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月明りの様に  作者: ウニア・キサラギ
3章 変化
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20話 脱出

 実乃里を助けた瑠奈は同じ部屋に居て牢に閉じ込められていた少女を助け出す。

 そして、オオゲツヒメへと戻る為に彼女達はその場から脱出をこころみるのだが……?

 薄暗い回廊を三人の少女と一匹のイタチは進む。


「そう言えば、君は何て名前なの?」


 そんな中、少女の名を聞いていない事を思い出したのろう実乃里は彼女へと話しかけ――


「…………いさみ」


 何処か言いづらそうな声でイサミは名を告げ――


「かっこいい名前だね!」


 実乃里は笑顔でそう言うが――


「実乃里!?」


 それに気が付いた瑠奈は慌てて幼馴染の名を呼ぶが当然遅く、少女はがっくりと項垂れていて……


「ああ、どうせ僕は喋り方が男っぽいし、女の子っぽい名前じゃない……」

「い、いいいや、イサミでしょ? 伊佐美なんて可愛い名前だと思うけど?」


 瑠奈は慌てた様に宙に文字を描き、それは伊佐美という文字を示すが当の本人は静かに首を振り――


「勇敢の勇に美しいの美、それで勇美」

「そ、そう、なんだ……」


 さらに落ち込む少女を見て瑠奈は申し訳なさそうな表情を浮かべたが、実乃里はうんうんと唸り。


「良い名前だと思うけど……」


 そんな会話を聞いていたからか八房は大きな溜息をつく。


「敵地から抜けていないというのに暢気な奴らだ――――っ!!」


 そして、奥を見る為だろう、道を覗き込んだ彼は飛ぶように瑠奈の方へと駆け寄り肩へと昇る。


「八房、何かあった?」

「ああ、奴ら警備を増やしている……だが解せぬな」


 肩の上のイタチは腕を組み首を傾げる。


「なぜ牢の前の警備は変わっていない……それに、ここまでの道のりも――」

「雑談できる位には気配も無かった……」


 そう、全くと言って良いほど気配はなかったのだ。


「他に道は?」

「ある……が、一旦引き返さねばいけないな」

「分かったじゃぁそっちに行こう……」


 瑠奈は牢から助け出した二人の少女へと目を向けつつ、そう口にした。


 実乃里は勿論、勇美もせっかく助けたんだ……

 弓を渡しておいてなんだけど、これ以上危険な目には遭わせたくない。


「瑠奈?」

「実乃里、道を変える……一回引き返すよ?」

「だ、大丈夫なのか?」


 不安そうな勇美に頷き答えた瑠奈は肩に乗る八房へと目配せをする。

 すると、彼女の方から飛び降りたイタチは笑みを浮かべ――


「こっちだ、逸れ無いようにな」

「頼むよ八房」


 彼女達は再び八房の後を追い歩みを進めた。

 再び薄暗い道を進む一行の中、瑠奈は手を顎に当て考えていた。


 妙だ……兵を集めていたにも関わらず、何で手薄な場所が……


「……瑠奈」


 再び肩へと戻ってきた八房に視線を向けた彼女は声を潜め問う――


「どう?」


 すると小さな手で道を指した八房は神妙な面持ちで語る。


「こちらは行けそうだ、だが――」

「なにか、あるんだね……」

「ああ、俺が居れば外には行ける。だが……この先は闘技場だ」


 それを聞いた彼女は瑠奈達が居る場所の事を言っているのではなく、競技をするその場所だと理解し――


「そう、じゃぁ……観客の妖魔が居るって事?」

「いや、今日はすでに終わっている……だが、舞首が居る可能性はある」


 まいったな、親玉が居るって事は私達がここ入った事はもうばれてて、まんまと誘導されたって事か……


「とはいえ……」


 瑠奈は後ろに居る二人の少女へと目を向けると――嘆息を漏らす。


 二人を連れて警備の中を突破するのは無理。

 だけど、こっちは親玉が居る――恐らく兵達も居るはずだ……

 そうなると私一人でどうにか出来る数じゃない……実乃里が居るとはいえ、危険すぎる。

 ならいっそ、実乃里の腕に頼って道を引き返す? いや、駄目だ……矢玉が無くなったら実乃里は何も出来ない……

 補充できるかも分からないのにそれは無謀だ……でも無謀はこっちも――


「る、瑠奈?」

「お、おい、ぶつぶつ言い始めてるけど大丈夫、なんだよな?」


 急にぶつぶつと呟きだした彼女を見て不安に思ったのだろう――二人のミコは表情をこわばらせ、それに気が付いた彼女は――


「……良い? 三人共良く聞いて」

