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王の下克上  作者: 生生
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第一話 ①

 王の下克上




   第一章 正しい身体の使い方






 天さんの少し後ろで腹の立つ声がした。蛭女とあのチャラい奴だ。


 と言うかなんだ。蛭女たちコートに入ってきてたのか。


 全然気がつかなかった。


 そんなに集中してたのだろうか。

「俺は才能ない人間の努力が嫌いだ。好きなものに夢中になってする努力はまだいい。最悪なのは、歯を食いしばってまでする無能の努力だ。悪だとさえ思っている。


だってそうだろ? そういった人間が努力して、追い抜いて、上に行ったってことは、つまりソイツより才能のある誰かを蹴落としたってことになる。……それはなんて愚かな行為だろうか。


 例えば勉強。


 一生懸命勉強する奴ってのは大抵が何か夢があるわけじゃなくて、何となく良いところに就職して、安定した生活を送りたいからだ。そんな事の為に努力して、才能ある人間を無能が蹴落とすのだ。


 きっとそういう無能な努力家は考えた事が無いのだろう。何故、難しい仕事には高い待遇が支払われているのかを。なに? 頑張った御褒美、だと? ったくお前は何も分かっていないな。そんなんに限りある財を分け与えてやれる程、世の中甘くないぞ。正確には難しくて多くの人間を導く仕事には才能のある人間にやって欲しいからなんだ。


 ところが才能ある人間はあまりに簡単に無能の振りが出来てしまう。そこで高待遇だ。もし待遇が同じなら、才能ある人間は無能の振りをして簡単な仕事ばかりを選んでしまう。だから高待遇で釣るのだ。高待遇で釣って、難しい仕事に励んでもらい、凡人達を導かせる必要がある。


 しかし現実はどうだ!? 現実は無能な努力家達が、お呼びでないのに重要な位置に就いている。結果、まず最初の被害を多くの関係者が受ける。そして負担は積りに積って、結果組織が壊滅する。つまり無能な努力家も損害を被っているのだ。


 ついでにこういった手合いは、上に就くと先ず自らの利益確保、不当な搾取にやっきになる。それは「こんなに頑張ったボクちゃんは、報われないとイヤなんだモン!」という精神構造から来ている。結果、組織が壊滅する。


 野生動物ですら生態系を考えて、腹八分目で狩りを止めるというのに、奴ら無能な努力家はそれ以下だ!


 ……とまあ、ここまで話したが、何故俺が、こんなバカ高校に進学したか、ということでいえばこれが理由ではない。いくら努力しなくったってもうちょっと上のランクの学校には受かるさ。だから本当の理由はもちろん……」


「もうやめてよ!! クズすぎるよ!」


「はあ?」


「入学式の朝の会話じゃないよ! コレ!」


 俺が一生懸命自論を展開している最中に、突然割り込み嘆いてきたこの少女は、今日から同じ高校に通う幼馴染の大鞭 蛭女だ。蛭女が、涙を滲ませ怒っている。我慢の限界らしい。


「せっかく王ちゃんと一緒の高校に行けることになって、楽しみにしてたのに、何? その話題!? 全然楽しくないよ!」


 そう言われても小中学からずっと一緒だ。今更そんな新鮮さを求められても。

 それに、他愛のない話でイチャイチャする勇気もない。

 しかし、コイツ今俺のことをクズと言ったな。

 ああ、確かにクズだろう。自分が怠けるだけならいざ知らず、他人にまでその怠惰を強要しようとしているのだからな。だが残念なことにこれは本心だ。

 もちろん本心であろうとも、こんなクズな意見で声を大きくするつもりはない。そう、俺は自覚のあるクズだ。

 しかし誰か一人でもいいから、賛同してはくれないだろうか。

 わずかな共感が俺を救う。

 同じクズな考えを持つ人間がいる、という事実だけで世界が色鮮やかになる。

 いや、そりゃ本当は全人類に共感して欲しいが。

 もっと言うと全人類が俺なら世界は平和になると思っている。

 やめよう。このままでは深いクズの海に溺れてしまう。


 正気に戻った俺は席から立ち上がっている蛭女を物理的に押さえた。

 目線を同じにして再び語りかける。


「泣くなよ。俺はお前を活気づける為に言ってるんだぜ? 今日から通うこの学校には、さっき言ったような無能な努力家なんか一人もいない。それなりに生きようとする人間ばかりだ。みろよ、この電車にいる同じ制服を着た人間を。皆、目が死んでるだろ? きっといい歯車ばかりだ」


