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或るあるシリーズ

或るクリスマスの一生

作者: 林 秀明

杯を酌み交わしたサンタクロース達が笑い合っている。それを無表情で見つめる僕。


「サンタなんて……」

そう悲願でもサンタクロースは振り向かない。人形の彼らは長年そこに居座っているように感じる。ショーウィンドウのガラス越しで僕はため息をつく。白い息がガラスにかかり、雪が溶け行くように徐々に小さくなっていく。貧乏な僕は一度もプレゼントをもらった事がない。あちら側にあってこちら側にないもの、それは生きていくための「夢」だ。


耳を澄ませると街中ではクリスマスソングが流れている。ジョン・レノンの「Happy Xmas」。

戦争の終わりと新年の希望を歌ったこの曲を僕は丹念に心の中で歌い上げる。

戦争で死んでいった者の辛さ、それを乗り越えて生きていく者の辛さの果てに幸せはあるのだろうか。子供たちの「War is over」という言葉が頭の中を通して心に響き渡る。あと何年早く生まれていれば同じ境遇に立ったのだろう。歌が終わると共に子供達の生も終わるような気がした。


ふと見上げるとサンタクロース達が泣いていた。泣いているというよりも悲しみ合っていた。生きたくて生きれない者の生を労っているのだろうか。

「こっちへおいで……」

サンタクロースはそっと手を差し出した。大きくて温かみのある手。小さく冷たい僕の手を取ると、引き寄せるようへショーウィンドウの中へと引き込んだ。


目を開けるとそこはサンタの町、世界中の人々へ笑顔とプレゼントを届ける町だった」。絵本の中で見たようなトナカイ達が忙しそうにプレゼントを届けに走り回っていた。

「君のような痛みを知った人間こそがサンタクロースになれるんだよ。みな貧困や死別を味わい、生きていく辛さを知った人間だからこそ、みんなに笑顔を届けたいんだ」

サンタの長は笑顔でゆっくりとサンタの歴史を話してくれた。僕は暖炉の前で聞いていたが、いつしか眠ってしまった。


「智弘、起きる時間よ」

母さんという名の目覚まし時計が僕を呼び醒ました。ゆっくりと目を開け、おぼろげに隣に置いてある大きな靴下を覗いたが、プレゼントはなかった。

智彦は涙を流した。その涙は決して悲しい涙ではない。自分は大きな髭や赤い服、大きな袋はないけれど、人々を笑顔にする事をしていきたいと心に思った。


その心を持った事こそがサンタクロースが僕にくれたプレゼントなのかもしれない


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