言えばいいのか分からないけれど…何の色も思い浮かばなくなる。そのとき僕は何を見ているんだろう。今更ながら僕自身も分かっていない。僕は今、何を、見ているんだろう?
ああごめん、話が少しそれたね。…好きな色が答えられない理由だったね。まあ言ってしまえば一言、「明確に答えられる色がないから」なんだけど、実はこれには昔あったある出来事が原因なんだ…。
まだ僕に好きな色があった頃。今となっては何色が好きだったのかすら覚えていないけれど、その色をとても頻繁に使っていた。でも、僕には一種のこだわりがあった。さっき僕は芸術家じゃないって言ったけど、あのこだわりは芸術家並だったと思う。
…僕は、絶対的な色が好きだった。…ちょっと言い方がおかしいかな…何て言えばいいんだろう…少し色が明るかったり、にじんでいたらそれはもう僕の好きな色じゃない。よくその色を探すために、何度も色鉛筆やクレヨンを買った。でも何かが違う。いつもそう言って周囲を困らせていた自覚はある。それでも、僕はその色を探し出したかったんだ。
ある日、僕は思いついたんだ。探して見つからないならば、混ぜ合わせて見つけ出せばいいんだって。幼いながら名案だと思った。そこで僕は水彩を買って、色々な色を混ぜた。黄色、茶色、橙色……。買った画材の中にあった色を少しずつ混ぜる。違う。これじゃない。次は、赤と、緑と、青と……。これでもない。作っている間に、いつの間にか、全てが、黒になる。違う、僕の望んでいた色はこんなじゃない。こんなに、濁った黒なんて、僕は知らない。何なんだこれは。これは、黒ですらない。
…僕は恐ろしかった。全ての色を混ぜ合わせたら、限りなく黒に近くなる。今なら分かる。理解はしている。でも昔は、知らなかったあの頃は、どうしようもなかった。ただただ作られたその怪物を見たくなかった。怪物はいずれ全ての色を取り込んでしまう。そんな気がした。
その後、親にはそれはもう散々に叱られた。折角買ってやった画材を全て怪物にしてしまったんだから。僕は叱られながらも目の前には未だに怪物が見えていた。それ以来……僕は色を見るのが嫌いになったんだ。
僕にあった出来事はこれで終わり。思っていたより単純で馬鹿らしかった?だったらごめんね。
あの色は今はもう僕は覚えていない。ただ、今話していて思う。好きな色はって聞かれた時、僕はあの怪物を見ているんじゃないかって。