「王ちゃああん……。王ちゃぁぁん……」


 それでも蛭女は何かを諦めるように泣いている。こんな話をした理由は蛭女の為なのに。

 理由といえば、さっきは蛭女に遮られたが、この学校に通う本当の理由がある。



 ……テニス部がないからだ。



        *



 学校に着いて、まだまだアウェー感あふれる我が校舎をまわって、やっとこらついた体育館で二十分ぐらい何もせずただ待つという無駄な時間の後、入学式が始まった。

 起立と着席を繰り返され、様々な立場の人間の挨拶を聞き、教員と上級生の掛け合いに軽く盛り上がる・・・・・・という、どこにでもある入学席であった。

 途中で新入生代表の挨拶があった。

 こういうのは試験で一番の生徒が代表になるらしい。


 そこでさっきの電車での大口を思い出し、アレだけ言っていながら代表生徒でない自分が恥ずかしくなった。

 だから入学式後半の記憶は殆んどない。


 どうやらその後も教室でなんらかの説明や挨拶があったらしく、意識が戻ったのは解散の合図があった後だった。

 意識が戻りすぐさま状況を察した俺が、身に覚えのない配布物を学生鞄に詰め込んでいる時、やや斜め後ろから聞き覚えのある声がした。


「王ちゃん! 部活見に行こ!」


 蛭女である。覗き込むようにして笑顔を見せつけてきた。


「部活~? 遠慮しとく。帰宅部になるわ。一緒に帰ろう」

「あれ? 王ちゃん話聞いてなかったの? ここ部活強制だよ?」

「え! そうなのか」


 部活が人間育成に大きく関わっていると考える性質の教員がいるのか。ありえなくない話だ。


「うん! だからいくよ! 来週までに決めないと! ホラホラ!」


 俺の襟首を掴んでグイグイと持ち上げる。身も心も疲れ切っていたが、周囲の視線が気になるので大人しく教室を後にした。


「あれ? てか一緒の部活に入るのか?」


 廊下を少し歩いたところで聞いてみる。


「え? 一緒がいい? 見学は見学だから誘ったんだけど。どうせ全体を見るつもりだし。ああ、でも王ちゃんと出来れば一緒の部活がいいな~」


「ま、なんでも良いけどよ、だったら文化部にしてくれよ」


 かったるそうに俺は返事をした。


「……やっぱり運動部はダメ?」


 神妙そうに、俺の顔を見ずに蛭女は言う。やめてくれ。そういう雰囲気でお前とは話したくない。


「ダメだな」


 話したくないのなら、無視をすればいいのに出来ないのが俺の性分だ。


「俺はテニス以外のスポーツを、今更する気にはなれない」


 なんだろうか。口が止まらない。責めるように言葉が出てくる。


「それとも、こんな右腕でテニスをやれってのか!? まあ、テニス部ないけどな!」


 俺は中学時代、テニス部に所属し全国大会で優勝した。だから俺にとってテニスは思い入れのあるスポーツだ。


 だが、その優勝した大会の決勝で、元々無理をしていた右腕が限界を迎えてしまった。


 熱くなりすぎた。柄にもなく、身分不相応に熱くなりすぎた結果である。


 俺は全ての未練を断ち切る為、こうしてテニス部の無い学校を探したのだ。


 どうせ蛭女は、そんな俺が哀れなのだろう。それを見るのが辛いことなのだろう。だから、こうして頑張っているのだ。今も、きっと悲しい顔をしてくれているのだろう。


 だが、そんな蛭女の背中を見ることも、俺にとっては辛いことの一つだ。


 モヤモヤが止まらない。溜まっていく一方だ。



   *



「……なんだよ、コレ」


 部活見学を無作為にふらついて三十分が過ぎた現在。


 目の前に広がる懐かしいあの光景。

 柵とネットの向こうに広がるのは、再帰的な長方形の並ぶ、あの親しみがあるテニスコートだ。


「いやいや、……体育で使うんだよな?」


 そんなハズはない、テニス部などあるハズがない、と焦る俺。チラリと、蛭女へ顔を向ける。


「おい……、そんな……、お前、まさか……」


 蛭女が、震えている! 目を三日月に歪ませ、口を開けないよう、顔を真っ赤にして食いしばっている。


「おーい、そこの君、テニス部を見学かーい?」


 柵の向こう側にいるチャラチャラした先輩らしき人間がこちらに手を振って呼び掛けている。テニス部というワードを使って。


 そして、とうとう、蛭女は吹き出した。


「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! 王ちゃん! テニス部あるみたいだよ!」


 そんなバカな! ここ、私立黒蹄学園にはテニス部はない!

 カタログで確認した!


 私立黒蹄学園は、会社を幾つも抱える金持ちの理事長が道楽目的で五年前に建てた、まだまだ新設の学校である。

 採算度外視の、金に物を言わせて作られたこの学園は、来るものを拒まず、されど定員割れは起こすという少しアレな学校だ。入学するのも行き場をなくした者ばかり。その証拠に行き交う生徒の殆んどが目が死んでいる。


 何の気力もない生徒で埋め尽くされた学校に、新たな部活が生まれることはなく、最初から存在した十数個程度の部活に全ての生徒は在籍する……、という認識だった。ところが何だコレは。


「うーん、愛好会があるのは知ってたけど、部活になったんだね!」

「何!? 知ってたのか!?」


 横の蛭女が落ち着いたと思ったら、驚愕の事実を口にしていた。

 愛好会があることを知っていれば、もっと別の学校を探したものを……。


「てかさー思い出してみてよ。この学校に誘ったのは、誰?」


 ああ、そうだ。蛭女だ。蛭女が、この学校ってテニス部ないんだーという独り言に食いついたのだ。当時俺は、テニス部の無い学校なんて無いかもしくは相当寂れた学校だけだと思い込んでいたのだ。だからそもそも、テニス部の無い学校を調べようとせず、学校探しは近場の偏差値近いところと決めていたのだ。だから蛭女のメカラウロコな独り言にごっそりと心が釣られてしまったのだ。醜く、浅ましくハフハフ言いながら釣られてしまったのだ。


「オラ! 愛好会……、じゃなくて部活だけど愛好会上がりの部活ならポンコツになった王ちゃんでも受け入れてくれるよ! いっといで!」


「いや、もうラケット持つのも……」


「左手あるでしょ!」


 蛭女がコートへの開きづらい扉を力任せに開けて、俺を突き飛ばした。

 これが狙いか。恐らく多分、あの独り言は独り言ではない。この俺をここに連れてくるために、俺に向けた一言なのだ。


 そうまで現役復帰がして欲しいのか。随分とお節介な幼馴染だ。それとも、そんなに俺に幻想を抱いているのか。


「クソッタレェェェ!」


 汚い言葉を吐いて神聖なコートへと入った。


 あの日以来、約七ヶ月一度だって踏み入ろうとしなかった俺の最も輝けるステージへと。



   *



「ども……」


 別に今後関係性を持つかは知らない相手にも取りあえず敬語を使う。

 コート上にいる三人の部員の中には当然先輩にあたる人間もいるのだろう。

 幸い、まだ練習が始まった様子はなく、失礼はないと思う。

 しかし三人か。まあ新設校の今年増設された部活ならこんなものだろう。


「お! 新入部員? ラッキーじゃん! 団体戦出れるんじゃね?」


 ネットにもたれかかりながらその内の一人が反応してきた。

 恐らく先ほど柵の中からチャラチャラと気さくに声を掛けてきた人だろう。

 見た目も期待通りにチャラチャラしている。

 自分のセンスがチャラチャラしているから、チャラチャラしているスポーツであるテニスをしても良いだろう、という勝手な認識を持ってテニスを始めたと予想できる。

 しかも、こう言った手合いに限って運動神経はいい。だが、ネットにもたれるな。


 しかし、そうか。今の人数では団体戦が無理なのか。


「うむ。見学か? 俺は三年で部長の黒蹄天だ。よろしく。単純に、テニス歴とかはあるのか? いやもちろん、未経験でも大歓迎だ。体のバランスもすごくいいし、特に君はうまくなるぞ」


 団体戦でられるんじゃね? とチャラチャラした部員に聞かれていた、いかにも清楚で美しい人間がこちらに聞いてきた。硬い笑顔が印象的だ。

 この天さんが三年生で、チャラい奴が天さんにタメ口ということは、チャラい奴も三年ということになるのだろう。


「あ、よろしくです。えーとですね……」


 さて、テニス歴か。困ったものだ。話せば長くなる。それにどんな説明をしても、持ち上げて落とす形になる。

 全国行ったけど、もう右腕は使えません。なんて言ってもガッカリするに違いない。


「有力な選手が来た!」から、「練習相手にもならないゴミが舞い降りた」になるのである。この空気は耐えられないだろう。


 そこからさらに「右腕使えないのに何故来た?」という疑問にもつながるハズだ。

 そうなった場合、俺は「入るつもりないです」という冷やかしの事実を伝えることになる。

 ここで「団体戦に出られるかも!」が「やっぱり無理だ」になる。どんどん落としていくことになる。


 さらにはここに来た理由にも答える事になるがこれもやっかいだ。「幼馴染に突き出されました」が答えになる。

 それはつまり、傍から見たら、浮かれた新入生の幼馴染コンビが、身内の慣れ合いという腹立たしく寒いノリで茶化しに来ただけである。傍から見たら。

 殺されても文句は言えない。

 そう考えて、答えあぐねている間に救いの声が飛んできた。


「俺コイツ気にいらねー!」


 敵意はむき出しであるが。


「なんだ次二郎。失礼だろ!」


 天さんが、冷静に少し焦った様子でなだめる。

 俺をさっきから品定めするように見ていた男だ。。

 中学までの厳しい校則から解放されたことを喜ぶように、全方位に逆立てられた髪の毛がそのツンとした性格まで表しているようだ。早く打ちたいのだろう。ボールを地面に弾ませている。


