12話 妖魔の街
古い日誌に記されていた横浜と言う街。
そこに妖魔達のアジトがあると言う事を掴んだ瑠奈は翌日出発することにした。
朝早く旅立った彼女は森を歩いていたのだが?
オオゲツヒメから旅立ち早数時間と言った所だろう……深い森の中を瑠奈は歩いていた。
「……む、昔の人ってこの距離を一時間以内で移動してたって話だけど……一体どうやって」
普段歩く事の無い道を歩きながら瑠奈はそう呟いた。
それは街にある学び舎で聞いた話……嘗て人はあの鉄の塊を動かし、信じられない速さで移動、海を渡り挙句空まで飛んでいたという。
「……電車、飛行機、船……思い出してみると、妖魔より御先祖様達の方が凄い気がしてきた……」
彼女は苦笑いをしつつ、歩を進め……ようやく開けた場所にたどり着く……が――
「な、何……これ……」
目にしたのは彼女の身長よりはるかに高い壁、瑠奈は髙い場所に居た為、壁の奥を見ることが出来たのだが……良く見えず。
それを確かめようと双眼鏡を取り出した瑠奈は覗き込むと――
「――っ!?」
そこには目を疑うような光景が広がっていた……
そう、その街に居たのは――
「人? でも、なんで……え?」
重そうな荷物を運ぶ人、家畜を育てる人、人、人……そこには瑠奈と何ら変わりない人間達が住んでおり、彼女は道を間違ったのか? と疑いを持ち始めた。
そんな時――
「なっ!?」
彼女が見たものはエルフとは違う化け物。
その化け物は人に徐に近づいたかと思うと何の拍子も無く拳を向けたのだ。
どういう事? 人と妖魔……妖魔が人を殴った?
疑問を感じた彼女は街並みを更に見回すとどういう事か働いているのは人間だけ、妖魔らしき姿も見かけるが彼らはただ人を監視し、体罰を与えている。
人間の中には街中に倒れているのも見かけられ……そう、それはまさしく――
奴隷? じゃ、じゃぁ……今まで妖魔もうすでにエルフが居たからオオゲツヒメを襲う必要が無かったって事!?
今回は偶然、実乃里を見つけたから?
瑠奈は目を離さずに双眼鏡を握る手に力を籠める……
働くのは若い男だけではない、小さな子供は見かけないが……年老いた老人や体の一部が無い人々……そんな状態でも体罰を受け働いているのだ。
こんな事があっても良いのだろうか? 良い訳が無い! 瑠奈はすぐにそう答えを導き出すとようやく双眼鏡から目を離した。
「実乃里は勿論、あの人達も助けなきゃ……そしてこんな場所……壊してやる……」
元凶となる妖魔さえ居なくなれば彼らは人として威厳を取り戻せる。
そう瑠奈は信じ、崖を下ると先ほど目にした入口へと向けて駆け始めた……
入口には門兵のつもりだろうか? 妖魔の兵が立っており、彼らはへらへらとした態度で会話をしていた……
霊力を持たぬ人間に対しては絶対的な存在である妖魔、だが――
「――――っ!!」
「な!? か、刀!?」
霊力を持ち、月桂樹を手にした瑠奈は彼らの天敵であり――
「藍川流……攻ノ型……一式・針桐――」
ましてや剣術を操る彼女にとっては隙だらけである妖魔を討ち取る事は動作も無い事だった。
相方を殺されたと理解したのだろう残った妖魔は牙を向き瑠奈へと飛び掛かかり――
「お前か! 言霊が言っ――」
叫びをあげるが――
「黙れ――」
瑠奈はその妖魔に対し刃を振り抜き、それが地へと落ちた事を確認すると扉を開ける……
すると粘り気のある空気が彼女を包み、それに嫌悪感を隠すことなく表情に浮かべるた瑠奈。
そんな彼女の耳に――
「お、お前どうやって!! 外の奴らはどうし――」
彼女に気が付いた妖魔の声が聞こえ、それに対し瑠奈は月桂樹を喉元へと突き付ける。
「な、な?」
すんでの所で止めるのではなく、切先を喉に少し刺し……自分はお前たちを狩れるのだと暗に教えつつ彼女は――
「実乃里は……ミコは何処だ?」
そう妖魔を脅す。
「ミ、ミコだと? か、家畜の分際で妖魔に仇なすのか!?」
「家畜……ね? 随分と失礼な言い方だね……だけど、私はアンタ達を狩れる……死にたくないなら答えろ」
相手は妖魔脅しても意味が無い、そう思っていた瑠奈だったがその妖魔へと刀を突きつけた時に気が付いたのだ……同じ妖魔でも戦う術が無い者が居るのだと……
