ピンクの悪魔を討伐せよ(1)
視点が変わります。ご注意ください。
*誤字脱字の修正入りました
「そっちに逃げたぞ! 回り込め!」
「スノーマン! そこの家にファイアーボールを打ち込んでくれ!」
「数が多すぎる! 誰でもいいから手を貸してくれ!」
「おぃ、ファイアーボールはまだか!?」
「誰か助けて下さいよぉ~!」
とあるゴブリン集落にて人間の声が四方から飛び交う。それと同時に鉄が交わる音、ゴブリンの悲鳴、スノーマンが繰り出す魔法で吹き飛ぶ家、様々な音が周囲に響き、そしてゴブリンの生命が一つまた一つと断たれる。
そんな彼らの職業は請負人であった。正式名称は請負組合連合会、旧名が冒険者ギルドなのだが時代の流れと共に冒険をする土地が無くなり、こうして正式名称が移り変わったのであった。
請負組合連合会の仕事は名前の通り依頼の引き受けにあり、魔獣の討伐から野草の採取、犬の散歩から家の修理、つまり何でも屋であった。
彼らが暮らすのはゴブリン集落から徒歩で二日ほど先にある辺境地サンマルクで、周囲は山々に囲まれ魔獣がひしめき合っている。そのため辺境地サンマルクでは常時魔獣の討伐が依頼として張り出され、依頼とは別に指定された魔獣の部位を請負組合連合会に持っていけば報酬が支払われる。
そのため彼らの今回の目的、それはオークの討伐だったのだが、道中にゴブリンの集落を発見し小遣い稼ぎにと攻め込んだのであった。
それが三十分前の事なのだが、湧いて出るゴブリンの数に請負人達の表情に疲れが見え始めていた。
魔法で吹き飛ばし戦斧で薙ぎ払い、片手剣で斬りつけ槍で貫く。
死体となったゴブリンの数は三十を超え、逃げずに様子を見ているのが十体、まさに今から襲うとしている者が十体。最低でも後二十体の相手を、たった五人の請負人で対処しなければならない。
小遣い稼ぎと安易に襲い掛かった事に、パーティー唯一の魔法使いであるスノーマンは舌打ちをした。
ゴブリン自体は個々の能力は非常に低い。それこそ十代そこらの駆け出しの請負人でも簡単に討伐できるだろう。だがそれは単体での話だ。複数、それも十を超える数となればベテランの請負人でも手を焼くだろう。
実際彼らはベテランの請負人なのだが、既に三十を超えるゴブリンを討伐できたのは魔法による恩恵が強い。割合で言えば魔法使いのスノーマンが八に対し、残りの四名が二と言った所だろうか。
そもそも魔法を使える者は珍しい部類に入る。簡単な魔法――それこそ掌にマッチ程度の火を出せる程度なら無数にいるが、スノーマンのように攻撃魔法を扱える者は限りがあり、パーティーメンバーに魔法使いがいること自体が一種のトレンドとも言えた。
「くそっ! 全体魔法を使う! 巻き込まれたくなけりゃ退避しろ!」
このままではジリ貧で押し込まれるとスノーマンは判断し、本来なら奥の手とも言える全体魔法を使う決意を固めた。
全体魔法とは言葉の通り広範囲魔法で、今の様に多数の魔獣を相手にするには都合がいい。だがデメリットも存在する。それは魔法を使うために必要なマナの消費が膨大な事にあった。
簡単に消費と言ってもバカにはできない。一定のマナを消費すると肉体にも影響が出る。全身の倦怠感を始め、吐き気に頭痛、更には足腰の痛みなどなど。安全地帯なら問題ないが、ここは戦場だ。戦場でマナ不足は命取りにもなりかねない。
「その言葉を待っていたぜ、スノーマン! おめーら、さっさとスノーマンの後ろに退避だ! おらライナ! ぐずぐずするな!」
「は、はい! って、隊長待ってくださいよ!」
「さっさと走れ、このウスノロ! 死にて―のか!?」
「いくぞ! 《ファイアーウォール》!」
スノーマンはゴブリンを囲むように《ファイアーウォール》を展開し、意識を集中させて火を操る。
時には横に移動させ、時には幅を狭め――そして瞬く間に二十体のゴブリンは焼け死んだ。周囲に漂う肉の焼けた香ばしい香りだけを残して。
身を犠牲にして大仕事を終えたスノーマンはその場で倒れ込み、全身を覆う倦怠感や痛みに苦しみ悶えた。
「ライナ、さっさとスノーマンに回復薬を飲ませてやれ。残った者はゴブリンの指定部位を集めるぞ。回収できそうなら崩れた家も確認しろ。後は周囲の警戒も怠るな」
テキパキと指示を送るパーティーの隊長――グレイは残った二人の仲間を連れて指定部位の回収に向かい、パーティー唯一の女性であるライナはポーチから回復薬を取り出し、倒れ込んでいるスノーマンに「おかげで助かりました」とお礼を言いながら飲ませる。
回復薬のおかげでスノーマンの体にマナが補充され、同時に全身の倦怠感や痛みが薄れていく。
全てを飲み切った時、覆っていた全ての物から解放されたスノーマンは、あまりの心地よさから口元が緩む。
「助かった。ありがとう」
「いえ、私に出来る事はこれだけなので。それでは私も皆の手伝いに行ってきますので、スノーマンさんは休憩していて下さい!」
そう言ってライナは指定部位を集めている仲間の元に駆けて行った。
取り残されたスノーマンは大の字に寝転がって空を見上げる。雲一つない青空に飛び交う小鳥を目で追い、ポケットから取り出した煙草を銜える。
マッチの代わりに魔法で火を点け、肺に充満した紫煙を吐き出す。
そこでようやくスノーマンは戦闘が終わったのを実感し、仕事終わりの一服に体の力が抜ける。
三十分経った頃だろうか、スノーマンを除く四名の請負人が指定部位を片手に戻って来たのだが、どれも表情は暗かった。
それもそのはず。どれだけのゴブリンを討伐しても、最後にファイアーウォールを使ってしまえば良くて真っ黒、悪くて炭になってしまう。
つまり五十を超えるゴブリンを討伐しても指定部位を剥ぎ取れるのは一部なのだ。それは今までの苦労が水の泡と化した瞬間でもある。
「何とか原形を留めていたのは三十体ってところだな。まっ、命あっての報酬なのは分かっているが、こりゃ流石にへこむわ。……取り敢えず休憩でもするか」
真っ黒になっている指定部位を地面にばらまき、グレンはその場に座り込む。それから直ぐに「もちろんスノーマンを責めている訳じゃねぇ、勘違いしないでくれよ」と、険しい表情のスノーマンに訂正を入れた。
戦闘をこなし休憩の前に指定部位を回収した面々は、疲労から崩れ落ちるように座り込む。煙草を吸う者、指定部位を袋に入れる者、武器の確認をする者、それぞれ好きなように休憩を満喫するのであった。
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