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天狗の会合

視点が変わります。

少し言い回しがくどいです。この話はスキップしても問題はありませんので、苦手な方は『戻る』ボタンの方をよろしくお願いします。

 いつの時代も戦争とは切っても切れない縁である。

 それは魔獣界でも同じであった。時代を(さかのぼ)れば百年ほど前、リザードマン率いるゴブリンとオークの連合体。下級魔獣の繁殖力に物をいわせ、数にして二十万体と歴史に名を残す大連合を作り上げた。

 そんな大連合と戦争を交えたのは人間だった。

 二十万体に対して人間の数は半数以下、たった五万人であった。更にその内の三万人は冒険者ギルド――現在の請負組合連合会(旧冒険者ギルド)から集めた素人の集まりだった。

 結果は都市を三つほど大連合に蹂躙(じゅうりん)されながらも、最終的には人間の勝利で幕が下りた。

 勝利の要因は人間の持つ優れた知能にあった。

 そもそも人間はほとんどの事柄で魔獣の足元にも及ばない。繁殖力にしても、魔法を使用する際に必要なマナ(魔力)にしても、体格や筋力にしても、そのどれもが魔獣に敵わない。もちろん下級魔獣には(まさ)る事柄もあるかもしれないが、それはほんの一握りでしかない。

 最弱ゆえの悪足掻(わるあが)きともいえようか。

 その悪足掻(わるあが)きが策を練り、新たに武器を作り出し、犠牲と称して敵を誘き出し――気が付けば戦争が始まって半年、たった半年で終戦を迎えた。

 だがそれほど大きな規模の戦争はそうない。

 基本的に戦争とは人間同士が繰り広げる。規模でいえば小競り合い程度だが、それでも五年の間隔も開けずに開戦し、必ず弱き国が衰退していく。

 そして今回の天狗とエルフの戦争である。

 魔獣同士の戦争は珍しく、時代を(さかのぼ)れば実に数百年ぶりだった。

 だが言い換えれば、それほど二つの種族には埋めようのない溝が存在するのだ。最初は小さな溝だったが、それがやがて深くドロドロした物へと変化し、同時にいがみ合い、憎しみ合い、恨み合い……。もう戦争を回避する術はないほどまで膨れ上がった。

 勘違いしてはいけない。以前――溝ができる前までは友好的な関係にあった。

 技術を共有し、それぞれの文化でもてなし、時には笑い、時には喜ぶ。絵に描いたような理想郷が広がっていた。だがそれも長くは続かなかった。

 事の発端はエルフが人間と友好を築き始めた事で、後々の戦争の引き金になった理由もそこにある。

 ひとくくりに魔獣といっても幅は広いが、それでも魔獣と人間は昔からいがみ合い、殺し合う仲である。そんな人間と友好を築いたエルフに天狗は激怒した。

 我らを脅かす人間と手を組むとは何事か、と。

 そこからは早かった。瞬く間に友好関係が中立関係へ、中立関係が敵対関係に変貌していった。同時に以前の理想郷とは真逆の、絵に描いたような地獄絵図へと筆が進んでいく。


 その地獄絵図へと拍車をかけようとする四名の天狗の姿があった。

 若干二名を除けば、どの天狗も年老い元々は漆黒の翼も今は見る影もなく白く染まり、どことなく翼の威厳と迫力が欠けていた。その若干二名のうち一名、エレンの祖父にしてエスターちゃんが暮らす村の村長である。年老いてはいるが、それでも漆黒の翼は今も現役のままだ。年齢的には変わらないはずなのだが、その理由は未だに謎のままである。

 一堂が会した場所、それは天狗の聖地であるアルト山の頂上付近に建てられた古びた小屋だった。

 標高にして二千メートルと、お世辞にも背の高い山とは言い難いが、それでも昔から『天狗が誕生した山』と言い伝えがあり崇めている。そのためアルト山の恩恵を得ようと、昔からアルト山付近は天狗の縄張りと暗黙の了解があり、無数の天狗が暮らしている。