 どうやら俺に文句があるらしい。

 絶対に蛭女の所為だ。蛭女の所為で喧嘩売られた。蛭女め、許さん。


「兄貴はわかねーんすか。コイツの目、俺らのことバカにしてますよ。アレ? 違うな。テニスのことバカにしてるのか? いや、スポーツそのもの……いや、違う。なんだコイツ! 嘘だろ? コイツの目……、人間そのものをバカにしてやがる!」


 蛭女の所為ではなかった。そうか。俺の考えが表情に出てしまっていたか。

 なんだかツンケンしているな。ここは場を和ませなければ。


「アレ? 「兄貴」、ということはお二人は御兄弟とかですか?」


 家族の話題! 俺は家族の話題を持ってして団欒の空気をテニスコートに持ち込ませようとした。

 兄貴分的な意味で言っている場合もあるが、それはそれで喜ぶだろ、そういう人種は。

 そんな中、高貴な天さんが誇らしそうに、


「ああ、そうだよ」


 と割と早く返事をしてくれた。だが、次二郎と呼ばれた弟の方は、下を向いて下唇を噛んでいる。なんだかバツが悪そうなのだ。

 しかし、アレか。現在テニス部は三分の二が黒蹄兄弟ということになるのか。なんか地味にチャラい人の居場所がなさそうである。

「ん?」


 俺は今、なんと考えた? 黒蹄兄弟? 今日から通うこの学園は、黒蹄学園。


「アレ!? お二人は黒蹄学園と何らかの関係があるんですか!?」

 次二郎の眉毛がピクリと歪む。

 そんな次二郎には目もくれず、天さんが再び答えた。


「ああ、俺達はここの理事長の孫だよ」


 学園カーストの最上位ではないか。俺は今からこの人達をガッカリのスパイラルに巻き込むことになるのか。

 そもそも黒蹄家といえば、日本を代表する企業連合である黒蹄グループのトップである。その気になれば俺などポンと消せるかもしれない。


「ちなみにこの部活も、俺の『理事長の孫』権限を使って愛好会から部への流れはスムーズに行うことができた。まあ連盟が関わっている大会参加についてはようやく今年から可能になったのだがな」


 どうやら平気で権力を使う人のようだ。舐める靴はどこだ。


「まあ連盟相手にも黒蹄の権力をもってすれば大会参加どころか優勝まで可能なんだが」


 それはしないらしい。意外と誠実。

 しかし、今俺に怒りを向けながら、バツが悪そうにしている次二郎もまた、権力者ということである。マズイ状況かもしれない。


「ん……? 次二郎?」


 そんなことを思いながらも、唐突に俺は言葉を発していた。


「え……、ぷぷ、つ、次二郎……? ぷすくす……。名家の、息子が……、長男は天で、ヒヒヒ、その次男はつつ、つつつ次二郎……!」


 いや、俺から漏れているのは声だけでない。空気もだ。そう、俺は必死で笑いをこらえている。


「コイツぜっっっってえええ後継ぎとして認められてねええええじゃああああああん! 生まれた時から!」


 気がついたら、俺は次二郎を指差してこう叫んでいたいた。


 対して次二郎は、


「勝負だ!」


 と叫ぶ。うっすらと泣いて。


「いや、僕、右手を怪我していて……」

「うるせえ! 言うだけ言っといて逃げんじゃねええ! 誤魔化すんじゃねえ!」


 怒る次二郎。

 ああ。これもう、何言っても嘘って思われるな。

 俺は覚悟した。



   *



「あのな、次二郎。今日は入学式だし、仮入部ですらない、見学なんだ。他の生徒も見学に来るだろう。

そんな中、一年生が野良試合してたらどう思う? ここの学生は特に衝突や刺激を避ける傾向にあるんだぞ?」


 そう言いながら、天さんはボールを二つ俺に渡してきた。そう思うと今度は次二郎へ振り返ってこの一言。


「だから、1ゲームだけだぞ」

「十分よ!」


 兄弟二人だけでこの野良試合に関する交渉は終わった。

 結局、天さんも俺のお手並みを拝見したいのだろう。こんなことならもう少し筋肉は落とすべきだったか。


「あの、制服のままでいいんですか? シューズも履いてないですよ」

「ああ、気にしないよ。ラケットは私のを貸そう」


 ……さてどうするか。

 蛭女は素人の無責任な発想で俺に左手を使うようアドバイスした。しかも俺を放り出した後は沈黙を守っている。

 恨めしそうに、そして少しだけ救済を期待して蛭女へと視線を向けた。そこにはあのチャラい先輩とそこそこのテンポで話している。

 楽しそうだ。なんだこの気持ち。腹が立つ。まさか蛭女に嫉妬するとは。

 ちなみにここでの嫉妬心は、意中の相手が他の男と楽しそうにしていることから来る、いわゆるヤキモチ的な嫉妬心ではない。


 どちらかと言うと、

「おい! 俺がこんな大変な目に合ってんのに、よくもぬけぬけと楽しそうにしてられんなあ!」

 という感情から来る嫉妬心だ。


 つまりこれは、「俺が浮気を我慢してんのに、お前だけ浮気しやがって、ズルイぞ!」という嫉妬だ。

 俺の予想では世の中の束縛過剰な男は全てこれに当てはまる。

 本人は自覚していない。無意識だ。


 人の行動の多くは無意識によって動かされている。


「ご、ごめん! 頑張って! 王ちゃん!」

「そうだよ! 頑張って! 王ちゃん!」


 俺の叫びにビクつきながら蛭女が応えた。

 その次にあのチャラい奴が、蛭女を真似て何か言っている。

 うっぜええ! もうこれあれだ。あの二人で完全に俺をおちょくっている。俺をネタに盛り上がっている。


「あのさー、もういいから、始めようぜ? 王ちゃん」


 次二郎が肩にラケットをトントンと当てて気だるそうに言った。

 時間稼ぎも限界らしい。


 その様子を見た天さんが今日一番の声を張り上げる。


「1ゲームマッチ――」


 いよいよ試合開始か。


 といっても1ゲームだ。1ゲームということはたった四ポイントを先取すれば勝ちということである。

 短くて、かつ実力を計るには丁度良い長さと言えるかもしれない。

 さらに1ゲームということはずっと俺がサーブを打てるということになる。これはゲストたる俺へのハンデと言えるだろう。


 だが、サーブ権を貰って嬉しいのは、サーブの上手い実力のある選手だけである。残念ながら、今の俺にそんなサーブは打てない

 もうコレは負けてもいいだろう。ひどいぐらいに負けて、三年間肩身の狭い思いをすればいい。それだけで済む話なのだ。


「――プレイ!」


 試合が始まってしまった。


 俺は次二郎の立ち位置を確認し、限りなくコートの中央にポジションを合わせ、制服の擦れる音を気にすることなく、右手に乗せたボールを高くトスした。


 ルールの話。テニスのサーブというのは打つ場所が決まっている。

 ポイント毎に変更されるポジションから相手コートの対角線側、それも前半分。

 名前としては『サービスコート』というが、その狭い部分に入れる、バウンドさせることによって初めてサーブと判定される。

 なお、サーブが入り、ラリーが始まれば、バックコートを含めたコート全体を使って打ち合うことが出来る。走れ走れ。


 ちなみにワンプレー目の現在は『クロス』という位置関係。サーバーとレシーバーのお互いが、自分のコートの右側に立っている。今後はお互いが自分のコートの左側に立つ『逆クロス』と『クロス』を交互に繰り返す。


 戦略の話。打つ場所が決まっているということは、つまり相手にコースが読まれ易い。だからその範囲内で限界ギリギリの鋭いコースを狙い、かつ捉えきれない速度を出さなければ良いサーブとは言えない。だからこそプロでも外すことがあるのだ。


 はたして左手の俺にそんなことができるのだろうか。


 そんな事を考えながら、ボールを目で追う。ふわりと俺の上へ放たれたボールが今度は徐々に俺の手へと戻ってこようとしている。良いトスだ。それを、俺のベストな高さで打つ!


