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月明りの様に  作者: ウニア・キサラギ
1章 豊穣の儀
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7話 祠の刀

 突如現れ場二人組の化け物……

 彼らの一人により実乃里は攫われた……

 残る瑠奈は抵抗を試みたが、自身の瞳が妖魔の瞳とそっくりだったことに衝撃を受けた。

 だが、妖魔の言葉をきっかけに父の言葉を思い出し、再び立ち上がるのだった……

 疑問だ…………傷を負ったとはいえ、あれをまともに受けて何で斬れなかった?

 それに、今さっきのも全力で殴ったはず……


 月の祠へと向かいながら彼女はそう心の中で呟いた。

 先ほど獣へと放った一撃は確かに手ごたえがあったはずだった……だが、拳がまともに当たっても怪我一つすらない。

 それどころか、居合ではまともに斬る事すらできなかったのだ……


「おいおい、何処に行くつもりだ?」

「ッ!!」


 護ると啖呵を切ったばかりの彼女は敵に背を向けて走る。

 痛みは無視できず、だが彼女の強い意志はそれを跳ね除けるかのように足を前へと踏み出させた……


 まずは武器だ……武器なら……あそこにっ!!


 幸い化け物は瑠奈を軽視しているのだろう、ゆったりとした動きで追いかけて来る。

 だが、彼女にとってはそれも疑問の一つだ。

 先ほどは殺すとはっきりと言った化け物が何故急に態度を変えたのか?

 良く分からなかったが、彼女の瞳を見て反応を変えたみたいだが、疑問に思いつつも今はその幸運に彼女は感謝した。


「はっ――はっ……」


 そんなに距離は無いはずなのに怪我の所為か息を切らしつつ、彼女は祠へと辿り着く。

 外からでも見えるその刀はオオゲツヒメの御神刀である月桂樹(げっけいじゅ)……瑠奈は其処に住まうであろう神に心の中で謝りつつ扉を強引に壊すと、月明りが射す場所に納められた刀へと手を伸ばした。


「ほほう、そんな所に刀がね……」


 化け物の声に反応し、瑠奈は祠の中へと飛び込む……すると先ほどまで彼女が居た場所を化け物の爪が襲い掛かった。

 それはまるで紙や布のように容易く祠の木々を裂き……それを目の当たりにした瑠奈は思わず目を疑った。


 やっぱり、タダの獣じゃない……こいつまさか本当に妖魔? いや、でも居るはずが無い……


 伝承に伝わる化け物の事を思い出し、すぐに否定した彼女は刀を鞘から抜き放つ……

 相手が何であろうが、倒さなければ実乃里の話は聞けないだろう……そう思ったからであり――


「はぁぁぁぁああああ!!」


 エルフの少女は化け物目掛け駆ける――!!


「威勢がいい……無駄だというのにな……」


 そう言って避ける気配すら見せない化け物に彼女は上段から斜めに刀を振り下ろし――


「ほれ、受け止めて――」


 その刃は鋭い爪を腕を裂き――赤い血を撒き散らさせた。


 斬れる――!!


 そう確信した少女はそのまま化け物の横を通り過ぎ、背中へ目掛け下段から斜めに刀を振り上げた。


「藍川流――攻ノ型……二式、柘榴(ざくろ)――」


 それはまるで熟したザクロの実の様な切り傷を残す――

 剣士としては背中を狙うなど卑怯だと感じていた瑠奈だが、なぜこの技が創られたのかぼんやりと頭に浮かんだ。


 この化け物が妖魔……カノ者なら、藍川の剣は……妖魔を殺すための剣技か……だとすればオオゲツヒメと家、それぞれに伝わる伝承の違いは何? わざわざ分ける必要が……

 でも少なくとも内に伝わる伝承にあるのは妖魔の滅し方? ……つまりこの刀、月桂樹は……


「な、なん……だと? 血、血?」


 化け物は大きな傷を負った自身の身体を見下ろし、わなわなと震える。


「あり得るはずが無い! 人間の武器だ……たかだか人間――」

「そんな事はどうでもいい……」


 過去に瑠奈の父が教えてくれた伝承はたったの一回しか聞いていない。

 だが、一つ一つ記憶の中から救い上げると、彼女は今手に持っている刀が妖魔を滅するための武器だと確信を得たのだろう、血に濡れた刃を妖魔の首へと当て――


「実乃里は何処に連れて行かれた? 答えて……その首を落とされる前に、ね……」

「お、脅しのつもりか人間……」


 妖魔は冷たい刃に一瞬ひるんだものの、そう答え――


「つもりじゃない……首を落とすのは変わらないから……」


 瑠奈はそう口にした……そう、彼女のそれは脅しではない。

 死の宣告――ただ、どうせ殺すのなら実乃里の事を聞いておかないといけない、そう思っただけだった。


「脅しになっていないな……言っても言わなくても死ぬ……なら言うと思うのか?」

「…………」


 化け物の言う事は最もだった。

 しかし、瑠奈はその事を理解していた……だからこそ――


「なら答えろ、実乃里は……あの子はすぐに殺されるのかを……」

「……はっ! あの子娘を助けるとでもいうのか!!」

「答えろ――」


 瑠奈は言葉と共に妖魔の首に刃をめり込ませる。

 すると妖魔は笑い声をあげ――


「あの娘が絶望を抱えるまでは生きてるだろうな……だが、お前が間に合うとは思わん、()()()()()()()()()()かっ()()

「…………?」


 確かに武器のお蔭で勝てた。

 その事は瑠奈自身も自覚していることだ……だが、その言い方が気になって彼女は妖魔の言葉を待つ――


「だが、もう――知っ()()


 首だけ回し口角を上げ笑う妖魔に嫌な予感を感じた瑠奈は慌てて刀へと力を伝え首をはねようとする――

 しかし――


「もう、遅い……()()()()()()()()()()かっ()()……」


 瑠奈が妖魔の首を落とすまでにその言葉は紡がれた。






 月明りだけが照らす闇の中、少女は肩で息をする……傷はいつの間にか痛みがなくなっていて……彼女はもう痛みすら感じない程になってしまったのかと肩の傷へと触れた……


「……え?」


 ぬちょり、そんな感触は確かにした……だが、痛みは感じず彼女は呆けた顔をし一音だけを発した。

 慌ててもう一度触ってみると――


「っ!?」


 傷に触れた……だが、疑問は晴れなかった……


「傷が小さくなってる?」


 思えば背中全体と言って良いはずの傷だったはずだ、慌てて地を見てみるが周りには血の跡が少ない、撒き散らしていてもおかしくはないのにまるで血が出ていない様に見えた。

 これは夢なのか? そう思いつつ妖魔の首を拾い祠の外へと出た彼女は――


「私の血だ……」


 襲われたその場所にある液体を見て、驚きの声を上げる。


「一体どういう事……?」


 月桂樹を鞘へと納めた彼女は疑問を浮かべるがすぐに歩き始めた。

 ここで悩んでいても仕方が無いのだ……傷の事は気になるが、それよりも今すべき事は――


「実乃里を助けないと……父様の書斎! 困ったらそこに行けって……!!」


 彼女は声を張り、オオゲツヒメへと戻る為に駆け始めた……

 折れた刀の代わりに月桂樹を……そして、父の仇である妖魔の首を持って……

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