再会と憤怒とスライム
視点が変わります。ご注意ください。
*誤字脱字の修正入りました。
*一部の表現方法を変更しました。
請負組合連合会に所属するグレン率いる一同はゴブリン討伐の依頼を受けるため、辺境地サンマルクから三日ほどの草原にやってきた。
十日前にオークの村を襲撃した後、いったん辺境地サンマルクへと帰還したのはいいが、五等分した報酬は彼らにとって稼ぎにはならなかった。
今はそれでも問題は無いだろう。だが遠い未来にやってくる冬を越す事は出来ず、体にムチを入れて再び討伐依頼を引き受けたのだった。
そして三日間の移動の末、夕焼けが辺りを染めた頃に目的地に到着した。
相手は低級魔獣のゴブリンとはいえ夜目がきく。そんな相手に夜戦を仕掛けるほど彼らも侮ってはいない。
いや、正確に言えば十日前のオーク戦で身に染みたのであった。戦闘能力は人間より勝るオークだが、それでも所詮はオークと心の隅で余裕があった彼らだが、蓋を開けてみたらどうだっただろうか?
結果から見れば請負人の圧勝なのだが、一時――それも一体のオーク相手に死人がでそうになった。
そこから彼らの気持ちに変化が生じ、たかがゴブリン、所詮はゴブリン、そのような考えは捨てて今も新たな思いを胸に依頼を受けた。
のだが、三日も歩き続けて道中でも魔獣との戦闘を繰り広げた一同だ。パーティー唯一の女性である槍使いのライナにも疲れが見えていた。
ここまでの二日間は交代でやっていた見張り番も何とかこなしたが、疲労が溜まった三日目で遂に居眠りをし、更には運が悪い事にスライム――エスターちゃんの登場だ。
そうとは知らずに各々で睡眠を満喫しているさなか、エスターちゃんは一生懸命に武器を分解し、防具も半数まで分解が終わった。
そこで目を覚ましたのが隊長であるグレンだった。
最初こそは居眠りしているライナに失笑し毛布を掛けたのだが、自分の武器がない事に気が付き豹変した。
すぐさま全員を叩き起こし、見張り番を務めていたライナを正座させて全員で囲む。
「この、大バカやろうが!」
怒りを隠さずにライナを見下ろして拳骨を繰り出す。
他の者も腕を組んでライナを見下ろし、そして軽蔑した視線で睨みつけていた。
それもそのはず。自分たちの武器は消えてなくなったが、ライナに関しては武器も防具もそのままで、それが余計にグレン達の怒りを買っていたのだ。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
一同に何度も何度も頭を下げるライナだが、そんな事で腹の虫が収まるはずがない。
グレンを始めとした一同はそれぞれライナを罵倒し、女性とはいえ罰として拳骨をお見舞いするのであった。
四人からの拳骨を食らったライナは頭に大きなコブを作って目を回したが、これも自分が招いた事だと諦めて受け入れるのであった。
「ダニエル、念のために防具の確認もしろ!」
「了解っす! ……た、大変っす! 一大事っす! この世の終わりっす!」
「どうなっている!?」
「防具の半数は見当たらないっす……。それにほら、これを見て欲しいっす」
そう言ってダニエルが差し出したのは所々がただれ、もう防具としては使い物にならない籠手だった。
それの持ち主だったグレンの表情は青白くなったがそれも最初だけ、直ぐに顔を真っ赤にして再びライナの頭に拳を叩きつけた。
ゴン!
先ほどまでとは比べ物にならない拳骨――渾身の一撃にライナは完全に目を回して倒れ込むが止まらない。気を失っているライナに罵倒を浴びせ、それでも収まらない怒りに年甲斐もなく地団駄を踏む。
「これはスライムの仕業だな? おい、他の防具はどうなっている? まずは現状の確認を最優先にしろ」
使い物にならないグレンの代わりにスノーマンが指示を出し、ダニエルとラックスが防具の仕分けを始める。
仕分けた結果はこうなった。
無事な防具はラックスの毛皮鎧一式、グレンの板金鎧が数点のみ。
もっとも被害が大きいダニエルはショックのあまり膝をつく。長年使用し愛着さえ芽生えていた板金鎧一式だけではなく、毎晩の手入れを欠かさず行っていた片手剣。その全てが綺麗さっぱり消えてなくなっていた衝撃の事実に、感情が表に出て密かに涙を流すのであった。
そしてダニエルは恨みと同時に誓った。我が半身を奪ったスライムを見つけ出し、この手で葬ると。
「グレンさん、自分は悔しいっす! この手でスライムに引導を渡さないと気が済まないっす!」
「……そうだな。よし、お前ら! やつはそう遠くないはずだ。必ず見つけ出して俺らの武器と防具に手をかけた事を後悔させてやるぞ!」
「おぉーっす!」
当たり前だが探す間もない。近くで死んだフリをしているエスターちゃんは直ちに発見され、そしてライナを除く全員で横たわっているスライムを睨みつける。
グレンとダニエルは怒りから顔を真っ赤にし、ラックスは表情こそ無だがそれでも内に秘めた怒りの視線を送り、スノーマンは考えていた。
どうしてスライムの個体種スキル『分解』を途中でやめて移動したのか、と。
だがどれだけ考えても答えは見いだせず、何となく行った補助魔法《覗き見》で驚愕する。
「ちょっと待て! このスライムは普通とは違う! ただ殺すのは惜しい!」
「はっ、何を言っているスノーマン? こいつは俺たちの武器を、防具を分解した。ここで殺さなくていつ殺すよ?」
「そうっすよ、スノーちゃん! 自分はこのスライムに引導を渡すっす!」
「まて、まずは俺の話を聞いてくれ。……もしかしたらこのスライムは十日前のオークだった可能性がある」
「はっ、そんな訳があるか。スノーマン、お前はいつから嘘が下手になった?」
「本当だ。スライムの個体種スキルは何か知っているか?」
「分解と自動修復っす」
「そうだ。だがこいつにはそれに加えてオークのスキルも持っていやがる。それだけじゃない、俺達を襲ったオークと同じ【輪廻転生】って特殊スキルを持っている。お前達もよく考えてみろよ? ただのスライムに自我があると思うか? これは俺の仮説にしかすぎないが、このスライムはオークの意志を継いでいる。いや、そもそもオークでないのかもしれないな。安易に突っ込むだけのオークの立ち回り方とは思えない。その前から意志を継ぎ続けているのかもしれないな。それに、前回から学んだことだが、十中八九でこのスライムは生きている。死んだフリをするスライムって見た事も聞いた事もないだろ? 自我が発達している証拠だ」
グレンの言葉にスノーマンは何も言えなかった。
今後もパーティーを共にするなら仲間の意見を尊重するのも大切だ。
「……分かった。今回はグレンの指示に従う。だが! 仮に再びこいつと出会う事があったなら、その時は俺の指示に従ってくれ」
「ほう。お前がそこまで気に掛けるとは珍しいな。俺はそれで構わないが、ダニエルもそれでいいな? 今回の事はこれで水に流して、次回は出会っても殺さないと誓え。そうじゃなきゃスノーマンも納得しないだろうな」
「……分かったっす。その代わりに留めは自分がやるっす!」
「おう。お前の好きなようにしろ」
そして四人――主に二人の請負人は低級魔獣、それもワーストワンのスライムを一方的にボコボコにしたのであった。
千切っては投げ、千切っては投げ……その姿は遠目から見ても気が狂ったようにしか見えないだろう。だが周囲には誰もいない。ただただ生き地獄をスライムに与える一同であった。
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