 もちろんこの場に集まった四名――四つの村以外にも数多く村は存在するが、この聖域に足を踏み入れられるのは、それなりに権力のある天狗だけとなっている。

 そんな権力を所持する天狗について少しだけ説明をしよう。

 まずエレンの祖父にあたり、村の村長を務めるウノマル。彼は若い頃から他の天狗より頭の回転が速く、それでいて天狗を指揮する能力に長けていた。その才能から戦争とまではいかないが、それでも他種族との小競り合いで数々の指揮をとり、その数だけ勝ち星をあげ続けてきた。いわば天狗界における知将といったところだろうか。

 次に天狗界の武器製造における第一責任者、名はソウスケ。体中には大小様々な傷が刻まれ、さぞかし波乱万丈な人生を歩んできたと思わせるが、実はそんな事はない。彼は自他ともに認める――気狂い(キチガイ)である。彼の傷は全て自ら実験体と称して刻まれたものなのだ。今でこそ一線を退いたが、現役の頃は常々こんな事を言っていた。『己の身を実験体に捧げる事、それは武器の改良を知る近道である。同時に武器の可能性を感じ取る必要不可欠な行いである』と。そのおかげかどうかは別として、ソウスケの功績により天狗界の製造技術は目まぐるしい成長を遂げた。

 この会合で唯一のメス、名はエイリン。彼女も『若干二名』のうちの一名である。その容姿は実に美しく、全ての美が彼女に集まっていると勘違いさせるほどだった。健康的に焼けた小麦色の肌、他者を惑わす深い妖艶な瞳、ぷっくらした肉厚な唇、どの天狗より艶やかな漆黒の翼。メスの天狗が嫉妬の眼差しを送るほどの美を得て――いや、創造した。そしてそれこそが彼女がこの場にいる要因である。彼女の本来の姿は今とは真逆であった。青白く病的な肌、歳の数だけ刻まれたシワの数、白く染まった翼。本来の姿を偽り、新たな容姿を獲得できたのは魔法の力であった。そう、彼女は天狗界の魔法における第一責任者である。その才能は天狗界に留まらず、魔獣界においても名が知れ渡るほど多種多彩な魔法を自在に操り、その力で数多くの命を葬り去った。その姿を偶然にも見た、とある天狗はこう言った。『彼女は天狗の枠を超えた悪魔』なのだと。

 最後の一名、この小屋における上座にすわり、そこに座る意味から最も権力のある天狗、彼の名はハルオビ。元々は天狗の村は一つであった。それが時代の流れと共に新たな土地を開拓し、それが長い年月と共に増え続けた。かといって、どの村でも技術力や文化などの違いはない。どの村も似たり寄ったりではあるが、ハルオビが納める最初の村――その規模を超えて人間の造り出した都市とも引けを取らないほど成長と拡大をしていた。圧倒的な戦士の数、所持する武器の数、存在する天狗の数、どれも他の村とは比べ物にならない規模であった。そんな都市を治める長に誰でもなれる訳がない。それを可能にしたのがハルオビのもつカリスマ性にあった。言動の一つをとっても民は魅了されたかのように褒めたたえ、他と大きく差を離して長へと上り詰めたのだ。


「それでは裁決をとる。異議のある者はおらぬか?」


 そんな中、口を開いたのはハルオビであった。

 ハルオビは残りの三名を一瞥し、少しの間を開けて「満場一致だな」と呟く。

 今回の議題は以前から話を進めていたエルフとの戦争について、より煮詰まった話し合いが行われた。開戦の日時や場所、投入する兵力の数、前線への補給をどのように行うか、女子供をどこに非難させるか等々、途方もないほど山積みになった議題を数か月に渡って話し合い、こうして大体の事柄を消化した。