「何だ?」

「この先には間違いなく親玉が居る……なら戻っても言ってもその先は決して楽じゃない……」


 瑠奈の言葉は静かに、そしてゆっくりと告げられていき――


「だから、私が囮になる。八房は二人を連れてオオゲツヒメまで逃げて――真っ直ぐ南に下って行けば実乃里が知っている場所に――」

「だ、駄目だよ! それじゃ……」

「大丈夫、たとえ襲われても実乃里の弓の腕があれば何とかなる」

「そうじゃなくて!!」


 実乃里は声を上げれないという状況を理解してだろう、瑠奈の耳元で少しばかり声量を上げ叫ぶ――


「そうじゃなくて……それ瑠奈が捕まるかもしれないんだよ? 瑠奈ともかく私達に貴女を救う術なんてないんだよ?」


 瑠奈はその言葉に思わず目を逸らし頬をかきながら答える。


「大丈夫、なんとかして戻るから……」

「嘘だね……」

「嘘じゃないって」


 決して意識している訳ではない、だが実乃里の瞳からは逸らすように顔を動かし彼女は嘘ではないという……

 だが、それは幼馴染には嘘であると確信を持たれている様で――


「瑠奈は嘘を言う時、絶対に目を合わせない……ねぇ? 瑠奈が戻らなかったら皆悲しむよ?」

「…………でも、妖魔は強い、実際に戦ったから分かるけど、やっとそれも偶然勝てたものだよ」


 彼女の脳裏にはエルフだからと油断してた妖魔達、そして青坊主の姿が目に浮かぶ――


 最初はこの街の人を救おう、そう思ったけど……現実はそう簡単じゃない。

 あんなのが何人も居るんだ……


「だから、実乃里達は逃げ――ひっ!?」


 幼馴染に再び逃げろと告げようとした少女は思わず悲鳴を上げる。

 そこには笑顔が張り付いた実乃里の姿があり、彼女はにっこりと微笑んだまま……


「瑠奈?」

「は、はい」

「助けに来たなら、自分を犠牲にするなんて馬鹿な事を言わないでほしいなぁ?」


 あくまで優しい、いや、優しすぎる声が瑠奈の耳元で囁かれ、彼女は身体をこわばらせると、囁く女性の方へとゆっくりと顔を動かす。


「あ、ああの実乃里、さん?」

「ん~? 何かな?」

「お、怒ってもむ――」

「怒ってなんかないけど、何かな?」


 い、いやいやいやいや……これは怒ってるでしょ!?

 だって目が笑ってない、でもこればっかりは――


「瑠奈はね? 弱気な事は言わないし、強いし、どんな獲物だって仕留めちゃう人なんだよ?」

「そ、それは買い被り過ぎ……」

「でも、それより強い人や獣、妖魔は居ると思う……だからって、小さい頃から一緒に居て守ってくれてた人を見捨てろなんて言われて『はい、分かりました』なんて言える訳ない」

「いや、僕は出来れば逃げた――」


 勇美は正直に言葉を告げたが、まるで邪魔をするなという実乃里の視線に言葉を詰まらせ――


「なんでもないです」


 再び口を開いた時にはそれだけを呟いた。


「それに瑠奈なら分かるでしょ? 大事な人が居なくなったらどれだけ悲しいか……私のは想像に過ぎないけど……それを思ったら、泣きそうだし、実際になってしまったら立ち直れないよ……」

「実乃里……」

「それは護るって言うのかな? 私を護ってくれるって言ったのは子供だから何も考えてなかっただけ?」


 いや、違う……

 私が実乃里を護るって言ったのは父様にそう言われたから……月の様に誰かを……

 ああ、でも――そうだ……実乃里達を逃がせても、ここで親玉の首を取れなきゃ意味が無い。


「瑠奈はもう護ってくれないの?」


 そうすれば……実乃里はまた狙われる、勇美は勿論……私がやった事の報復でオオゲツヒメも襲われたっておかしくない。


「いや、護るよ……さっきのは無しだ……」

「へ!? ちょ……僕の意見は――!?」


 慌てる勇美を余所に嬉しそうに頷くのは実乃里――

 そんな彼女達の様子を見て勇美には悪い気がした瑠奈だったが……


「でも、一人じゃきついってのは変わりない、だから手を貸して実乃里――」


 幼馴染にそう告げると――


「うん! 勿論だよ!」


 弓を構えたのだろう、音と共に発せられた声に頼もしさを感じた彼女は――八房の方へと瞳を向けた。


「噂通りであれば勝機はある……」

「その噂って?」

「仲が悪いと聞いただが、あくまで噂だ……舞首は強いぞ」


 その言葉に強く頷いた彼女は腰にある刀月桂樹へと手を添え――


「分ってる、でもやるしかない」


 迷いを振り払い答えた。

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