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外出
肌に合うのはイタリア製スーツ。よく磨かれた先のとがった革靴。それにボルサリーノを粋に決める。これが岡田礼央のお決まりのスタイルだった。
まるで古臭いハードボイルドの様な出で立ちは、彼の好きなドラマによるところが大きい。
岡田の探偵事務所は府中市の奥にある。そこそこの偏差値の大学と墓地のある静かな場所のその一角、古いアパートの一室を事務所として間借りさせてもらっている。
はす向かいにアメリカンスクール、右脇に墓地、左隣には高級住宅という、少し体のむきを変えればそれぞれに異界が広がる奇妙な場所であった。
助手はなんだか縁起が悪いと反対したが、岡田が大家の人柄と家賃の安さに惚れて独断でこの場所に事務所をかまえた。
岡田は玄関のドアノブに手を掛けた。
振り返ってガス、水道、コンセントを指差しで確認する。
格好に似合わないことをすると、助手には笑われるが、子供の時分からの彼の癖だった。
「それじゃ、いってきます」
岡田は壁の黒いスーツの男に会釈してからドアを開けた。