「! マジかよ……」


 最初に風を切る音が聞こえた。

 その次に次二郎が驚きの声を上げた。無理もない。

 俺は空ぶったのだ。自分であげたトスを。


 しらけた空気が気持ちいい。対峙する次二郎以外は誰も何も言わない。


 俺も顔色一つ変えずに構えを変える。下から打つタイプのサーブに切り替えるのだ。

 サーブは一回だけなら失敗してもフォルトと言って失点にはならない。

 フォルトを二回やった時にダブルフォルトとして失点になる。


 つまり次失敗すると失点だ。危ない。


 本当の事を言えば確かに顔色は変えていないが、頭は混乱している。

 自分の運動神経、特に体幹の安定性には自信がある。

 いくら左手に慣れていないとしても、空ぶることがあるのだろうか。いや、この自信は勘違いだったのか。

 俺は体幹が弱いのだろうか。

 そもそも俺は本当にテニスをやっていたのか。この優勝は妄想?


 混乱が混乱を呼び何も見えてこない。

 これが利き腕と反対の腕を使うということの現実だ。


 サーブを下から打つ。当然、さっき言ったみたいな威力も鋭さもない、入れる為のサーブだ。

 熟練の者であればたとえ下からのサーブであっても、回転を掛け弾み辛いボールにすることもできる。ボールは上から下へ叩きつけるようにした方が威力がでる。だから弾みの少ない打球にするのだ。しかし、今の俺にはそんな芸当もできない。


 ただただ正直な、いや生気の抜けた死んだサーブを打った。


「なっ!?」


 次二郎は俺のクソサーブに度肝抜かれた顔をして、汗水たらして猛ダッシュする。


 ダッシュの勢いをそのまま、ブレのないフォームで叩きつけた。

 そりゃそうだ。なんの回転もかかっていない、正直なバウンドをするボールが、殺してくれと言わんばかりに飛んできたのだ。

 消し炭になったかのように俺の視界から打球が消えたかと思うと、一度弾んで俺の顔スレスレを突き上げるように通り過ぎていった。

 怖いな。怒りがこみ上げてくる。にも関わらず、


「やい! なんだその球は!」


 即座に吼えたのは次二郎だ。ポイントを取ったというのに怒っている。


「てめえ! まさか本当はただのザコなのか!? いや、ド素人なのか!? なのにそんな態度でいられたのか!?」


 別にテニス上手いやつが偉いわけではあるまい。それに俺はただのザコではない。まして素人でもない。俺は元最強なのだ。この態度も至極当然。お前たちが何もかも悪い。

 俺はボールを拾い、次のサーブのポジションへと移動する。ゆっくりと。


 さて、舐めてはいたものの、中々威力のあるレシーブを次二郎は打つようだ。

 しかし、あんなのでは実力を量れない。

 クリボーを倒す挙動だけでその人がゲームの達人かどうかを判断せよと言うようなものだ。


 いや、バウンドした球は俺の顔にめがけて飛んできたな。あれが狙ったものなら結構なコントロールだ。

 ノーバウンドではなくバウンド後で狙えるのだから、コントロール以上に、自分の打球の挙動までも十分に理解していることになる。


「ってアレ?」


 なんか懐かしいなこの感覚。相手について一生懸命考えるなんて。

 しかもこんなゆっくり歩いて、考えを纏める時間を作っている。

 俺はテニスを、この状況を楽しみつつあるのか。

 誰にでも持っているであろう、自分を見つめるもう一人の自分の様なものがそう分析している。


 今の俺はこの状況を楽しみつつあると。そして試合の感覚を思い出しつつあり、着実に冷静になりつつあると。

 もう一人の自分がそうささやいている。


 そしてここでの冷静とは冷めた感情による冷静さではない。集中による、研ぎ澄まされた冷静さだ。


 俺は相手を見る。

 一方の次二郎は、さっさとこんな野良試合を消化したいらしく、まだかまだかと俺の事を待ち構えている。

 きっと強いレシーブが来るでろうことが予想できる。もちろん、あまり意味のない予想だ。関係がない。

 俺を倒そうとする人間のいい気迫を感じた。ただそれだけのことだ。

 だけど俺はニヤニヤと笑みを浮かべながら、サーブを打った。

 ただ残念ながら技術的には何の進歩もしていない。

 殺してくれ、と叫んだような俺のクソサーブが次二郎の下へと風に乗って運ばれる。


 来るぞ来るぞ来るぞ!

 全てを終わらせるように、次二郎がレシーブを打つ。さっきよりもずっと俺より遠くに打つ。

 もはや俺に対する怒りもない。ただ倒すことを目的としている。

 だから俺を挑発するようにわざわざ俺の直撃を狙う必要もない。


 より確実に点を取る為に俺から離れた所へ打った。


 それでも、俺には……見えた!

 目で捉えた!

 頭がそう理解するころには、とっくに俺は体が傾いている。

 俺は跳ねるようなスタートを繰り出し、ギリギリのところで追いついた!

 体を極限まで伸ばしてボールにラケットの面を当てる!


「いっけええええ!」


 叫んで、次二郎の位置を確認、すぐさまコート上のスキを探し、そこ目掛けて、……振り抜く!

 ガスん!

 という、快音とはほど遠い音がなった。打つ最中も不快だったが、振り抜いた後も脳にまとわり付いている。


 そしてボールは明後日の方向へと飛んでいった。コートの柵を超えどこかへ消えた。

 もう見つかる事はないだろう。運がよければ掃除中の男子に見つかり竹箒をバットに見立てたミニ野球のボールとして重宝されるかもしれない。


 アウトだ。再び、失点だ。


「……そんないきなり上手くいくわけないわな」


 叫んだことが恥ずかしいのとボールをなくしたのが申し訳ないのが重なって心情を吐露した。誤魔化す為に。


 いや、これも嘘だ。本当はくやしいのだ。

 やはり中学の時のような打球は打てない。

 回転が掛けられない。

 回転が掛けられないから、ドライブという、落ちる球が打てない。距離の制御が出来ない。絶望的だ。


 そんな俺の、沈んだ気を晴らす一言が次二郎の口から洩れた。

 いや、正確にはただの気晴らしというようなチンケな一言ではない。


 俺の今後を、行く末を大きく変える重要な一言だ。



「バカな……。追いついた、だと……?」



 ――!!