 それでも最大にして最も重要な議題が残され、一同の頭を悩ませていた。


「次に援軍要請についてだが……。誰か良い案がある者はおらぬか?」


 そう『他種族の援軍要請』についてだ。

 有力な候補といえばリザードマンなのだが、彼らは先の大戦で甚大な被害を被った。百年ほど前とはいえ、それでも一時期は滅亡の手前まで数を減らした。下級魔獣の繁殖力があれば軽視される問題だが、生憎とリザードマンの繁殖力は弱い。そのため現状で援軍の要請を送っても突っぱねられるのが目に見えている。

 数に物をいわせてゴブリンやオークに援軍要請を出す案もあったが、意思の疎通が図れない以上は連れ去る事は出来ても、軍勢として集める事は困難であった。仮に集められたとしても大軍を養うほど、天狗の食糧事情は裕福ではない。それこそ反乱を起こされたら戦争どころの話ではなくなるし、次に滅亡の危機を辿るのは我が身となる。

 そんな中、天狗界の知将と称されているウノマルへと視線は集まった。どの視線からも、これはお前の仕事だろ。と物語っていた。

 その視線から逃げるように机へと落とすが、そこでとある赤子――エスターちゃんの姿が頭に浮かぶ。本来なら天狗が持つはずのないスキルを多彩に宿し、今までなし得なかったゴブリンとも意思の疎通を図る。そんなエスターちゃんを利用しない手はない。

 すぐさま思考を回転させ、とある名案が浮かんだ。


「……ゴブリンに援軍要請を送ろうかのぅ」

「あら、何を言うかと思えばゴブリンですって? 知将の名も歳と共に錆びついてのかしら? けど、まぁ面白さとしては合格点よ」

「エイリン殿の言う通りだ。お主ともあろう者がどうした? 少しは頭を冷やせ」


 ウノマルの発言にエイリンは笑い出し、ソウスケは呆れてため息をつく。

 今更ゴブリンに助けを求めるとかあり得ないだろう。両者の思いはそこにあった。確かに個々の戦闘能力は低いし知能も差ほどに発達していない。優れた面は繁殖力のみのゴブリンに要請しても手に余るのは目に見えているし、何より天狗の傲慢さがゴブリンをバカにしていた。

 つまり先に説明した『ゴブリンやオークに援軍要請』の話は元より彼らの頭にはなかったのだ。社交辞令程度に話を聞き、それらしい理由をつけて却下する。


「そう言うな。まずはウノマルの話を聞くのが筋じゃないかね?」

「まっ、それもそうね。どれほど素晴らしい案が出されるが楽しみだわ」

「ハルオビ殿の言葉も一理ある。我も軽率な発言をしたとウノマルに謝罪する。すまなかった」

「うむ、気にするな。それでワシの案じゃが――」


 と、頭に描いた筋書きを離し始める。

 最初こそは適当に聞き流していたエイリンも徐々に耳を傾け始め、説明が終わる頃にはニンマリと口元を歪めて賛同の意を表した。

 こうして最大にして最も重要な議題が解決の道へと向かおうとしていた。


 それぞれに何かしらの思いを抱き、目前まで迫った戦争に闘志を燃やしていた。

 そんな四名の権力をもつ天狗には、一つだけ共通点があった。

 それはスキル欄に『大罪の卵』を宿していた事だったが、本人を始めとしてスキルの効果を知る者はこの場にはいなかった。

ここでカミングアウトします。

私は『裏設定の説明』や『くどい言い回し』が大好物です!

本当はもっと密に(二万字ほど)書きたかったのですが、あまりしつこいのも問題かと思い、それっぽく匂わせて区切らせてもらいました。

ただ説明文が大半を占めて、会話が手つかずになったのは心残りです……。


数ある小説の中から読んでいただきありがとうございます。

誤字、辛口コメント等がありましたら何なりとお申し付けください。

すいませんが更新は不定期です。ご了承いただければ幸いです。

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