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1.出会い

「な、なんと面妖な……。 ここは魔界の入り口でござるか?」


 夏の日も落ちかけた夕方。久しぶりに高野山からふもとの街に降りてきた男は、腰に差した刀の位置を無意識に直した。


 彼の名は時宗。産まれたのは、今から450年以上も前になる。

 薄手の着物をいなせに着こなし、ざんばら髪を後ろで結んだその姿は、凛としていて時代劇の俳優のようだ。


「ついこの前までは、土の道、木の家でござったが……」


 時宗があまりの変化にきょろきょろしていると、まばらに歩いている周りの人もしきりに彼を見ている。中には、手に持った小さな箱のようなものを向けてくる者さえいる。


「あれから何年経ったのでござろうなぁ……」


 時宗は周囲の視線が気になりつつも、しばらく感慨にふけっていると、不意にどこからか女性の悲鳴に近い甲高い声が聞こえてきた。


「やめて下さい! 離して下さい!!」


 時宗は反射的に声のする方へ走り出した。しかし、周囲を歩くほとんどの人は素知らぬ顔だ。


 少し行くと、大きな建物の影になった場所で、黒髪の少女が三人の大男に取り囲まれていた。その周りを多くの人々が遠巻きにしている。

 少女は、勝ち気な顔で男達をきっとにらみつけ、気丈に振る舞っていた。しかし、その声は小刻みに震えている。


「こやつらは、どうして助けないのでござるか……」


 時宗は苦々しげにつぶやきながら、人の輪をかき分けて中に飛び込んだ。


「事情は知らぬが、その手を離せ!」

「あんだと、ごらぁ?」


 三人の大男のうち、ひときわ背の高い男が意味不明の悪態をつきながら振り返る。しかし、飛び込んできた時宗の姿を見て、男は思わず吹き出した。


「なんだ、その格好は?」

「拙者の格好はどうでもよい。 その手を離せ」

「拙者だってよっ、こいつキチじゃね?」


 大男はニヤニヤと笑いながら時宗の方へ手を伸ばしてくる。

 時宗は、その手をとってひねりながら大男の体勢を崩し、さっと足払いを掛けて地面に転がした。


 少女の手をつかんだまま同じくニヤニヤ見ていた残りの二人は、一瞬あっけにとられたが、すぐに怒声を上げて時宗につかみかかってくる。

 しかし、時宗は鮮やかな手並みで同じように彼らを地面に転がした。


 時宗は、地面に這いつくばる男達を背に、穏やかな笑顔でゆっくりと少女に近づく。

「大丈夫でござるか?」


 少女は言葉に詰まりながらも、長い黒髪をこくこくと上下に揺らせる。

 しかし、ほっとしていた少女の顔は、みるみるうちに恐怖で凍り付いていった。


 少女の視線の先へと時宗が振り返ると、起き上がった男達がすさまじい怒りの表情を浮かべて仁王立ちしていた。その手にはいずれにも大型のサバイバルナイフが握られている。

 あちこちで悲鳴が上がり、人の輪がぱっと散る。そのうち何人かは大声で助けを呼びはじめた。


「てめえ、ぶち殺す!」

 怒りに震えた声でリーダー格であろう男がわめく。


「そんなおもちゃは、懐に仕舞うでござるよ」

 時宗は、やれやれと言った顔だ。


「お、おもちゃだと?!」

 男達はさらに激昂し、ナイフを斜めに構えなおすと、一斉に殺到した。

 時宗は、少し顔をしかめると、腰の刀に左手を添える。

 チャキっという音がして、刀の柄がわずかに鞘から離れる。


「死ねや!!」

 眼前まで迫ってきた男達が突きだした大型ナイフは、時宗が目にも止まらぬ速さで抜き放った刀に弾かれ、三本とも宙高く跳ね上げられた。


 刀をどう振ったのか、何度振ったのかも定かではない。しかし、男達はみな手を押さえてうずくまった。

 時宗は慣れた手つきでひらりと刀を回し、鞘に収める。すると、空から落ちてきたナイフが道路に当たって盛大な金属音を響かせた。


「刀など振り回して驚かせたでござるか?」


 時宗は何事もなかったかのように穏やかに笑いながら少女の方へ振り向くと、少女は素早く首を横に振る。しかし、そわそわと周囲の様子を気にしているようだ。

 そう言えば、遠くの方からウーウーと犬の遠吠えのような甲高い音が沢山聞こえる。どうやらこちらに集まってくるらしい。


「とにかく一緒に来て!」

 少女は時宗の手を取って強くひっぱった。


 時宗はいぶかりがりながらも、とりあえず少女と一緒に、魔界と見まごうほどに見慣れぬ街の中を走り抜けていった。

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