 この言葉を受け俺の脳は何かに殴られたかのように衝撃が走った。


 なぜ俺はこの一言に衝撃を受けたのか。整理しよう。


 そう、俺は追いついたのだ。試合の感覚を思い出して。

 それに対して次二郎は『バカな』という感想を抱いている。

 つまり想定外の、経験上ではあり得ない事態が起きているということだ。


 追いつくはずがない。

 次二郎の頭にはそれしかなかった。

 何故なら次二郎は俺が素人だと思い込んでいるからだ。


 素人に追いつけるハズがない。

 もちろん俺はある程度は足が速い。

 だが、俺レベルの俊足も結構いる。当然素人にも。


 それでも素人は追いつけない。

 なぜなら、追いつく追いつかないは運動神経の問題ではないからだ。


 俺はどうして追いついた?

 それは当然、慣れだ。慣れが俺を追いつかせたのだ。


 ボールの軌道と速度の推測。それが出来たのは慣れがあるからだ。

 慣れとは何だ?

 感覚のマヒか?


 そんなんで追いつけるわけがない。

 洗練された分析・学習能力が必要とされるものだ。

 つまり経験! そしてその汎用化!


 そうだ。俺にはコレがある!


 再びサーブのポジションへと俺は着く。


 現在、点数は0―30。つまり0対2。サーブ側から数えるので俺が0。コチラはあと4回得点をしなければならず、向こうはあと2回の得点で勝利となる。

 だが、そんな状況にも関わらず、次二郎の腑に落ちない表情が見える。

 当然だろう。気に食わないだろう。


 俺は生気のないサーブを打った。

 腑に落ちない表情をしつつも、やはり生気のない球というのは絶好球であり、次二郎は再度強烈なインパクトそのサーブに与えようとしている。


 来た。


 俺は最強の右腕を失った。


 俺は心のどこかで、というか全部で、それを言い訳にしてきた。

 でも違う。

 失ったのは右腕だけ。


 全国優勝した、強いこの足も、スイングを支えるこの腰も、迫力あるこの背中も、球を見極めるこの目も、そして何物にも代えられないこの魂も、何一つ失ってはいない。


 勝つための資本は、十分ある!

 次二郎はワンプレー目に俺が反応できると知ると、次のプレーでは打つ場所を変えて、走らせにきた。

 こいつだって考えているのだ。

 あの時のライバルも考えていたのだ。

 俺だって、最強の技術があっても、考えていたのだ。


 考えろ! 考えろ考えろ!


 次二郎の左足の向き、ラケットの角度、重心、振り抜きの速度。

 読める!

 来た球のバウンドの高さも、その回転と威力で、読める!


 あまりのインパクトに押しつぶされたレシーブが攻撃的に迫ってきた。

 俺は自らのテリトリーにその軌道を入れる。

 自分の体の少し前でラケットの面を当てる。


 思い出せ。

 速球を打つ必要はない。

 俺は今までどんな相手と闘ってきた?

 多くが俺よりも遅い球しか打てない奴らばかりだった。

 その全てが楽な試合と言えただろうか?

 そんなことはない。

 彼らはどうやって、この格上たる最強の俺と闘ってきた?


 思い出せ。

 アイツは、次二郎は今この空間の最速にいる。

 かつての俺と同じだ。

 俺はどんな相手に苦労をしてきた?


 見えてきた。


 自分の出来ることと、すべきことが。


 俺はぐっと体勢を低くした。自分の体重を後ろに乗せる。

 コートをのたうつボールの勢いを上に逃がすようにスイングをする。

 ラケットの面は出来るだけタテにして。後は勝手にドライブがかかってくれる。

 ロブだ。

 俺は山なりの軌道をゆっくりと描くロビングストロークを打った。

 壊れた右腕を一切使わず、残った体、特に不慣れな左手であってもなんとかロブならば打てる。

 高い球は次二郎の背を越えた。それも真後ろではない。次二郎は今レシーブを打つためにコート左手前にいる。だから右の奥に打った。


「なにィ!?」


 球は確かに、誰の目から見てもゆっくりと飛んだ。

 でも、そのゆっくりとは、あくまで打球の速度としてはゆっくりな部類、というだけであり、実際は人間の走る速さよりずっと速い。


 だから次二郎は遠くで跳ねた俺のロブに追いつけない。


「くっそおおおお!!」


『15―30……!』


 天さんの声でより実感する。

 得点した。俺は得点したのだ。

 クソみたいな得点だ。

 あっさりとこんなしょぼい球で、相手がグダグダしたおかげで得た点。

 ワンプレーが始まれば、確実にどちらかが得点するテニスという競技では、命懸けの超必殺技で劇的な点を得ることもあれば、こんなクソみたいな点もある。そしてどちらも数字の上では同じ価値だ。


 なにはともあれスリープレ―目にして初得点だ。

 15―30。つまり1対2。なんでこんな数え方なのかは知らないが要するに1対2。

 たぶんネットで検索すれば出てくるし、テニスを始めた頃から気になっていたが、面倒くさくて一度も検索していない。そんなこんなでいつの間にか優勝して、しかもテニスを辞めていた。