現に目の前に居る妖魔は人とはかけ離れた骨格と頭だったが爪も無く、牙も貧相な物……その体躯は細く、腹だけ異様に出っ張っているだけだった。
そして何より――
「お、お前が俺達を狩る? 俺が負けるとでも?」
「なら、私を見た時になんで怯えて一歩後ろに下がった?」
そう、怯えたのだ……人間に対し妖魔は絶対……ならば目の前に居る力を持たない妖魔ですら人には勝てるはずなのだ。
ならば襲い掛かって脅威を取り除けば良い。
しかし、目の前の妖魔はそうせず怯えた上に下がったのだ……
「た、助け――ひ!?」
その事がバレたとようやく気が付いたのだろう妖魔は声を上げようとするが、瑠奈は刀を少し前に押し出すと――
「騒ぐな」
短くそれだけを告げ――
「無駄に殺す気はない……それは妖魔のやってる事と同じだ。場所を教えたら拘束は解いてあげる……」
「う、嘘だ! お、おおお思い出したぞ! カマイタチの旦那が殺されたって……」
「カマイタチ?」
「あの人はち、力の無い俺にも優しかった……俺も落ちこぼれだ同類だなってよ! お、お前だな! お前が――」
落ちこぼれと言う言葉を聞いた瑠奈は思わず首を傾げそうになった。
カマイタチとは彼女が首を落としたあの妖魔の事だろう……だが、決して落ちこぼれだとは思えなかったのだ。
私が避けれない程、速い妖魔……あれで落ちこぼれ? じゃぁ他のはもっと化け物じみてるって事!? 頭痛くなる……
先ほどの妖魔もそうだが、油断があったから勝てたような物だ。
彼女はそう思っていたのだから当然だった……
「お、俺が仇を――お前を――」
そして、目の前に居る妖魔……その目はどす黒く、昨晩目にした自身の目とそっくりだった事に瑠奈は嫌気がさし――
同時に妖魔の言葉を思い出した……
『仲間を守る為に逃げる事はしないって俺を睨んできたのを今でも覚えてる。へへへへ、俺が人間かあいつが違えば面白い勝負になってたんだが、残念だったな』
相手は妖魔……父様を殺した憎い妖魔……だけど、アイツはもしかして――父様と本気で戦いたかったのかな?
今になって思い出してみれば、主……カマイタチは父様をそれなりに評価してたのか――
「アイツは――」
「あん?」
「あの妖魔は強かったよ……事実、私がエルフである事に油断してくれていたから勝てたような物だ……父様の事も馬鹿にはしなかった……」
「何を意味を分から無い事を言ってやがる! この妖魔殺しが!!」
その言葉に聞きなれている訳が無い瑠奈だったが、人殺しと言われているのと同じだと感じ――
「ああ、そうだ……アイツは父様を殺したからね。けど、それを言い訳にするつもりは無い……私はアイツと門兵を殺した……それは事実だ。でも、さっき言った通り実乃里の場所を教えてくれたらアンタは解放する」
「信じられるわけがないだろう人間!!」
「なら、父様とアイツに誓っても良い……」
「な……に……」
その言葉は妖魔にとって予想外だったのだろう……
「お前が人間が妖魔に誓う? それもカマイタチの旦那にか?」
「……二言は無いよ」
「…………………俺が嘘言うかもしれんぞ?」
それは最もな事であり、瑠奈も気が付いていた事だ……だが彼女は自身でも理解が出来なかったがその言葉に頷き――
「その場合は無抵抗だと言ってもアンタを探し出して狩る……実力は分かってるはず、私は妖魔を切り伏せたんだからここに居るんだ」
「……クッ…………ここから北東、そこに海がある……海の近くに地下へと降りる階段があってな……その奥だ、酒蔵って呼ばれてる場所がある……そこかもしれん」
「そう……ありがとう」
瑠奈はそう一言だけ告げると刀を喉元から離し、鞘へと納めた……
すると――
「だが、もしかしたら違う場所かもな? 巫女となれば酒蔵ではなく、闘技場地下の方に居るかもしれん」
「闘技場?」
「ああ、昔人間が大人数で運動をしていた場所だ……今は人間同士を戦わせる妖魔の娯楽施設……そいつは酒蔵から北西にある」
「……分かった、アンタはもう逃げても良いよ」
彼女は方位磁石を手に歩き出すと――後ろからは……
「お前にゃ無理だろうがな……」
そんな言葉が聞こえた。
だが――彼女は……
「やってみないと分からない……」
そう一言だけ告げ、北東に向けて駆け始めた。