 あと3回得点すれば勝ちだ。


 俺は次二郎の様子を窺う。


「……まっマグレだ!」


 髪を逆立て、血管を浮かせ、次二郎は唸る。

 こいつに黒蹄の今後は任せられないな、と思いながら俺は次のサーブを打つために逆クロスの位置に立つ。


 互いが自分のコートの左側に立つことで対角線上に並ぶ逆クロスの位置。

 ならば必然的に最も警戒すべきは次二郎によるストレートコースのレシーブだ。



 ストレートコースというのは長細いコート全体に対して平行に打つコースであり、ネットには垂直、つまり真っすぐ前に打つという事である。


 そうなった場合、次二郎にとって最短距離でコートの奥に打ちこめることが出来る。

 さらに俺にとってコートの右淵にボールが来る事になり、遠い位置で、しかも左手でラケットを持つ俺にとってかなり厳しい。


 何故なら、よほどの事が無い限り、『バック』というフォームで打つ事になる。

 さすがに体の後方に飛ばすようなフォームになるバックハンドストロークを左腕ではキレイに打つ自信がない。力が入れ辛い。


 もちろんこれらを警戒して、始めから右側へ走るという戦法もある。

 早めに走り出して、追いつき回りこんでフォアハンドストロークを打つという手だ。

 だが、そんなのはバレたら最後、反対に俺の今いる位置であるコート左側に打たれるだけ。


 俺は急な方向転換をするハメになるが、そうなればまず体勢は崩れるだろう。

 まとめると、一方的に俺の行動選択権が向こうにあるジャンケンである。本来俺のサーブがもっと威力があれば、こちらも有利なジャンケンになるのだが……。


「なんてな」


 俺は小さくつぶやいた。

 俺は不必要なまでにクヨクヨしすぎているのだ。

 俺は優しくされたくて、弱そうに振る舞ったり、悩んでみたりすることがある。無意味に。

 でも本当は次二郎がどこに打ってくるのかなんてわかっているのだ。


 俺はサーブを打つ。


「マグレだ! マグレだマグレだ!」


 次二郎は俺のしょぼいサーブを打つためにコートの前面に詰める。伸びあがるようにしてレシーブを放った。


 俺の方へ。


 そりゃそうだ。次二郎のあのプライドが許さない。

 そしてマグレの可能性が非常に高いあの状況。


 次二郎は、俺が速球をロブで返して得点したことは単なるマグレで、触ることすら難しいド素人だと考えている。

 マグレの可能性が高いものにビビって、自らの選択肢を狭めるほど愚かなことはない。


 だから、さっきの得点が確実にマグレであることを検証して、安心したいんだ。

 その検証をわざわざ行うことは、まあ、リード中なら決して完全に悪い選択と言えなくもない。

 後で監督に問い詰められたら一応言い訳はできる。


 短い点数で勝負の決まる試合においてはあんまり意味ないけど。


 要するにバカなのだ。しかしこんな相手もまた中学時代には沢山いた。

 でもな次二郎、


「マグレだマグレだマグレだ!」


 そんなにしゃべりながらでは、打てるもんも打てまいて。

 予想通り俺の左側にきたボールの威力はさっきより低い。

 理由はしゃべりながらということもあるがそれだけではない。

 逆クロスという互いが左側に立つ位置関係上、右利きの次二郎は、野球で言うところの流し打ちになるからだ。


 そして俺はマグレでないことの証明、ロブを再び打ちあげる。

 俺はお前の球なんて打ち返せるんだよ! という感じで。

 方向としては長細いコート全体に対して平行へ。


 張られたネットに対して垂直の方向だ。

 俺にとっては最短で最奥の方向。

 俺から見て、右手前に立つ次二郎にとっては、もっとも離れた位置。


 ストレートコースのロブだ。

 そして次二郎は追いつけない。

 はい、俺の点。


『30―30』


 並んだ。2対2。互いにあと2点連続で取ってしまえば勝利だ。

 互いが3点以上取ってしまうと、今度は2点以上引き離すまでそのゲームは続いてしまう。

 長期戦を避ける為には、ここでちゃっちゃと2点連続で獲得しておきたい。それは誰しも思うことだろう。


 次二郎が震えている。三白眼をより強いものにして。

 それも仕方がない。勢いが違う。


 先に2点を取られながらも、その中でわずかなチャンスを見つけ出し、ついに追いついた者と、圧倒的有利でいながらよくわからない内に追いつかれた者。

 同じ得点でありながら、その心境は全く違うと言っていい。


 これだから逆転は楽しい。


「だってよ……仕方ねえだろ……!」


 次二郎が何か言っている。


「だってよ……、あんなしょぼサーブしか打てねえんなら、前に、ネット際に行くしかねえだろ……。強力なレシーブを打つ立派なチャンスじゃねえか……。それなのにあんなキレイなロブを上げられたら届かねえだろ……! どう『攻略』すりゃあいいんだよ……! アニキ……!」


 天さんは何も答えない。

 天さんは立派だ。それに引き換え、なんだこのアホな弟は。黒蹄家から追放でいいだろ。

 いくつか間違えている。


 コートでは誰でも一人一人きりだ。たとえどんなに頼れる兄であっても頼ってはいけない。

 一人一人きり、とは対戦相手も含めてだ。相手は別の人間、として考えるよりも先ず、自分、正確には自分を映す鏡なのである。

 相手の事は自分を映す鏡として考えなければならない、ということはつまり『攻略』ではない。


 俺はあからさまに、3球目からのサーブはさらに弱く打った。

 せっかく自分が、コートの前まで、ネット際まで走ら『されている』、と気づいたのなら相応の戦い方があるというのに。


 にも関わらずこのザマだ。

 本当にダメな弟のようだ。

 まあ、自分としては相手が混乱してくれているのは都合がいい。

 気が変わらない内にとっととプレーを始めてしまおう。

 俺はサーブの構えに入る。次二郎は口を閉めずにポジションに着く。

 気合い入れろ。


 今度はクロスの位置について俺はサーブを打った。

 次二郎が構える。

 その構えを見て、ああ、本当に次二郎は混乱してるんだなあ、と俺は思った。

 次二郎は、体を丸めるようにし、小さくラケットを振りかぶっている。

 カットの構え。この場合はドロップを打とうとしているのだ。一目でわかった。

 ドロップというのは、相手のネット際にストン、と威力を殺した短い球を打つ技。

 強く打ってロブが返されるなら、弱い球を打とう、という発想なのだろう。


 そりゃね、キレイなドロップですよ。クオリティの高いドロップだよ。

 俺の打つような弱いサーブというのは、それを打つレシーブ側にとっては制御がし易い。

 だから、さっきまでのような強力なレシーブを打つ事も簡単だし、ドロップのような威力を殺した球も簡単に打てる。


 で、そのドロップがどうした?


 だいたいドロップってのは選手同士が強力なラリー、乱打になってる時に有効なんだよ。

 互いがコートの外側に立ってまで強力な球をぶつけあってる時に、ポン! とそんなクオリティのドロップがくれば、確かに誰も追いつけないよ。

 だって、弱いってことは、遅いけど短いってことだから。遅い割に滞空時間は同じぐらいだしね。

 きちんとした状況でやれば、人間の足で追いつくことは無理だよ。


 でも、今俺ベースラインにいるよ?

 クソ弱いサーブしか打たないから、ラケットは振り抜いてない分、もう次に対応できる構えに入ってるよ?

 お前がどんなレシーブ打つかじっくり見てるよ?


 はい、絶対に追いつける。

 しかも、ドロップの利点には走りながら、走った時の勢いが生きている状態ではドロップを繰り出す事が出来ない、というところにある。


 つまり通常、ドロップを打った側は、相手が走ってそれに追いついたとしても自分がドロップを打たれる心配はない。相手は走っているから、それなりの勢いが生まれてしまう。


 だから強力なラリー中においてこそ有効なのだ。追いつかれても、そのポジションの近くにまたボールがくる。次に繋がる。

 でもお前、今、前にいるよな?


 俺がドロップ打てない利点、ゼロだよな?

 しかも前に詰めるって言ってもサービスコートっていう中途半端な位置だよな?


 ボレーも出来ないよな?

 どうすんの?


 俺は次二郎の繰り出したドロップに追いつき打つ構えをする。

 次二郎の驚いた顔が一瞬視野に入った。バカが。


 どうせ俺が追いつけないとでも思ったんだろ。

 予想は容易だし、見てからでも十分追いつけるわ。

 俺はその、弱いドロップを小突いた。次二郎のいない右側へ。


 威力は要らない。

 次二郎は足を素早く動かし、それ以上の力で体を伸ばす……、が届かない。

 はい、俺の得点。40―30。


「だああああああああああああああ! でえあああああああ!」


 次二郎がどこにぶつけていいかわからない感情を爆発させている。

 自分にぶつけていいんだぞ。

 ……どうしよもねえな、コイツは。


「いいですか? 次二郎さん」


 気づいたら俺は口を開いていた。


「アンタの本当の敗因は一撃で決めようとしたところにある」


 次二郎は黙って聞く。

 黙って聞くが、その表情はみるみる力が入っていく。

 そりゃそうか。まだ負けてないのに敗因なんて言葉使っちゃダメか。


「次二郎さんは自分の敗因がどこにあるか、どう考えていた?

 まず俺の防御力が意外と高かったという事実が発覚した。

 それに対してアンタはどう考えた?

 意外と防御力の高い俺にボールが捉えられたのはまだまだ球の速さが足りないから、とか、まだまだコースが甘いから、とかか?

 そして、自分はこれ以上速くて鋭い球なんか打てない。

 つまり相手である俺の防御力を超える攻撃は出来ない、と考え始め絶望しかけていたな?

 特に俺の打つヘロヘロサーブは練習でも見たことないような『絶好球』、つまりチャンスボールだ。

 そのチャンスボールを全力で打ち返しても、俺を打ち崩せないという状況は、まあ確かに絶望的かもしれない。

 でもな、ホントの原因はそんなところにはない。

 球の威力が弱いから負けたんじゃない。チャンスボールとあらばすぐさま決めにかかるその、なんていうか『性格』が問題だ」


 性格て……。自分で言ってなんだが、他にいい表現方法はなかったものかね。

 あああ、次二郎がどんどんイライラしていく。ギリギリ音が鳴っている。


「チャンスボールを打つ『決め球』であっても、細心の注意が必要だ。

『決め球』を打つにはその状況も考慮に入れなければならない。

 その点、サービス側の俺は割とどこに球が来てもいいようなポジションについている。

 対してレシーブ側はコートの隅に着いている。弱いサーブを打ち返すためにな。


 これは、あまり『決め球』の打っていい状況じゃあない。


 たとえどんなチャンスボールであっても。ホラ、野球で打順とかあるだろ? 今の次二郎さん、一番バッターから全員がホームラン狙う感じ? になってるわけよ。

 まあ特にテニスは防御の事も考え必要があるからね。ああ、だからピッチャーの九番バッターが盗塁しまくる感じにも似てるのか? とにかく段取りに注意しないとダメなんだよ。


 つまり、あのヘロヘロサーブを打たれた時、次二郎さんがすべき最も有効な手段はちょっと走らせる位置にゆったりとしたレシーブを打つ事だったんだよ。

 そうしたゆったりとしたレシーブを打つことでまず、その『前面片側』という自分の最悪のポジションから調整していくことだったんだ。自分自分自分。

 まず自分の状況を考えないと勝てる者も勝てない。

 相手より自分、自分が全体の中で、どういう立ち位置にいるのか。

 全体がどうあると自分がよりよい行動ができるのか。

 自分がどう行動すればよりよい全体になるのか。

 それを考えないと。『相手を攻略』なんてのはずっと先の話だよ。わかった?」


 言いまくった。気持ちいい。

 良い事をした後というのは大変気持ちがいいものだ。

 俺のこの行為は良い事だ。だって試合中の相手にヒントを与えまくったのだ。

 それもこの場しのぎの助言ではない。

 今後もテニスをやっていく上で重要な助言だ。

 いや、そもそも段取りが必要、なんてのは人生の多くの部分であてはまるだろう。俺は次二郎の人生に関わる助言をしたのである


「うっせえ! 早く打て!」


 次二郎が俺にサーブを打つよう促す。

 きっと俺の助言を受け、新たな可能性を見出し、それを試してみたくなったのかもしれない。

 現在40―30。後一点とれば俺の勝ちか。

 俺は例の通り、ゆっくりとしたヘロヘロのサーブを打った。ポスンというこの音にも愛着が湧きつつある。


「っおおおおおッラア!」


 次二郎は俺の助言などどこ吹く風で、今までにない程強烈なレシーブをお見舞いしてきた。


「コイツ! まだこんな力を残してやがったのか!」


 なんてことは言わず、必死でその強烈なレシーブを捉える。

 今までで一番簡単に捉える。

 俺が打った球が浮かび上がった。ゆっくりとゆっくりと。

 それを確認し、次二郎は言った。


「俺は認めねえ! 認めねえぞ! こんなのはテニスじゃねえ!

 こんなクソつまんねえのはテニスじゃねえ! テニスってのは、いやスポーツってのは今の時代、見世物なんだ!

 見世物じゃなきゃなんねえんだ! それを、何の技もない、迫力もない、真っ向からの勝負でもない、そんな戦い方で俺から勝利を奪っていくんじゃねえ!

 実力は完全に俺のが上なんだ! それで勝っても喜ぶのはお前だけだ! そんなんが認められていいわけねえ!」


 次二郎のコートでボールが一度跳ねる。

 一度跳ねた球は、再び空を彷徨う。


「いいぜ……。その思想。かつての俺、最強だった頃の俺にそっくりだ……。アンタはもっと強くなる」


 実は知っていた。

 このプレーで、次二郎がどう打つかなんてのは。

 正確には狙ったと言った方が正しいのかもしれない。

 次二郎は最初と同じように、助言を無視して俺に向かって打ってきた。


 だってそうだろ。

 自分が敵に喧嘩吹っ掛けて、

 その敵が予想以上に弱くて、

 でもなんか知らない内に追い詰められてて、


 めちゃくちゃ焦って、

 そんな中、その敵から発せられた、

 嘘か本当かわからない助言、 挑発混じりの腹の立つ助言、

 それを素直に信じて、素直に従う。

 ……なんて真似、恥ずかしくて屈辱的な真似ができるわけない。

 それに耐えられるヘタレが、この学校で新しい部活に挑戦できるわけない。

 恐らく、あのままプレーしていたら、混乱した次二郎はテキトーなしょぼい球を繰り出していただろう。

 それではマズイ。


 俺が次二郎に言った事は事実だ。

 だからもし、しょぼい球を打たれていたら、確実に乱打戦に持ち込まれ、左手の俺は為す術がなかっただろう。


 いやー、助かった。

 再びボールが跳ねる。

 2バウンド目。

 40―30の3対2で迎えたシックスプレー。そこで、俺の放った打球が2バウンドした。


 俺の、勝ちだ。



        *




「オウ、チャン……? かつて、最強だった……?」


「あー、天さん? コール、コール」


 早く勝利に浮かれたい俺が天さんによる試合終了の合図を促す。

 なんだか天さんの集中している対象が試合ではなくなっていたような気がした。

 アレ? てか今のつぶやきって……。


「そうか、お前まさか凄嵯乃王か? 全中優勝した……」


 やっぱりそういう意味か。


「ほう……。知っていましたか。そうです、僕が“キング”です」


 俺は素直に関心した。


 全国優勝、と言ってもその選手を知っている人は少ない。

 結局、俺のことを知っているのは強豪校の人間ばかりだ。

 地区大会で負けていく弱小校の人間は強豪校との関わりも少なく、メディアで取り上げられもしない限り知らないだろう。

 俺は一応テニス雑誌でなんかコメントしたこともあるが、弱小校の人間で購読するようなのは珍しい。


 だから関心した。天さんはこちらの世界の人間なのかもしれない。


「『僕が“キング”です』だってー! 王ちゃんハズーい!」

「ハズーい!」


 天さんの少し後ろで腹の立つ声がした。蛭女とあのチャラい奴だ。

 と言うかなんだ。蛭女たちコートに入ってきてたのか。

 全然気がつかなかった。

 そんなに集中してたのだろうか。

 ああ、蛭女がこんな近くにいるなら、もっとカッコいい試合がしたかった。

 今になって内容が凄く恥ずかしい。


「おい天! コイツ、なかなかおもしろそうじゃん! さ! 勧誘しろよ!」

「ああ……」


 チャラい奴が天さんを小突く。てかいい加減名乗れ。

 あと、これから勧誘しようとしている人間の前で勧誘って言葉を使うな。今後の発言すべてが勧誘の為に思えて胡散臭くなるぞ。


 俺の気持ちはもう決まっているのに。


「おい! 一年の! えーと、オウちゃん!」


 チャラい奴が、今度は俺の方へ向き直る。お前に王ちゃんと呼ばれる筋合いはない。


「幼馴染は預かった! マネージャーとして!」


 な……!

 蛭女は髪をゆらし、短い舌をぺロリと出す。自分を親指で差し、誇らしげに言った。


「わたしは毎日くるぜ!」


 くっ! これじゃあ、毎日蛭女と登下校するにはテニス部に入るしかないじゃないか~。

 俺の監視下を逃れ誰かと仲良くするなど許せん!


 と脳内で真剣に思った。こう思って欲しいんだろ? それが狙いだろ?

 まあ、でも本心だ。

 ただ、ツンデレ男子日本代表たる俺としては、その勧誘にホイホイ乗っかることは出来ない。

 これに乗っかるのは蛭女と一緒にいたい俺の心情がバレてしまうからだ。

 勧誘としては逆効果である。チャラいが故に俺の考えが読めなかったようだ。


「邪……、そんなことしなくていい」


 天さんがチャラい奴の前にでる。

 天さんが……、跪いた。


「アニキっ……!」


 さっきまで放心していた次二郎がその光景に目を覚ます。

 しかし、負けた後はずいぶんとアホ面だったな。


「いいんだ。黒蹄の人間はこうあるべきなのだ」


 ふわりとした重みのある跪きっぷりだった。


「恥を忍んでお願いする。我が部に君の、凄嵯乃王の力は必要だ。

 ぜひとも我が部に入っていただきたい。

 ケガをした、との噂は耳に入っていたが、まさかこんな場末の学校に来て、こんな出会いになるとは思ってもみなかった。

 運命を感じたのだ。改めて言う。俺の為に我が部に入っていただきたい。

 ケガをした、と言っても君のプレイには感じるところがあったのだ」


 天さんの言葉には順序に乱れがあるものの、それが逆に誠意を感じる。

 でも、それは交渉だ。


「そんな~! 土下座なんてしなくていいですよ~!」


 俺は言った。

 天さんは跪いていた。交渉のポーズだ。

 でも俺は言った。

 だから俺は言った。


「土下座なんてやめてください~」


 何度でも。


「そんな! 後輩に土下座をするなんて、とんでもないですよ~」


 何度でも。

 天さんは空気を読んだ。

 天さんは土下座した。

 ここまで見事な土下座は見た事が無い。


「……お願いします」

「アニキっっ!」

「……いいんですか? 責任、重いですよ。

 御存知の通り、ボクは全中優勝経験者です。例え頑張ってインターハイを優勝しても現状維持にすぎません。

 そして、それ以下の可能性は非常に高く、それ以下なら世間の矛先はこの部にも向けられますよ?」


 俺は結構本気のトーンで尋ねる。


「その程度の覚悟、元から持っているさ」


 そう言って、天さんは俺のスニーカーを舐めた。素晴らしい。


「アニキィィッッ!」


 さっきからうるさいぞ、次二郎。お前の愛した黒蹄は、きっとこんなモンなんだよ。

 しかし、俺もイヤな奴だ。ツンデレ男子だ。もう心は動かないのに。結論など決まっているのに。


「その覚悟を信じましょう」


 天さんが顔を上げる。目が合った。


「入部……します。このテニス部に。またテニスしたいです」


 本心だ。次二郎とした試合の最中、だんだんとそんな想いがこみ上げていたのだ。

 使い物にならないと判断されたら、頼み込んででも入部していた。


「フフ……。ありがとう。悪いようにはしない。よろしく」


 天さんが土を払いながら立ち上がった。


「はは……! これで四人か! 団体戦、マジで出れるっぽいな! よろしく頼むぜー! やっぱこうだよな! 部活部活!」


 そのやり取りを見て、チャラい奴が声を上げた。両手を大きく広げて。

 コイツ一人が騒ぐだけで、なんだかコートが祝福ムードになる。偶には嫌いじゃない。


「…………ふん。一応よろしくな。許してねえけど」


 次二郎も俺の入部に大賛成な様子だ。

 蛭女はそんな空気の中で小さく微笑みながら拍手をしている。


「よし! 他にも見学が来るかもしれない! それっぽく練習始めるぞ!」


 天さんが仕切りの手拍子を叩き、ぞろぞろと部員達二人が練習を始める。


「……」


 取りあえず邪魔にならない隅に移動して、さっき置いた鞄を拾う。

 もう帰っていいのかな? と考えていると、


「王ちゃん」


 後ろから声がした。蛭女だ。なんかニヤニヤしている。

 そっと、さらに俺に近づいて、唇が触れそうなほどの耳元で囁いた。


「王ちゃんはね、もっと暴れて良いんだよ」


 まったくこのコは。なんなんだ。なんだってこう、俺のツボを正確に突くのだろうか。

 いや、もちろん耳に纏わりつく空気感は最高だったがそれではない。

 俺を良く知っている。これが幼馴染というやつか。

 その通りだ。あのケガをした日、優勝したあの日から今までずっと、俺は暴れる場所を探していたのかもしれない。

 俺は蛭女にぶつけていたのかもしれない。


 悪いことしたのかな。よく耐えてくれたな。少しだけ心配になる。

 でも、


「男の子なんだもん。仕方ないよ」


 そうそうそう! その通りだ。仕方ない!

 俺は今、この内にひそんでいる、よくわからない喜びの正体を実感した。

 暴れられる。

 これを待っていたのだ。

 最大の武器の右腕が壊れた。

 でも、俺には左腕も両脚も腰も背中も目も魂も残っていた。

 どれも成長している。

 工夫すればいくらでも闘う方法がある。

 まだ、闘える。 また暴れられる。


「でも王ちゃん、自分で気づいてよかったよ。これは言っちゃあダメな問題だったんだよ! さすが王ちゃんだね!」


 そうか。そうなのか。俺、手のひらで踊り狂いまくりじゃないか。


「帰ろう。明日から朝は早くて大変だぞ」


 いつぶりだろう。明日の話をしたのは。

 まだ闘えるまだ闘えるまだ闘える。

 また暴れられる。

 俺は久しぶりに舞いあがる事が出来た。

 もちろん、これを実現するにはどれほどの苦労と覚悟が必要かは知っているつもりだ。

 でも、負けた相手はみんな次二郎みたいなアホ面になるのだろうか。

 それだけで楽しみだ。

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